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「IoT」で企業のトイレ利用状況を可視化…誰が使っているかまで特定したらダメ?
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「IoT」で企業のトイレ利用状況を可視化…誰が使っているかまで特定したらダメ?

IoT(Internet of Things)の波はいよいよトイレにまでーー。インテリジェンス・ビジネスソリューションズは11月17日、企業などのトイレの個室の利用状況を可視化して、空き予測を表示するツール「Toilet IoT」をリリースした。

同社のリリースによると、トイレの各扉に磁気開閉センサーを設置。扉の開閉で利用状況を把握して、可視化する。従業員はリアルタイムで更新される利用状況や空き予測「すぐ空く」「少し待つ」「だいぶ待つ」を確認できる。また、個室ごとの利用時間がユーザー画面に表示されるため、長時間利用者の意識改革にもつながるという。

このサービスの背景には、トイレでスマホをいじる人が増えるなどして、個室が長時間占有されることを解消する狙いがあるそうだが、労働時間の観点から、トイレで用を足すことはそもそも労働時間としてどういう扱いになっているのだろうか。

また、このサービスがさらに進化すれば、誰がどれだけトイレを利用しているかの把握も容易になることが考えられるが、個人が特定できる形でトイレ利用時間を把握することに問題はないのだろうか。石原一樹弁護士に聞いた。

●トイレ利用時間は「労働時間」?

「労働時間とは、休憩時間を除いた時間であり、現に労働させる時間である(労基法32条)と定義されています。

そして、現に労働させる時間については、『使用者の指揮監督下にある時間』、つまり、『使用者から義務付けられ、または余儀なくされた』かどうかによって判断すべきとされています」

石原弁護士はこのように述べる。こうした定義からすると、トイレの利用時間についてどう考えればいいのか。

「従業員がトイレに行くこと自体は、生理現象でもあるため、使用者から義務付けられているわけではありません。

一方で、労働から解放されているわけではないので、法定の休憩時間と評価することも難しいと思います。

休憩時間とは、「労働時間の途中に置かれた、権利として労働者が労働から離れることを保障された時間」とされているからです。

そうすると、原則としては、このようなトイレに行く時間も(常識的な範囲であれば)実質的に労働時間とみなされるでしょう。しかし、トイレの時間が不必要に長かったり、回数が多かったりする場合には、労働時間とみなされない可能性があります。

ましてや、従業員がトイレで長時間スマホゲームをしていたとなると、従業員の『労務提供義務違反』となる可能性があります」

●個人が特定されるような運用は、「プライバシー」との関係で問題となる

そうした義務違反を防ぐという名目であれば、トイレの使用状況を監視するということは許されるのか。

「使用者としては、たとえば、従業員の労働時間の確保や、労働の能率化を図る目的においては、トイレの使用状況を可視化する必要性があると考えられます。

他方、単にトイレの空き室状況を把握するだけでなく、さらに進んで、社員証や会社用携帯電話の機能を使用して、個人が特定されるようになれば、目的を達成するための手段としては『やりすぎ』となる可能性があります。

従業員としては、監視されているという恐怖を感じ、結果としてプライバシーとの関係でも問題になる可能性があるからです。

先日、福井県の給食センターでは、調理時間中は排便を禁止することを衛生管理マニュアルに盛り込んだというニュースが話題になりました。『IoT』の発展により、人が厳格に管理される社会が一層進むのかもしれません」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

石原 一樹
石原 一樹(いしはら かずき)弁護士 Seven Rich法律事務所
弁護士2012年に弁護士登録後、ヤフー株式会社に入社し、企業内弁護士としてインターネットに関する法務業務に従事。その後外資系法律事務所を経てSeven Rich法律事務所を設立。日本国内外を問わず積極的にスタートアップ企業やベンチャー企業へのリーガルサービスも提供している。

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