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人工知能で裁判が自動化? 弁護士業務が「ロボット」に奪われる可能性はあるのか
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人工知能で裁判が自動化? 弁護士業務が「ロボット」に奪われる可能性はあるのか

「ロボットは人から仕事を奪うのか」。そんな見出しの記事が、ニュースサイト「NewsPicks」で話題になった。

記事は「MIT Technology Review」の翻訳だ。「コンピュータを利用するオートメーションが、製造から意思決定に至るまで、あらゆる分野にますます入り込みつつある」と指摘。「ソフトウェアとデジタルテクノロジーが、さまざまな日常業務を代わりに行うようになってきている」と分析していた。

弁護士のような専門的な職種でも、その業務をロボットや人工知能に奪われる可能性があるのだろうか。弁護士ドットコムに登録している弁護士に意見を聞いた。

●「ロボットに仕事を奪われる可能性あり」が多数派

以下の3つの選択肢から回答を求めたところ、12人の弁護士から回答が寄せられた。
1 弁護士の業務はロボット・人工知能に奪われる可能性はある → 8人
2 弁護士の業務はロボット・人工知能に奪われる可能性はない → 2人
3 どちらでもない → 3人

<奪われる可能性はある>という回答には、人工知能が善悪の価値判断ができるようになれば、「裁判官も検察官も不要となる」といった、司法サービス全体がロボットに奪われる可能性を指摘する意見があった。

一方で、<奪われる可能性はある>と回答した弁護士の中にも、全部の業務が奪われる可能性は低いことを指摘する弁護士もいた。「駆け引きの要素があるものは、代替は困難」として、「人間と人工知能の共同作業になる」と予想していた。<どちらでもない>の回答も、奪われるのは「定型的な業務に限られる」との意見が目立った。

回答のうち、自由記述欄で意見を表明した弁護士11人のコメント(全文)を以下に紹介する。(掲載順は、奪われる可能性はある→可能性はない→どちらでもないの順)

●弁護士の業務はロボット・人工知能に奪われる可能性はある。

【太田 哲郎弁護士】「人工知能が、具体的事案について、当方の手持ち証拠を与えられ、依頼者とのコミュニケーション能力、争点について立証すべき事実とその方法を設定する能力、立証するための文書作成技能等を有するに至れば、十分に、人間の弁護士に代わって、業務を遂行することができると考えます。普通の弁護士が行っている業務よりはるかに難しい将棋において、プロが、人工知能にかなわなくなっている現状からみて、弁護士業務がすべて人工知能にとってかわられるのも、数十年とたたずに実現するのではないでしょうか」

【岡田 晃朝弁護士】「可能性はあるでしょうが、それが可能になった時点では、世の中の労務のほぼ全てがコンピューターで可能になっているでしょう。
人の感情を理解し、社会常識なども理解の上で、あらゆる具体的事情を前提に、相当の検討をするわけですからです。
それは相当に先になるはずです。
もし、この質問が、法と判例から、機械的なだいたいの相場が見れるようになる程度の意味でしたら、分野によっては、近い将来に可能かもしれません」

【中尾田 隆弁護士】「弁護士の仕事の基本は、事実を法的に評価すること、法的評価を前提にアドバイスや交渉等をすることだと思います。これを行うためには、法的価値観が必要となりますが、人工知能が弁護士業務をサポートすることは出来るようになるかも知れません。これを超えて人工知能が善悪などの価値判断ができるようになった時には、弁護士だけでなく、裁判官も検察官も不要となるかも知れませんね」

【大貫 憲介弁護士】「弁護士業務のうち、契約書作成等のマニュアル化しやすい業務は、人工知能で代替可能でしょう。交渉、調停、訴訟などの人間的要素が強いもの、駆け引きの要素があるものは、代替は困難と思います。ただし、交渉、調停、尋問での攻め方、守り方、駆け引きにもパターンがあるので、将来は、人間と人工知能の共同作業になると予想します」

