子どもをSNSから遠ざけるべきか、それとも使いながら学ばせるべきか──。
オーストラリアで2025年12月、16歳未満のSNS利用を禁止する法律が施行されるなど、世界各国で子どものSNS利用を制限する動きが広がっている。
日本でも自民党内で議論が進む中、専門家から「単純な禁止では問題は解決しない」といった声が上がっている。
5月18日、東京・永田町で開かれた院内集会「SNSの青少年利用規制について考える」(主催:NPO法人うぐいすリボン)では、研究者や弁護士がSNS規制のあり方や事業者責任について議論した。
●子どもや保護者の自己責任に限界
集会に登壇した仙台大学教授の齋藤長行氏(社会情報学者)は、OECD(経済協力開発機構)で子どものインターネット保護に関する勧告策定に携わった経験を持つ。
齋藤氏はまず、オーストラリアが導入した「16歳未満のSNSアカウント作成を原則禁止」とする規制が、国際的な議論の焦点となっている状況を紹介。
報道では追随する国が増えているように見えるものの、実際には「一律制限」が多数派というわけではなく、子どもが安全に参加できるSNS設計を重視する考え方も有力だと指摘した。
さらに、EUやイギリスでは、子ども本人や保護者の“自己責任”ではなく、事業者側に安全確保の責任を求める方向で制度設計が進んでいると説明。推薦機能や無限スクロール、自動再生、ターゲティング広告など、SNSの設計自体が子どもを長時間利用へ誘導していると述べた。
そのうえで「エンゲージメント至上主義のビジネスモデルによって、子どもを熱中させ続ける構造になっている。子どもへのリテラシー教育だけでは対処しきれない」と語り、事業者の責任の重要性をうったえた。
齋藤長行教授(弁護士ドットコム撮影)
●SNS通じた「仲間とのつながり」守るべき
一方で、齋藤氏は単純な年齢制限には慎重な姿勢を示した。
オーストラリアのような一律規制について、「政治的にはわかりやすい」としつつ、「問題の本質は年齢制限ではなく、SNSの仕組みが生み出すリスクへの対処にある」と指摘した。
また、SNSには、離島居住者や難病患者、LGBTQ当事者など、リアルでは出会いにくい人々をつなぐ役割もあると説明。「仲間とのつながりを奪ってはいけない」と語った。
そのうえで「禁止よりも、安全な参加環境をどう作るかが重要だ」と強調。子どもを単に「危険から守る対象」としてだけでなく、SNSなどを通じて社会参加する権利を持つ存在として捉える必要があると述べた。
●技術的に「危ない発信」を止める仕組みを
元モバイルコンテンツ審査・運用監視機構理事の上沼紫野弁護士は、日本の「青少年インターネット環境整備法」の成立当初から制度に関わってきた立場から、日本の規制の歴史や課題について説明した。
上沼弁護士は、現在の法律が「閲覧防止」を中心に設計されている点を問題視。「インターネットの本質は相互性や発信にあるのに、受信だけを問題にしている」と指摘した。
そのうえで、子どもによる「自画撮り画像の送信」や誹謗中傷投稿など、“発信側”のリスクへの対策が不十分だとうったえた。
実際に、弁護士会に寄せられる子どもからの相談には、「自画撮り画像を送ってしまった」「児童ポルノ画像を転送してしまった」「誹謗中傷投稿をしてしまった」といった自ら発信した行為に関するものが多いという。
上沼弁護士は、「送る前に危険を察知して警告する仕組み」や「肌色の多い画像送信を止める機能」など、技術的な対策の必要性を指摘。「本当に危ない投稿の時だけ警告を出す仕組みは有効だ」と述べた。
上沼紫野弁護士(弁護士ドットコム撮影)
●「蓋をする」だけでなく包括的な議論を
また、上沼弁護士は、オーストラリア型の規制についても、「禁止されていたものが、16歳になった瞬間にSNSデビューするほうが怖い」と懸念を示した。
「小さく失敗しながら、徐々にネットとの付き合い方を学ぶ環境が必要だ」と語った。
最後に上沼弁護士は、「青少年保護の議論がされていること自体はありがたい」としたうえで、「ただ『蓋をすればいい』と思ってほしくない。見えているところに蓋をしても、問題は横から出てくる」と述べ、包括的な議論の必要性をうったえた。
これを受け、齋藤氏はこの問題を「振り子」に例えた。規制強化の方向と自由尊重の間で社会が揺れ動きながら、議論そのものを成熟させていくプロセスが重要だと語った。