「第34回全国高等学校漫画選手権大会(まんが甲子園)」(8月3日まで)の最優秀賞に選ばれた作品が失格となり、最優秀賞が「該当なし」となる事態が生じた。
主催者によれば、受賞作の発表後に類似作品の存在が確認されたという。そのうえで、「類似性がある」と判断された。
「規定に抵触する作品を審査対象から除外できなかったことにより、最優秀賞を取り消す事態となりましたことを、主催者として大変重く受け止めております」(主催者)
こうしたなかで、「パクリ」などと指摘する声もSNSで上がることとなり、主催者が誹謗中傷を絶対にしないでと呼びかけた。知的財産権に詳しい舟橋和宏弁護士もまた、落ち着いた対応が求められると指摘した。
●著作権侵害を判断する大枠の考え
──失格となった原因としてどんなことが考えられるでしょうか
主催者の発表によれば、他の作品との類似性が認められるとして実施要綱に基づき失格としました。この実施要綱は「作品は、第三者の著作権、肖像権、プライバシー、商標権、パブリシティ権等の権利を侵害しないよう注意すること」としています。
ここで著作権侵害にあたるかどうか検討しますと、著作権侵害は大まかに次の2つの要素が必要となります。
(1)依拠性(既存作品をもとにして作成した)
(2)類似性(著作物の本質的な特徴が類似する)
問題となった作品は、大会の公式サイトなどで明示されていませんので、SNS上で指摘されている失格となった作品、類似しているとされる作品を検討します。
まず、(1)依拠性については、作品を作る際に、偶然似てしまった場合には成立しません。ただし、比較対象の作品が非常に有名な作品であったり、類似性の程度が強いといえる場合には、事実上依拠性が推認されることもあります。
次に(2)類似性を考えます。
類似性は単に見た目が似ているといったことから判断するものではありません。たとえば、アイデアといえるようなテーマ設定などが類似することは、著作物の本質的な特徴が類似したとはいえず、類似性は認められません。マンガについては、マンガの具体的な構図・キャラクターのセリフなどを比較して判断することになります。
これを踏まえて、SNS上で指摘されている作品をみてみます。
起承転結の展開など、具体的な表現を比較したときに共通点は多いといえ、セリフの一部など異なる点もありますが、事務局としてはその疑いがあるといった考え、オリジナル未発表作品と言い難いのではといった観点から実施要綱に反すると判断したと考えられます。
●今回の出来事をいかなる教訓とすべきか
今回の事例のように、受賞した後に取り消されるといったことは他のコンテストなどでもありえないことではありません。
ただし、著作権侵害は、「見た目が似ている」という要素のみをもって判断されるわけではありません。
SNS上ではたびたびマンガ・イラストについて「トレースパクリ」などとして炎上することがありますが、実はそういった場合著作権侵害に該当しないといえるものも多く見受けられます。
そのため、似ていることから直ちに著作権侵害であると断じて、作者にコメントするといった対応をしないことは重要です。
もちろん、著作権侵害などが起きることを未然に防ぐためにも、教育を通じて著作権などを学んでもらうことも重要です。