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5児の母、死の前日に「わたしは幸せです」看取り士がみた、それぞれの最期
柴田久美子さん(2019年7月、弁護士ドットコム撮影、東京都内)

5児の母、死の前日に「わたしは幸せです」看取り士がみた、それぞれの最期

人生の最期、旅立つ人の眼差しには何が映り、どんな思いが去来するのか。生きている私たちには、その本当のところがわからないだけに、死への怯えや不安ばかりが募ってしまう。自分だけでなく、家族や大切な人の死に際しても、何をすべきか混乱したままだ。

私たちは、死とどう向き合えばよいのか。そのヒントとなりそうな映画『みとりし』が9月13日より公開される(有楽町スバル座ほか)。看護師とも介護ヘルパーとも違う役割を果たすのが「看取り士」の仕事だ。死が近くなった人とその家族に寄り添い、旅立ちを支える民間資格で、全国で568名が看取り士として登録している。

映画の原案・企画をしたのが、一般社団法人「日本看取り士会」代表理事、柴田久美子さんだ。「人生の、たとえ99%は不幸だとしても、最後の1%がしあわせならば、その人の人生はしあわせなものに変わる」という柴田さんに、私たちは死とどう向き合えばいいのか、話を聞いた。

●5児の母から、亡くなる前日の電話

ーー映画では、様々な最期が描かれます。高齢者(柴田さんは「幸齢者」と呼ぶ)、単身者、子育て世代。それぞれ抱えているものは違いますね。印象に残っている方はいますか

「若い方を送る時は、つらい気持ちになりますね。奇跡を信じたいと私たちも思うものです。家族や子どもを残すことになるし、まだやりたいことがある。命を手放したくないと思うのが人間だと思います。

私たちも、ご本人が死を受け入れられるまでは希望を語ります。ところが、ご本人はどこかのタイミングで死を受け入れるようになるのです」

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ーー受け入れたことはわかるものなんですか

「わかります。ある終末期のがん患者の女性には、まだ幼い5人の子どもたちがいました。彼女は最期まで希望を持っていました。子どもたちも幼いですから、この子たちが大きくなるまで、と思うのは自然なことです。

希望を持ちつつも、子どもたちを混乱させないためにも、少しずつ死に触れさせていく必要もあります。

そこで、女性の夫は『お母さんは死んでしまうけれど、魔法使いになって、子どもたちとともにいるから大丈夫』と伝える絵本を作ります。その絵本を5人に読み聞かせた晩、彼女から私に電話がありました。『こんなことを主人がさせるのよ。とっても楽しい時間だったけど、本当はぜんぶ嘘よって、子どもたちに言える日がくる』と。希望を持っていました。

ところが翌朝、彼女から『すごく明るい光がみえる。カーテンをしめてもらったけど、光っていて、父が見えます。わたしは幸せです、日本一幸せです』。そう仰ったのです。覚悟ができたのだろうなと感じました。翌日、彼女は息を引き取りました」

●新聞記者の妻「私、一人になっちゃった」

ーーこの家族の場合、看取り士を依頼したのはどなたでしたか

「ご本人からでした。実は、ご本人からの依頼は珍しくありません。家族の支えになって欲しいと願われているのではないでしょうか。

取材で知り合った新聞記者の例ですが、死を前にして、私に連絡がありました。最初『私がいるのに、どうして柴田さんに頼むの』とおっしゃった妻に、その記者さんは『柴田さんはもう1人の家族だから』と仰ったそうです。

その言葉の意味がわかったのは亡くなった時でした。奥さまが『柴田さん、私、一人になっちゃった』と泣かれたその瞬間に、二人でわかったんです。『旦那さんは、それで私を紹介したのね』と。

記者さんは古いタイプの男性で、直接的な愛情表現をしない人でした。でも、きっと奥さまが一人になることをわかっていたから、その時に支えとなる人間として私に依頼してくれたのだろうと思います」

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●女性弁護士の叶わなかった願い

ーー「看取り士」を依頼される方は、最期を自宅で迎えたいと思う人が多いとのことです。ご本人がどんな最期を迎えたいのか意思がはっきりしていると、スムーズに進みそうです

「いえ、そうとは限りません。自宅で過ごしていても、最期の最期は病院というケースも少なくありません。中には医療の介入を望む方もいますが、『自宅で死にたい』という本人の意を家族が受け止められないのでしょうね。

ある女性弁護士もそうでした。その方は尊厳死協会にも入り、病院ではなく自宅で死にたいこと、看取り士が入ることを望み、話し合いを重ねてきました。そのことは遺族である妹さんにも伝えていたのです。

ところが、いざその時が近づくと、妹さんは『(入院するよう)姉を説得しました』と言って、病院に連れて行かれたのです。そこから先、私たちは関わることができなくなってしまいました。意識が朦朧とする中での判断でよかったのか。直接、ご本人から聞いたわけではない私にはわかりません」

●自らのエンディングノート、娘に反対され

ーーもしかしたら病院で最期を迎えたいと気持ちが変わられた可能性もありますが、残される家族としっかりと話し合っておく必要があるのですね。柴田さんご自身は、ご家族にどのように伝えられたのでしょうか

「エンディングノートを娘に見せたところ、当初は反対されましたね。皆さんには『家族にはしっかりと伝えて欲しい』と伝えていますが、私自身は娘を説得するのに、7年かかりました。

たとえば『自宅で最期を迎えたい』と言うと、娘は『私は病院で一分一秒でも長生きしてほしい』と。しばらく『最期はもういいよ、といって』『私にはできない』と押し問答になりましたね。娘のエゴであるし、一方で愛情でもあります。お互いにそのことがわかっているから、説得と譲歩を重ねて、7年かけてエンディングノートを完成させました」

●死を「怖い」と思うのは自然な気持ち

ーー映画(『みとりし』)を観ると、死は特別なものではなく、誰もが迎える自然なことだと感じます。一方で、自分が当事者となった時、落ち着いていられるかどうか自信はありません。

「現代では、病院で亡くなる方が85%であるため、死を見ることが希(まれ)です。そのため、自分が亡くなることも、家族や大切な人が亡くなることに『怖い』という思いを感じるのでしょう。人が亡くなるのを見ることは『こわい』と思うのも自然な気持ちです。

でも、亡くなる直前に呼吸が乱れ、ゼーゼーといっても、ご本人が苦しいとは限りません。中には痛みなどで苦しさを感じる人もいますが、老衰の場合は違います。その見極めは難しいものですが、見送る人たちが落ち着いてその時を迎えられるようお手伝いするのも看取り士の仕事の一つです。

現代では、死を間近に感じることはほとんどありません。映画を観ることで、死生観を高め、死に向き合うことのきっかけになればと願っています」

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【取材協力】 柴田久美子(しばた・くみこ)。一般社団法人「日本看取り士会」代表理事。著書に、本作の原案となった『私は、看取り士』(佼成出版社)など。

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【映画情報】 『みとりし』(監督・脚本:白羽弥仁、原案:柴田久美子) 会社員から看取り士となった柴久生(榎木孝明)、新人の高村みのり(村上穂乃佳)を中心に、旅立つ人の最期の様子を描く

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