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2015年11月17日 13時00分

<宮崎暴走事故>73歳の運転手に認知症とてんかんの病歴・・・法的責任を問えるか?

<宮崎暴走事故>73歳の運転手に認知症とてんかんの病歴・・・法的責任を問えるか?
写真はイメージです

宮崎市の中心部で10月下旬、73歳の男性が運転する軽乗用車が暴走し、歩行者や自転車に乗った男女計6人をはねる事故が起きた。そのうち2人が死亡し、4人が重軽傷を負った。

報道によると、車を運転していた男性は、数年前から認知症の症状があり、病院で治療を受けていた。また、認知症の症状が出たあと、数回にわたり事故を起こしていたこともわかったという。さらには、過去に「てんかん」の持病があったとも報じられた。

警察は現在、男性の認知症やてんかんの治療状況を調べながら、慎重に捜査をすすめているようだ。では、一般的に、交通事故を起こした人に認知症の症状があったり、てんかんの持病がある場合、法的責任を問えるのだろうか。和氣良浩弁護士に聞いた。

●認知症が重度の場合、刑事責任を問われない可能性も

「車に乗って交通事故を起こした人の法的責任には、大きく分けて、刑事責任と民事責任があります(ほかに行政上の責任もあります)」

和氣弁護士はこう切り出した。認知症やてんかんの持病がある場合、刑事責任はどのようなものが考えられるのだろうか。

「まず、自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気のうち、政令の定めるものの影響によって人を死傷させた場合、『危険運転致死傷罪』で処罰されます(自動車運転処罰法3条2項)。人を負傷させた場合は12年以下の懲役、死亡させた場合は15年以下の懲役が科されます。

てんかんは政令で定められている病気です。もし仮に、自動車の運転中にてんかんの影響で正常な運転ができず、人を死傷させた場合、この法律によって処罰されることになります。

なお、てんかんは薬で発作を抑えることができ、適切な治療を受けていれば、運転に影響はないとされています」

では、認知症についてはどうだろうか。

「認知症については、政令で定められていません。したがって、『危険運転致死傷罪』で処罰されることはなく、過失運転致死傷罪(同法5条)となります。7年以下の懲役・禁固または百万円以下の罰金に科されます。

ただし、認知症が重度の場合、責任能力がないとして、罪に問われない可能性も高いです(刑法39条1項)」

●民事の場合、加害者側が無過失を立証しないと賠償責任が生じる

では、民事責任はどうなるのだろうか。

「民事責任とは、被害者に対して、その交通事故によって受けた損害を賠償しなければならないという責任です。

少し難しくなりますが、一般的な損害賠償請求の場合、被害者側が加害者の過失などを立証しなければなりません。しかし、交通事故の場合には、被害者救済のために、過失の立証責任が転換されています(自動車損害賠償保障法3条)。

したがって、被害者側は、交通事故によって、生命・身体に損害を被ったことさえ立証すればよいのです。

これに対して、加害者は自らに過失がないことを立証しなければ、損害賠償責任が認められることになります」

てんかんや認知症の影響で交通事故を起こした場合は、どうなるのだろうか。

「そのような場合、加害者側が『過失がなかった』と立証することは、ほとんどあり得ないため、自賠法によって、賠償責任が認められるでしょう。

ただし、重度の認知症の場合、責任能力がないとして賠償責任を負わないことになります(民法713条)。

また、加害者に賠償責任が認められたとしても、支払い能力がない場合が多いため、実際は自動車保険から補償を受けることになります。

なお、てんかんや認知症の影響で事故を起こした場合については、加害者に重過失が認められるため、自動車保険は利用できないのではないかという不安の声を聞くことがあります。

しかし、自動車保険は被害者保護の意味合いが強いため、重過失では免責されません」

●高齢化にともなって交通事故が増えていく?

事故を起こした人の責任を問えない場合、遺族や被害者への賠償責任は誰が負うことになるのだろうか。

「もし仮に、重度の認知症患者が事故を起こした場合、本人に責任能力がないとして、刑事責任と民事責任のいずれも問えないことになります。

ただし、その認知症患者に監督義務者、たとえば配偶者がいる場合、その人が賠償責任を負うことになります(民法714条1項)」

このように述べたうえで、和氣弁護士は次のように注意喚起していた。

「高齢化にともなって、今回のような悲惨な交通事故は今後、増えていくと予想されます。また、正常な判断ができないために、無保険の状態で運転して、事故を起こすケースも多くなっているように思います。

このような状況で、個人レベルで対応できることは、あらかじめ自動車保険などに加入することで、最低限の補償を受けられるようにしておくことです」

(弁護士ドットコムニュース)

和氣 良浩弁護士
平成18年弁護士登録 大阪弁護士会所属 近畿地区を中心に、交通・労災事故などの損害賠償請求事案を被害者側代理人として数多く取り扱う。
事務所URL:http://www.wk-gl.com/
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