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台風チャーミー本州縦断のおそれ 瓦を吹き飛ばし、車が大破した場合の法的責任は?
本州に近づいている台風24号チャーミー(気象庁のサイトより)

台風チャーミー本州縦断のおそれ 瓦を吹き飛ばし、車が大破した場合の法的責任は?

非常に強い台風24号「チャーミー」が9月30日から10月1日にかけて、九州から北海道を縦断するという予報が出ています。台風に備えて、私たちは何をしたらよいでしょうか。9月初旬、関西地方を中心に大きな爪痕を残した25年ぶりの大型台風21号の例が参考になりそうです。

台風21号が上陸した直後、自宅や車を破損した人が多く、弁護士ドットコムにもこんな相談が寄せられました。相談者によると、台風21号の影響で近所の家の屋根から瓦が大量に飛び、駐車していた車が大破したそうです。家主は入院中で、普段からメンテナンスができていなかったと相談者は訴えています。相談者は当時の状況について、「風速30m/sもなかったはず」と指摘、賠償を求められるか、聞いています。

また、別の相談者も近所の家から瓦が飛び、自分の車やカーポートが損傷したそうです。家主に賠償を求めたものの、「家主の瓦かどうかわからない」と言われたとのこと。相談者は、普段から瓦の管理が悪く、雨でも落下物が時折あったとして、賠償責任を問えないかと聞いています。

通常、台風などの自然災害が原因の場合、不可抗力とされて賠償責任は問われません。しかし、相談者が訴える通り、管理に瑕疵があった場合はどうでしょうか。尾崎博彦弁護士に聞きました。

●過失を立証することなく、賠償を求められる

瓦を飛ばした家主に賠償請求できるのでしょうか?

「民法717条1項においては、『土地の工作物』について『設置又は保存に瑕疵があること』によって『他人に損害を生じたとき』は『その工作物の占有者』が、また『占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者が』、生じた損害の賠償をしなければならない旨を規定しています。

たとえば、建物(土地の工作物の典型です)を借りている賃借人(=占有者ということになります)または家主(=所有者であり、場合によっては占有者でもあります)は、建物が建築された時から、あるいはその後に生じた不具合(=瑕疵)が原因で、他人に損害が生じたときにはその損害を賠償すべき義務を負うことになります」

つまり、不具合があった場合は、賠償義務があるということですね。

「はい。注意すべきなのは、『設置または保存の瑕疵』が原因で生じた損害については、被害者は占有者または所有者に過失があったことを立証することなく、賠償を求めることができる点です。

この点、土地の工作物の占有者は、『損害の発生を防止するのに必要な注意をした』ことを立証できれば賠償義務を免責される余地はありますが、所有者には占有者が免責された場合には、注意義務を尽くしたか否かにかかわらず免責の余地はありません。

これは一般的な不法行為による賠償義務が、加害者の『過失』を要求する(過失責任主義の原則)のに対して、工作物責任の場合には過失を要求していないことを意味します。その根拠は、『危険な物を管理するものは、その危険から生じた損害についても責めを負う』という危険責任の考え方にあると理解されています」

●どこから飛んできた瓦なのか、安全性は欠いていたか?

では、賠償を求めるにはどのようなことを立証すればよいのでしょうか?

「工作物責任を追求するためには、主たる要件として以下の点が必要とされています。

(1)土地の工作物の設置または保存に瑕疵があること

(2)当該瑕疵によって損害が生じたこと

この2つの要件からすれば、被害者は、それぞれの要件を満たすような事実の主張/立証が必要です。

設例に則して考えると、まず(2)の要件については、確かにどこから飛んできた瓦なのかの特定は必要でしょう。ただ、多くの家の瓦が飛んできている場合には、どの瓦による損害かを特定することは実際には困難かも知れません。

また、(1)の要件ですが、台風によって瓦が飛んだことから直ちに「瑕疵があった」というのは難しいと思います。なぜなら工作物責任における『瑕疵』とは『通常必要とされる安全性を欠いていること』と理解されているからです。

ご質問の場合であれば、結果として瓦が飛んだことだけでは不十分で、当該家屋が『毎年来る台風程度であれば,通常遭遇するであろう雨風に瓦が耐えうるレベル』をクリアしているかどうかが問題となると考えられます。そのレベルの台風で瓦が飛んでしまったというのであれば、当該家屋(=土地の工作物)に瑕疵があると言えるかも知れません。

一方、何十年ぶりの大型台風で、予想もできないような風雨が襲来したことで瓦が飛んだ場合などは『通常必要とされる安全性を欠いている』とは直ちに言えないでしょう。

しかし実際には、その判断は困難を伴います。結局、瑕疵の判断は、当該工作物の『構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべき』というほかないでしょう(判例もそのような判断方法を基本としています)。

その判断のための事情としては、当時の風速のみならず、この規模の台風が過去に来たことがあったか、同じ地域の他の屋根瓦はどうだったのか、といった点なども考慮する必要があると思います」

●普段から修理などの対応を心がける

損害賠償トラブルに発展しないためには、普段から家主はどのようなことを気をつけていればよいでしょうか。一言、アドバイスいただけたら幸いです。

「以上見てきたように、直接的には自然災害が引き起こしたトラブルであっても、工作物責任の観点からは責任を免れるとは限らないとはいえます。そうである以上、自然災害をどこまで予想して家屋の保存・管理を図るかというのはなかなか難しい問題です。

それでも自らが居住している家屋や貸家として使用している場合は、現実の管理がなされていることから比較的不具合が見えやすいと思われますので、不具合箇所が見つかったときは修理などの対応を普段から心掛けるべきでしょう。

一番問題となるのは空き家の場合でしょうが、これもひんぱんに所有者は状態を見に行く必要があるかも知れません。遠方でたびたび見に行くことが困難なときは近隣の人に異常があれば連絡してもらうようにしておくのがよいかと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

尾崎 博彦
尾崎 博彦(おざき ひろひこ)弁護士 尾崎法律事務所
大阪弁護士会消費者保護委員会 委員、同高齢者・障害者総合支援センター運営委員会 委員、同民法改正問題特別委員会 委員

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