ニンテンドー3DSで楽しんでいた人気RPG・ドラゴンクエストXIのソフトを友人に貸したら、自分がプレーしていたデータ(冒険の書)を消されてしまったーー。こうした被害に遭ったことがある人は、もしかしたらいるかもしれない。
ファミコンで楽しんでいた昭和末期から平成初期の頃は、扱い方のせいなのか、突如として不幸を告げるメロディーが流れ、データが消えるということはしばしばあった。ただ最近ではデータ保全の技術が発達し、人為的に消さない限りはデータが消えることは考えにくい。
ソフトを借りた友人としては、もともとあった貸主のデータを消さないよう十分気をつけるべきだし、例えばセーブデータに空きがなく、貸主のデータを消すなどしないとプレーできない状態であれば、その旨貸主に告げて相談するのが筋だろう。
友人が消してしまったデータを復元できない場合、貸主は民事上、どのような請求をし得るのだろうか。例えば原状回復義務を負わせることや慰謝料を支払わせることは可能なのか。「ドラクエXI」をクリアしたことのある鬼沢健士弁護士に聞いた。
●原状回復請求を認める法律上の根拠はない
ーーデータ削除前の状態に戻せという原状回復請求は認められますか
「これは認められません。原状回復請求を認める法律上の根拠がありません。現実的にも、世界に1つのものを壊してしまった場合などは原状回復することは不可能です。したがって、金銭の支払いによって解決することになります。このことは民法417条、722条にも明記されています。
ーー請求できる可能性がある金銭はどのように考えればいいですか
「ゲームソフト自体を壊したわけではありませんから、ソフトの修理代や買替費用の請求はできません。ゲームデータそのものに財産的価値を見いだせれば、その時価について賠償請求が認められることになりますが、ゲームデータを売って金銭に変えることは一般的ではなく、財産的価値がないと評価されると考えます」
●慰謝料請求もハードル高い
ーーでは慰謝料は認められませんか
「ゲームデータを消去したケースにおける慰謝料については、事例がほぼありません。物を壊されたケースを参考にすると、裁判所は原則として慰謝料の請求を認めません。
大事に飼ってきたペット(訴訟において動物は『物』として扱われます)を死なされてしまったケースでさえ、裁判所は慰謝料請求を認めないことがあります。こういう傾向にある裁判所が、愛着のあるゲームデータが消去されたケースで慰謝料を認めるかといったら、可能性は低いのではないかと思います。
ゲームという娯楽に対して、そこまでの価値は認めないでしょう。もっとも、私が裁判官なら認めてしまうかもしれません(笑)」
●結局は自衛措置頼み
ーーそうすると自衛措置をとっておくしかないのでしょうか
「ゲームデータという大事なものを消去されてしまった人に対する補償は現行法上、ほぼ認められていないと言わざるを得ません。
とはいえ、データ保存技術が向上したことに伴い、データの価値は以前より高まっていることは間違いありません。法律が追いついていないところがあると思います。ゲームソフトを貸す場合には、バックアップがとれるものであればできるだけバックアップをとっておくなどの自衛措置をとりましょう」