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「Winny開発者」を無罪に導くまでの7年半、壇弁護士が語るプログラムバカ「金子勇」
金子さんについて語る壇弁護士(2023年3月2日)

「Winny開発者」を無罪に導くまでの7年半、壇弁護士が語るプログラムバカ「金子勇」

P2P技術を用いたファイル共有ソフトWinny(ウィニー)の開発者、故・金子勇さんの軌跡を追った映画が公開される。天才プログラマーと言われた金子さんが突如逮捕されるという日本のネット史上最大の事件が題材で、壇俊光弁護士と無罪を勝ち取るまでが克明に描かれる。東出昌大さんが役作りのために増量して演じたことも話題となっている。

3月10日の映画「Winny」公開前に、壇弁護士と、P2Pに詳しいブロガーheatwave_p2p(熱波)さんが弁護士ドットコムニュースのYouTubeLive
(https://www.youtube.com/watch?v=jjhQh8kwk3U)に出演し、テクノロジーの未来や法規制のあり方について議論をかわした。

●Winnyとは「情報の高速道路」

Winnyの登場は2002年にさかのぼる。2004年の逮捕から7年半にわたって伴走してきた壇弁護士は冒頭「YouTubeも、iTunesもなかった時代。当時から弁護をしてた私が、このYouTubeでお話するのは、時代の移り変わりと、少しの皮肉を感じております」と自己紹介した。

壇弁護士は、Winnyを「情報のハイウェー」と例えているという。

「高速通信だから、高速道路みたいなもんだと。そこで暴走するやつや、改造車を走らせるやつが出てきたら、それは高速道路を管理してる人が悪いんですかね。じゃあ、国土交通大臣を逮捕しなきゃならない」

「Winnyはスピードがすごかったんですよね。(金子さんが)『もっと速く』を突き詰めて圧倒的なダウンロードの能力がついたのが大きく流行った原因でもある。当時、動画のアップロードやダウンロードは、ほかのP2Pじゃ無理だったんです。圧縮して映画を流す人が出てきた。今ある見逃し配信というニーズにも、Winnyはすでにかなっていた」

海外の事情について語る熱波さん(2023年3月2日)

●金子さんの動機は「そこに山があったから」

国内外のどこにもない技術を生み出した金子さんは、2011年に無罪が確定したものの、2年後、急性心筋梗塞のため42歳でこの世を去った。「P2P技術」に関心を寄せて、2006年にブログ「P2Pとかその辺のお話」を開始し、海外の事情にも詳しい熱波さんとも接点があった。

「米国だったら企業がビジネスとしてやっていたことを、金子さんは個人でやっていた。それはただ単純に楽しかったからなんだろうなと思う。自分が設計して、自分の思った通りに動くとか動かないとかを見ているのが楽しい。僕だったらブログをやって、面白いものを作り上げるっていうのと近い感覚だったんじゃないかな」

壇弁護士も、映画の原作となった自身の小説で描いた金子さんとの友情を振り返り、2011年の記者会見時の映像を懐かしそうに眺めた。東出さんも、この映像の仕草を役作りの参考にしたという。

「彼は留置場でも本当にプログラムのことしか考えてなくて、プログラムのことになったら、ずっと楽しそうにしゃべってるんですよ。愛がすごい。そこに山があったから登ったんだと思いましたね。法を超越したプログラムバカだったということです」(壇弁護士)

●短絡的な犯罪化は革新を阻む

金子さんが亡くなってから、10年が経とうとしている。Winny事件は、突出した才能がつぶされ、日本の技術革新が遅れた原因だともいわれる。

「米国では警察はビジネスに口を出しません。日本はおまわりさんが出てきて、何罪かは後で決めると。(本来、警察は)イノベーションの価値判断なんてできるはずないんです。残念ながら人質司法も虚偽自白も、当時から改善されていません」(壇弁護士)

現在も特殊詐欺事件で話題となった匿名性の高いSNS「テレグラム」のような新しい技術が出てくると、悪用される点ばかりが強調されることに2人は疑問を呈した。

「脊髄反射のように『暗号=犯罪』と考えるのではなく、落ち着いて見ろと言いたい。短絡的に未来を決めつけないでほしい。圧力をかけても黒船が来るだけです」(壇弁護士)

「捜査機関が情報を押さえられないからといって、暗号化を禁止するのは違う。当局に監視される危険のある国では、匿名性が人を守っている場合もあります。P2Pは、検閲を回避したり出所を隠したりするなど現在も必要とされている技術です」(熱波さん)

壇弁護士は金子さんに続くような圧倒的な開発者が国内で誕生しない現状を憂いながら、「彼の情熱は、エターナルなものです。日本に閉塞感を感じているような若者も、映画を見て、自分の勇気にしてくれれば嬉しい限りです」と締めくくった。

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