独立行政法人・造幣局の元職員の男性(懲戒免職)が、当時の勤務先から盗んで質入れした金塊やメダル(計約7000万円相当)をめぐって、造幣局が2つの質屋に対して返還をもとめて東京地裁に提訴した。
法律上、盗難から2年以内なら、元の所有者が返還を求めることができるとされている。報道によると、質屋側は「元職員の行為は窃盗でなく、業務上横領にあたる。造幣局は返還をもとめることができない」と反論しているという。
男性は2014年4月から2016年5月にかけて、勤めていた造幣局から金塊などを盗んだ窃盗罪に問われて、今年4月にさいたま地裁で懲役5年の判決を受けて確定した。はたして、質屋側の主張は認められるのだろうか。田沢剛弁護士に聞いた。
●民法のルールはどうなっているのか?
「まず、法律上、『取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する』として、『即時取得』(善意取得)がみとめられています(民法192条)。
つまり、普通の取引で手に入れたのなら、その人の物になるというのが原則です。
この制度は、動産については権利の登記・登録のような公示制度がなく、占有している者が権利者であると信じてしまうこともやむを得ないため、動産取引の安全を図るために設けられた制度です。
他人に預けていた物が、勝手に売られる場合のように、そもそも自分の意思で物の占有を他人に委ねていた場合でも、そうしたリスクを考えるべきで、被害を受けた所有者よりも善意で取得した(普通の取引で手に入れた)第三者のほうが保護されるべきだ、という価値判断があります。
しかし、盗難の被害に遭うなど、自分の意思で物の占有を他人に委ねたのではないような場合にまで、第三者のほうを無制限に保護することは相当ではありません。
そのため、『占有物が盗品または遺失物であるとき』は、盗まれた時や遺失した時から2年間に限って、占有者に対して返還請求ができるものとして、即時取得の例外がみとめられています(民法193条)。
今回のケースでは、元職員が刑事裁判で「窃盗罪」の有罪判決を受けている。
「刑事裁判で、質屋の占有物は『盗品』とされているにもかかわらず、民事裁判で、元職員の行為が、横領あるいは詐欺にあたり、質屋の占有物(金塊)が『盗品ではない』として争えるのかがポイントとなります。この点について、争うこと自体は可能といえます」
●「質屋側」の主張は認められるか?
どちらの主張に分がありそうか。
「刑事裁判は、国家による刑罰権があるか否か、あるいはその範囲を確定させるものです。民事裁判にくらべて、有罪立証のハードルは高いとされています。
そうすると、刑事裁判で『窃盗罪』とみとめられたということは、元職員は、金塊やメダルを自分で占有していたのではなく、他人の占有を侵奪したものであることの十分な証拠があったからにほかならないといえます。
したがって、『盗品ではない』とする質屋側の主張は、立証面で厳しいのではないかと予想します」
もし仮に、質屋側が裁判で勝った場合、どうなるのか。
「仮に質屋側が勝った場合、造幣局としては、物を取り戻す権利をみとめられなかったのですから、質屋に対して、対価を支払って買い取る交渉をするか、それとも、元職員に対して損害賠償を請求するか、ということになるでしょう」