「ライバー」と呼ばれるライブ配信者が所属する事務所4社に対して、公正取引委員会はこのほど、独占禁止法に違反するおそれのある行為があるとして注意をおこなった。
所属ライバーとのマネジメント契約において、契約終了後も一定期間、ライブ配信活動や他の事務所との契約、同種事業の経営を不当に制限する規定を設けていた事実が認められたという。
公取委は、クリエイター支援のための取引適正化に向けた取り組みの一環として、ライバーの移籍や独立を不当にけん制する姿勢にくぎを刺したかたちだ。
今回の措置について、公取委への情報協力をおこなってきた佐藤大和弁護士は、公取委の狙いや、ライブ配信バブルの裏側でライバー市場にどのような影響がもたらされるのかを語った。
●「Pococha」で活動するライバーの事務所に注意があった
公取委は、ライブ配信プラットフォーム「Pococha」で活動するライバーのマネジメントをおこなう事務所4社(株式会社AEGIS GROUP、株式会社Colors、株式会社321、株式会社WASABI)に対し、所属ライバーとの契約内容について注意をおこなった。
問題とされたのは、これらの事務所がライバーと締結していたマネジメント契約において、契約終了後の一定期間、以下の行為を禁止する規定を設けていた点だ。
• ライブ配信活動をおこなうこと
• 他のライバー事務所との間でマネジメント契約を締結すること
• 自社と同種の事業を営むこと
こうした契約条項について、公取委は独占禁止法上問題となるおそれがあると判断した。この注意から何が読み取れるのか。ライバー問題にくわしい佐藤弁護士に聞いた。
●ライバー事務所の姿勢を正す意図があったとみる
公正取引委員会(Himakina / PIXTA)
──公取委による注意の狙いはどこにあるのでしょうか。
今回、公取委の最大の狙いは、ライバー事務所との取引(契約)に関する問題を是正し、クリエイター支援のための取引適正化を図ることにあると考えています。
注意を受けた4社は、ライバーとの契約終了後も一定期間、ライブ配信活動そのものや、他事務所との契約、同種事業の経営を禁止する規定を設けていました。
公取委は、こうした契約条項がライバーの移籍や独立を不当にけん制し、自由な競争を阻害するおそれがあると判断したのでしょう。ライバー事務所の姿勢を正し、自由で健全な競争環境を整備するという、明確な意図があったとみています。
●弁護士に寄せられる「ライバーの苦しみ」
──ライバー側には、どのような悩みがあるのでしょうか。
私が所属する法律事務所には、毎日のようにライバー側から切実な相談が寄せられています。
とくに多いのが、今回問題となったような「契約終了後も一定期間にわたって活動を制限する規定」や、契約終了後に高額な違約金を課す規定に関する相談です。そのほか、アカウント移行手続きに協力しないなど、移籍を妨害する行為についての相談も少なくありません。
裁判所でも、仮処分事件において、こうした規定に基づく芸能事務所側の対応について「債権者(ライバー)の芸能活動を妨害してはならない」と判断する例も相次いでいます。私自身も、こうした実態を踏まえて、公取委に積極的に情報提供をしてきました。
公取委が注意に踏み切った背景には、「辞めたくても辞められない」「引退後も活動を制限される」といったライバーの切実な声や、裁判所の判断の積み重ねがあったのではないでしょうか。
●移籍制限が緩和された先にある「実力主義の市場」
──今回の注意は、ライバーや事務所にどのような影響を与えるでしょうか。
本来、ライバーを含む実演家は、自身の芸能活動を円滑にするために、マネジメント業務を事務所に委託しています。そして、実演家が自由に活動できて初めて、より創造的で魅力的なコンテンツが生まれ、業界全体の発展につながります。
不当な移籍制限は、こうした健全な成長を阻害する要因となっていたと考えています。
今回の注意をきっかけに、ライバーの移籍が活発化し、それに伴って、ライバー事務所のマネジメント業務の質が問われるようになるでしょう。質を高められない事務所は淘汰され、ライバーの人材獲得市場は「流動性の高い、実力主義の市場」へと変貌していくでしょう。
これまでのように契約でライバーを縛り付けるやり方は、もはや通用しません。ライバーは、自分を正当に評価し、あるいは十分なサポート体制を提供してくれる事務所を自由に選べるようになります。
その結果、事務所側には、契約による拘束ではなく、「選ばれ続けるための価値」、つまりマネジメント力や還元率の向上が強く求められるようになるでしょう。
●ライブ配信バブルの裏で起きていた「人材の囲い込み戦争」
──ライバーの移籍が活発化した先には、どんな変化が起きるでしょうか。
これまで、各ライバー事務所は、ライブ配信バブルの裏側で、人材を確保するために不当な契約でライバーを拘束し、流出を防ぐ構造を作ってきました。
しかし、今後は、先ほど述べたとおり、不当な契約に頼るのではなく、「ライバーに選ばれ続けるための価値」を競う時代になります。生き残りをかけたサポート体制の差別化が進むでしょう。
結果として、不当な拘束に依存する事務所や経営能力の乏しい事務所は徐々に淘汰され、ライバーから支持される事務所だけが生き残る構造にシフトしていくとみています。
●業界、YouTube業界にも波及する「大きな一石」
ライバーのイメージ(Graphs / PIXTA)
──ライバー以外の業界への影響はありますか。
今回の公取委の判断は、ライバー業界にとどまらず、マネジメント事務所が存在するエンターテインメント業界全体に波及していくと思います。
これはライバー特有の問題ではなく、むしろ芸能業界が長年抱えてきた構造的な問題です。YouTuber、VTuber、さらには急速に拡大するeスポーツ業界でも、同様のトラブルが頻発しています。
特にVTuber業界では、移籍や退所をめぐって、不当な契約を強要し、それに従わない場合には「キャラクターの使用を妨害する」など、クリエイターの生命線を断つような悪質な事案も増加しています。
私自身、独立や移籍をめぐる契約交渉や裁判を担当していますが、今年9月に内閣官房と公取委が策定した「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」後も、現場でのトラブルは大きく減っていないのが実情です。
それだけに、今回の公取委の注意は、業界の「力関係」を変える大きな一石になると考えています。不当な契約で人材を囲い込む時代は終わり、今後は「選ばれ続ける価値」を提供できるかどうかが、事務所の競争力を左右する時代へと本格的に移行していくでしょう。