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傷害事件の被害にあい「旅行やジムに行けなくなった」 加害者に請求できるの?
写真はイメージです(syogo / PIXTA)

傷害事件の被害にあい「旅行やジムに行けなくなった」 加害者に請求できるの?

「ケガをさせられました。加害者側に旅行代金やジムの会費なども請求できますか」。弁護士ドットコムに、このような相談が寄せられています。

相談者は過失傷害の被害者で、現在は民事訴訟を提起しているとのことです。ケガをしたために行けなくなった旅行の代金と、通えなくなったフィットネスジムの払い込み済み料金も加害者側に請求したいと考えています。

実際に、このような請求は認められるのでしょうか。森本明宏弁護士に聞きました。

●加害者はどの範囲まで損害賠償すべき?

ーーケガをしたために行けなくなった旅行やジム代金も加害者側に請求することはできるのでしょうか。

今回の事例では、相談者に発生した損害をどの範囲まで加害者に賠償させるべきか、という「賠償すべき損害の範囲」が問題となります。

「風が吹けば桶屋が儲かる」的な理屈で損害賠償の範囲を考えると、加害者が予期しない損害についてまで、無限定に賠償の範囲が拡がりかねません。そのため、どの範囲の損害を賠償させるべきか、という法律論の問題となります。

この点について、昭和48年の最高裁判所の判例は、不法行為に基づく損害賠償について、特別の事情によって生じた損害であっても、加害者がそのような事情や損害の発生を予見したり、予見することが可能であった場合には、加害者が賠償すべき範囲に含まれると判断しています。

過去の多くの裁判例においても、具体的な事情を勘案して、「損害の公平な分担」という損害賠償制度の理念に基づいて、加害者に賠償をさせるのが相当と認められるかどうか、という観点から賠償範囲を決めています。

●ケガの程度などによっては、賠償請求は可能

ーー今回の事例の場合は、どのように考えればよいでしょうか。

今回の事例では、怪我の程度や治療が見込まれる期間、キャンセルにより損害が発生することになった旅行代金、ジム会費の額といった具体的事情を検討することになるでしょう。

たとえば、今回の怪我が、擦過傷や打撲傷などでごくごく短期間で治療を終える軽微な怪我である場合には、必ずしも旅行やジムのキャンセルまでは要せず、その全ての額を(特に高額のキャンセル代が発生する場合)加害者に賠償させることは、加害者に酷であるという判断になることもあり得るでしょう。

一方、骨折をした場合などで怪我の程度も大きく、入院治療を要するような場合であれば、通常、旅行やジム通いも一旦キャンセルせざるを得ず、それにより発生した損害を加害者に賠償させても公平に反しないといえるでしょう。

結論ですが、今回の相談者が旅行やジム通いを断念することが、怪我の程度や旅行のスケジュール等から通常ありうることでやむを得ないことだといえるならば、十分、加害者に賠償請求することは可能であると考えます。

プロフィール

森本 明宏
森本 明宏(もりもと あきひろ)弁護士 四季法律事務所
愛媛弁護士会所属(2002年弁護士登録)。2010~2011年度、愛媛弁護士会副会長。2020年度、愛媛弁護士会会長。日本スポーツ法学会会員。

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