【杉山 伸也弁護士】「どんな仕事にも言えることですが、ロボットや人工知能により人間の仕事が取って代わられるのは歴史の必然です。例えば初歩的な人工知能といえる電卓ひとつ取っても『計算』という仕事を人間に取って代わってこなしているのですから。ただ、完全に自立した人工知能の支配する世界、それこそ映画のターミネーターやマトリックスのような世界にでもならない限り、ロボットの操縦者たる人間は残る。その意味で、弁護士の仕事も変容しながら続いていくのだと思います」

【飛渡 貴之弁護士】「どんな専門職であろうと、新しいものを作り出すのではなく、既存のものから考えていくものは、考えるパターンがあるということでしょう。そうだとすると、アルゴリズムを作ることが出来ることになるので、ロボット・人工知能ができるということになるのではのではないでしょうか。さらに、学習できるとなれば、将来的には、ロボットが、ほとんどすべての職業をすることができることになるのではないでしょうか」

●弁護士の業務はロボット・人工知能に奪われる可能性はない

【濵門 俊也弁護士】「弁護士の業務としてどのようなものを想定しているのかが不明ですが、感情をもたないロボットにとって代わられるほど甘くないと思います。単純な案件で、法律の解釈もいらず単純に適用すればいいだけならともかく、そのような事案は一つとしてありません。弁護士にとって最も重要なのは、法律が素直に適用できない問題に対しても新しい解釈を与え処理をしていくことにありますから、感情はどうしても必要となるはずです」

【秋山 直人弁護士】「弁護士の業務の中心は、裁判を例にとっていえば、人の話を聞き、資料を検討し、それらを整理して、裁判官に分かりやすく言い分を示すことです。紛争となるとお互い感情も相当にからみますので、右から左にというわけにはいきません。
証拠作成等の事務作業はロボットができるようになるかもしれませんが、弁護士の中心業務は、個別性が強く、また依頼者の感情をうまく受け止めてほぐしていくことも必要ですから、そうそうロボットができるものではないと思います」

●どちらでもない

【高岡 輝征弁護士】「可能性でいえば、どちらの可能性もあるでしょうし、割合の多寡はあれど共存の可能性もあると思います。例えば、セカンドオピニオンとして、人工知能に問うというのは、よきにつけ悪きにつけ、有用ではないでしょうか。自分の問題を、弁護士である人に任せるか、そうでないものに任せるかは、価値観やトレンドにも左右され、現時点では正直分からないです」

【武山 茂樹弁護士】「業務内容によると思います。単純な過払金返還請求や、残業代請求、交通事故等の事案は、近い将来、ロボットにとって代わられる可能性が高いと思います。もちろん、上記の事案でも、事実認定や過失等争いがある場合は別ですが。一方、証人尋問まで必要とする訴訟事務は、駆け引きや感情等もあるので、ロボットがやるにせよ数百年先でしょう」

【西口 竜司弁護士】「事件の内容によって変わってくるかと思います。破産や過払い等定型的なものは対応可能かと思います。しかし、ほとんどの事件では定型的に進めることができず、人工知能では難しいのではないかと思います。イメージ的に言えば、大工仕事のようなものかと思います。やはりある程度の知識と定型化できない経験がものをいうと思います」

▼編集後記

アンケートに回答した12人の弁護士のうち、8人が<弁護士の業務はロボット・人工知能に奪われる可能性はある>を選択した。一方で、<奪われる可能性はない>を選択したのは2人にとどまった。<どちらでもない>は3人だった。

<奪われる可能性はある>の回答には、「人工知能が善悪が価値判断ができるようになれば、「裁判官も検察官も不要となる」といった、司法サービス全体がロボットに奪われる可能性を指摘する意見があった。

一方で、<奪われる可能性はある>と回答した弁護士の中にも、全部の業務が奪われる可能性は薄いことを指摘する弁護士も。「駆け引きの要素があるものは、代替は困難」として、「人間と人工知能の共同作業になる」と予想していた。<どちらでもない>の回答も、奪われるのは「定型的な業務に限られる」という趣旨の意見が目立った。

専門職の弁護士でも、ロボットが自分の業務を奪う可能性があると答えた回答が多かったことが印象的だった。IT技術は目覚ましいスピードで進化している。どんな専門的な仕事でも、一度知識や技能を身につければ、「一生安泰」とあぐらをかいていられる時代は、過去のことなのかもしれない。

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