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iPhone X発売で指紋から顔認証の時代に…不倫の証拠集めに影響が出る?
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iPhone X発売で指紋から顔認証の時代に…不倫の証拠集めに影響が出る?

先日発売された「iPhone X」。これまでの「Touch ID」に代わる機能として、顔認証機能「Face ID」に注目が集まっている。Gigazineによると、他人が認証を突破する確率は100万分の1と従来の認証機能に比べてとても低くなっているそうだが、すでにこの「Face ID」を突破した人がいるという。

初期のテストでは、双子が「Face ID」を突破しうることが明らかにされていたが、今回、ある持ち主の弟が認証を突破したことが動画で報告されている。持ち主と類似したメガネをかけたところ認証を突破できたといい、顔の特徴の類似性やメガネが認証の精度に影響を与える可能性があることを示唆している。

持ち主の許可を得ることなく、他人がメガネなどで「Face ID」をだまして突破した場合、不正アクセスにあたらないのだろうか。また、指紋認証から顔認証が主流になった場合、法律トラブルが減るのか。澤藤亮介弁護士に聞いた。

●他人が本体のロックを解除しても「不正アクセス」にはならない

「そもそも、本人以外の人物がiPhone本体のロックを解除すること自体は、『不正アクセス禁止法』の『不正アクセス行為』には該当しません。

この法律で禁止されているのは、ネットワークを介した不正アクセスです。顔認証によるiPhone本体のロック解除は、ネットワークを介さない機能なので、この法律の対象とならないのです」

ただし、澤藤弁護士は次のように続ける。

「しかし、ロック解除後に、iPhone本体に記憶されているIDとパスワードを使用して、インターネット上のサービスを利用すれば話は別です。

Yahoo!メールやGmailなどを立ち上げて、iPhone使用者本人のメールを閲覧したり、楽天、Amazonなどで買物をすれば、同法の『不正アクセス行為』に該当し、処罰の対象となります。法定刑は3年以下の懲役又は100万円以下の罰金です。こうした行為はほかに、刑法の『電子計算機使用詐欺罪』に該当する可能性も出てきます」

澤藤弁護士はまた、民事上の責任についても注意を促す。

「勝手にロックを解除して、iPhone本体に記録されている情報を盗み見した場合、ネットワークを介したかどうかに関わらず『プライバシー権の侵害』になる可能性があります。さらに盗み見た情報を第三者に公開までしてしまうと、民法上の『不法行為』として、持ち主から損害賠償を請求される可能性も考えられます」

●顔認証で不倫発覚のトラブルが減る可能性

顔認証機能の普及によって、法的なトラブルは増えるのか、それとも減るのか。

「上述のとおり、顔認証自体の精度の問題はあるかと思いますが、離婚事件や不倫慰謝料事件などの事案では、指紋認証から顔認証に変わることによって、寝ている間に本体ロックを解除されるといった自己に意思に反する情報漏洩が減り、その結果、不倫などが発覚してトラブルが生じる可能性は低くなるかもしれません。

また、私も実際に使ってみての実感ですが、指紋認証よりも顔認証の方が、認証がはるかに楽ため、本体だけでなく、LINEなどの知られたくない情報が含まれるアプリ自体にFace IDでロックを掛けたとしても使い勝手が悪くならないため、いいか悪いかは別として、普段から本体ロックとアプリロックのいわば『二重のロック』を掛けることにより、さらに自己の意思に反した情報漏洩を防止できるのではないかと思われます。

離婚問題をめぐっては、不倫の証拠を集めるため、寝ている配偶者の指をスマホに当てて、指紋認証を突破したという事例もあるそうだが、顔認証で、寝ている人の顔で認証を突破できた場合、法的な問題になることはないのか。

「収集に至る経緯や収集方法などにもよるかと思いますが、例えば離婚に関する紛争で自分に有利な証拠を収集するために、配偶者の意思に反してスマートフォンの指紋や顔認証を解除し、ローカルデータを取得した場合、プライバシーの観点からは決して好ましくはないですが、法的に直ちに損害賠償が請求できる『不法行為』が成立するとまでは言い難いです。

実際、民事訴訟上の実務でも、証拠を提出する側が、認証解除して収集したデータを証拠として提出することによって『不法行為ではないか』との相手方の反論を恐れて提出を控えることはあまりありません。その種のデータは多く証拠として提出され、不貞行為などの立証に使われています。

ただ、証拠として提出した場合でも、その取得方法等が社会相当性を著しく欠くと評価され、証拠として採用することはできないと裁判所に判断されることもありますので注意が必要です」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

澤藤 亮介
澤藤 亮介(さわふじ りょうすけ)弁護士 向陽法律事務所
東京弁護士会所属。2003年弁護士登録。2010年に新宿(東京)キーウェスト法律事務所を設立後、離婚、男女問題、相続などを中心に取り扱い、2024年2月から現在の法律事務所でパートナー弁護士として勤務。自身がApple製品全般を好きなこともあり、ITをフル活用し業務の効率化を図っている。日経BP社『iPadで行こう!』などにも寄稿。

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