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軽自動車が幅寄せして急ブレーキ、バイク転倒の動画拡散…法的責任は?
画像はイメージです(tsukat / PIXTA)

軽自動車が幅寄せして急ブレーキ、バイク転倒の動画拡散…法的責任は?

片側一車線の路上で、軽自動車がバイクを追い越して、すぐに左に幅寄せ、さらに急ブレーキをかける。バイクは避けようとするが、間に合わず、転倒してしまう。だが、軽自動車はそのまま立ち去っていく――。ツイッター上で、そのように見える様子を映したドラレコ動画が拡散されている。はたして軽自動車の運転手はどんな責任に問われるのか。濵門俊也弁護士に聞いた。

●もしケガがあれば「危険運転致死傷」にあたる可能性も

――軽ワゴンの運転手は刑事責任を問われますか?

拡散されている動画を視聴しましたが、本当に悪質な事件だと思いますので、一刻も早い検挙をお願いしたいです。バイクの運転手が負傷していることを前提に解説します。まず、みなさんの関心が高いと思われる刑事責任の側面です。

まず、動画を見るかぎり、前を走っている自動車の運転手は、危険運転致傷罪(自動車運転処罰法2条5号)にあたる可能性があります。

2020年の法改正で「車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為」も処罰されることとなりました。

法定刑は懲役15年以下です。

――民事責任はどうでしょうか?

不法行為責任(民法709条・710条)を負うでしょう。故意による場合は、過失による場合と比較して、損害額を3倍程度増額できる場合があります。ただ、いくら損害賠償請求が認められたとしても、加害者側に資力がなければ、「絵に描いた餅」となってしまいます。

●被害者は自賠責の支払いを保険会社に求めることができる

――加害者が加入している保険金から支払いを受けることができないのでしょうか?

交通事故で他人を死傷させたときに支払われる「自賠責保険」があります。

法律上、故意により事故を起こした場合について、保険金の支払いの免責事由となると規定がされています(自動車損害賠償保障法14条)。

一方で、被害者から保険会社に直接請求する権利を認めており、保険会社はこの請求を拒否できません(自動車損害賠償保障法16条1項)。

そもそも、この法律は、人身事故の被害者の救済を目的としているので、故意による事故の場合でも、被害者から請求された場合は、保険会社は保険金を支払うことになります。

なお、被害者の求めに応じて保険金を支払った保険会社は、その分を国に請求することになります(自動車損害賠償保障法16条4項)。さらに、保険会社に保険金相当額を支払った国は、故意に事故を起こした人に対して、その分を請求することになります(自動車損害賠償保障法76条2項)。

●任意保険に加入しているケース

――自賠責保険では足りないケースはないでしょうか?

そのため、任意保険に加入する人もいます。これにより、人損だけでなく、物損もカバーできます。

しかし、法律には、<保険者は、保険契約者または被保険者の故意または重大な過失によって生じた損害をてん補する責任を負わない>と定められています(保険法17条1項)。

そして、<責任保険契約に関する前項の規定の適用については、同項中「故意又は重大な過失」とあるのは、『故意』」とする>と定められています(同条2項)。

また、保険会社ごとの保険契約約款にも、同様の規定がなされているのが通常です。

故意によって事故を起こせば、通常、何らかの犯罪が成立しますが、犯罪を成立させて保険金を受け取ることを認めてしまえば、それ自体が社会的正義に反することです。犯罪を誘発してしまうおそれがあることなどが理由とされています。

ただし、対人保険や対物保険などの責任賠償保険についても免責事由とすることは、被害者保護の観点から妥当でないとの意見もあります。

保険金は契約者が受け取りますが、加害者である契約者から保険金を受け取れなければ、被害者は、賠償を得ることが難しいといいますか、場合によっては不可能となります。

最高裁判所は「故意によつて生じた損害をてん補しない旨の自家用自動車保険普通保険約款の条項は、傷害の故意に基づく行為により被害者を死亡させたことによる損害賠償責任を被保険者が負担した場合には、適用されない」と判示しています(最判平成5年3月30日)。

プロフィール

濵門 俊也
濵門 俊也(はまかど としや)弁護士 東京新生法律事務所
当職は、当たり前のことを当たり前のように処理できる基本に忠実な力、すなわち「基本力(きほんちから)」こそ、法曹に求められる最も重要な力だと考えております。依頼者の「義」にお応えします。

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