東京・池袋で2019年4月、乗用車が暴走し松永真菜さんと長女の莉子ちゃんが死亡した事故で、自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死傷)の罪で起訴された男性(90)の被告人質問が6月21日、東京地裁であった。
この日は、真菜さんの夫の拓也さん、真菜さんの父親の上原義教さんが被害者参加制度を利用して被告人に直接質問をした。
被告人質問後、遺族の2人は会見を開いた。拓也さんは「加害者を心から軽蔑します。私から直接質問を受けても、自分は悪くないんだと(意思を)変えることができない。なんかもう、正直、虚しくて」と憤りをあらわにした。
●「本当に軽蔑しました」
「いつもは冷静であろうと心がけていますが、今日は言います」と切り出した拓也さん。「あの人はもう2年間変わらなかった。今日質問してわかりました、あの人は変わらないんだろうと。本当に軽蔑しました」と悔しさをにじませた。
真菜さんと莉子ちゃんの命に対する認識を問うため、松永さんは被告人に証拠の中にあった家族写真や2人の名前について尋ねた。しかし、その答えは望んだようなものではなかった。
「『クリスマスの写真と遊園地の写真がありました』と言っていたが、そんなのないんですよ。『名前は分かりますか』と言ったら、『莉子の名前が難しくてわからない』と。難しいですかね。
残念ながら、彼の2人の命に対する認識はその程度のものだった。なんでこんな人に2人は命を奪われなければならなかったのかな。裁判所が正しい判断をしてくれると思いますが、刑務所に入ってほしい」
上原さんが事故後の2年間どう過ごしていたか尋ねたのに対し、被告人が自分のことを話し始めたのにも衝撃を受けた。
「『リハビリが大変だった』『苦しい毎日だった』とか、そんなこと聞いているわけじゃないじゃないですか。本当に自分が中心の方なんだなと。毎日つらかったですなんて、よく言えたなと。遺族が(それを聞いて)つらい思いするって考えられないのか」
上原さんは「今ここに座っているのも苦しくて。自分の体じゃないみたい」と声を絞り出した。
「少しは響くかなと思ったんですけれども、私がバカでした。本当に悔しい、悲しい、その辛さ。ほんとうに理解していらっしゃらない。あの態度を見ていると余計つらさが倍増してくる。自分の人生は間違っていなかったのか、事故に対して向き合ってもらって反省していただきたい。心から願っています」
会見の中で拓也さんは、終始「虚しい」と繰り返した。それでも裁判に参加して「やってよかった」と話す。
「1つは将来やれることはやったと言いたいからです。2つ目はこれだけ大きい事故で軽い罪となる前例を作ってはいけないということ、3つ目はこの裁判で真実が明らかになることで、再発防止に活かしたいという思いを持って裁判に臨んでいる。命は戻らない。それでも私は自分で意味づけをしようと思っている」