農協経由での全量出荷を強制し、従わない農家にブランド名を使わせなかったなどとして、公取委は10月27日、独占禁止法違反(不公正な取引など)の疑いで、大分県農業協同組合(JAおおいた)に立ち入り検査した。
報道によると、問題になったブランド名は「大分味一ねぎ」。JAおおいたが商標登録していた。今回、組合員の3農家が、独自に開拓した手数料の安い販売先に、JAを通さずに出荷したところ、JAおおいたは、全量をJAを通して出荷するように求めた。さらに、従わない3農家に「大分味一ねぎ」のブランド名を使わせず、集出荷場の利用も禁じたという。
全量出荷を強制して、従わない場合にブランド名を使わせないことが事実だとすれば、独占禁止法の観点から、どのような問題が生じるのか。籔内俊輔弁護士に聞いた。
●競争への悪影響に対する懸念
独禁法は、不公正な取引方法と呼ばれる16種類の類型の行為を禁止しており、そのなかに「事業者団体における差別的取扱い等」として、事業者団体の内部において、ある事業者を不当に差別的に取り扱って、その事業者の事業活動を困難にさせること等が禁止されています。
報道によれば、公取委は、「事業者団体における差別的取扱い等」に当たる疑いがあるとして立ち入り検査を行ったようです。
仮に、報道されているような、JAを通じた出荷をせずに、他の販売先に出荷したことを理由に、ブランド名や集荷設備の使用で差別的な取扱いをしているとすると、それによって競争に悪影響が生じることもあります。
例えば、販売にかかる手数料がより安いJA以外の販売先に出荷されれば、流通コストがやすくなり、一般消費者もより安い価格でねぎを買える可能性もありますが、出荷先がJAに一本化されたままでは、こうした価格競争が生じにくくなるおそれがあります。JA以外への出荷を止めない組合員に対して差別的な取扱いをすることで、組合員の事業活動が困難になると、組合員はJA以外への出荷を断念せざるを得なくなり、出荷先がJAに一本化されたままになり、競争への悪影響が懸念されます。
●公取委の取り組み
農業協同組合の活動をめぐる独禁法違反事件は過去にも多く、公取委は平成19年に「農業協同組合の活動に関する独占禁止法上の指針」というガイドラインを作成しており、独禁法違反となる具体的事例として今回のケースに類似する「単位農協が部会に対し、同部会の会員が生産物を全量出荷しなければ、部会から除名するよう求め、単位農協に全量出荷させること」等を挙げていました。
また、平成28年4月から改正農業協同組合法が施行され、農協が行う販売事業等の利用を組合員に強制してはならない旨が定められています(同法10条の2)。
公取委は、平成28年11月以降に、農林水産省と共同で、前記の農協法改正を踏まえて「農業分野における独占禁止法等に係る説明会及び個別相談会」を全国12カ所で実施し、農業分野において独禁法上問題となる行為を説明するようであり、また公取委は平成28年4月から農業分野での独禁法違反の疑いについて特別の情報提供の受付窓口を設けています。
スーパー等の小売事業者の仕入価格に関する交渉力が強まっており、また、輸入農作物等との競争もあり、JAとしても国産農作物のブランド価値を維持した販売を模索しているものと思われますが、独禁法の規制についても留意をして、公正な競争に耐えうる生産や販売の工夫が求められるでしょう。