プロ野球・北海道日本ハムファイターズの栗山英樹監督が、ドラフト1位指名した清宮幸太郎内野手(18=早実)に対し、「20歳までの恋愛禁止」を命じる意向を示している。誘惑に気をとられることなく、野球に打ち込むことを期待してとのことだという。
複数のスポーツ紙によると、栗山監督は、清宮選手にも大谷翔平投手のために作った、外出許可制度「大谷ルール」を課す方針。さらに、「20歳までは野球に集中して欲しい」(日刊スポーツ・11月6日)と「恋愛禁止令」も出すつもりだという。
監督が選手を成長させたいと思うことは当然だ。しかし、アイドルですら問題視されることがある恋愛禁止。プロ野球選手の恋愛にまで制限をかけることは、許されるのだろうか。村上英樹弁護士に聞いた。
●栗山監督の「愛ある教育的指導」か「契約」か?
ーー清宮選手への恋愛禁止令は問題ない?
まず、栗山監督の恋愛禁止令の「位置づけ」が何かを考える必要があります。
ーー「位置づけ」というと?
恋愛禁止令が、監督から選手に対する「指導」なのか、それとも、球団と選手との間の「契約」なのか、です。
ーー「指導」と「契約」とでどう違う?
単なる「指導」であるならば、恋愛禁止令に反しただけで、選手が「クビ」になったり、金銭的なペナルティを受けたりはしません。
しかし、恋愛禁止が「契約」の内容ならば、恋愛をすることは契約違反になり、場合によって「クビ」(契約更新されない)になったり、金銭的なペナルティを受けたりする可能性が出てきます。
ーー恋愛を禁止する契約だった場合は?
憲法が関係してきます。プロ野球選手と球団との契約関係の場合、憲法は直接適用されませんが、憲法の趣旨に反する契約は無効になるなど制限される場合があります。
この点、参考になる裁判例があります。2016年1月18日東京地方裁判所の判決で、女性アイドルと芸能プロダクションとの訴訟です。
いわゆる恋愛禁止条項が契約で定められていたのですが、裁判所は契約の文字通りではなく、限定的な解釈をしました。
裁判所は、恋愛禁止条項がアイドルのイメージを守るためという意味があることは認めながらも、一方で、恋愛感情を持つことや他人と交際する自由は「幸福を追求する自由」であるとして、損害賠償請求される場合はアイドルが芸能プロダクションに対して積極的に損害を生じさせようとの意図をもって行った場合などに限られる、としたのです。
裁判所は、この事件でのアイドルの男女交際はそこまでのものではないとして、プロダクションの損害賠償請求を退けています。恋愛の自由を憲法13条の幸福追求権の一種として尊重する考え方をとったものと思われます。
ーーでは、プロ野球選手の場合は?
アイドルの場合と違って、プロ野球選手が恋愛をすることについては、その職業特有のイメージを害するというわけではありません。
契約で恋愛を禁止するということは、憲法13条の考え方に反する可能性が高く、無効な条項になってしまうおそれが大きいと思います。
もっとも、栗山監督の恋愛禁止令は、「恋愛禁止」そのものが大事というより、清宮選手が一番大切な時期に野球に全力を傾けられるように、という教育的な指導だと思われます。おそらく、球団との契約で「恋愛禁止」と清宮選手をしばるという話ではないでしょう。
栗山監督としても、恋愛感情を持つこと自体は誰にも止めることは出来ないということは十分分かった上での、愛ある教育的指導だろうと思います。
私の勝手な想像ですが、もし仮に清宮選手が恋愛をしたとして、それが本当に真剣な恋愛であり、相手の人と共に高め合えるようなものであり、清宮選手が野球に集中することを妨げないものであれば、監督も認めるのではないでしょうか。