パチンコ店や競輪場などに出入りしていた生活保護受給者に対して、保護費支給の一部停止処分をおこなっていた大分県別府市が、新年度から処分を中止することがわかった。県から2月下旬に「処分は不適切」として是正指示を受けていた。弁護士らでつくる市民グループの高木佳世子弁護士は「処分中止は当然のことだ」と話している。
別府市では、25年以上前から年1回程度、市職員などで構成するケースワーカーが市内にあるパチンコ店と競輪場を見まわる調査をつづけてきた。昨年10月には、調査の際に生活保護受給者25人を見つけて、指導・指示をおこなった。そのうち、期間中に複数回出入りしていた9人に対して、保護費支給を1〜2カ月間、一部停止とする処分を下した。
別府市が処分の根拠としていたのが、生活保護法の条文だ。同法60条には、「被保護者(=受給者)は(中略)生計の状況を適切に把握するとともに(中略)節約を図り、その他生活の維持及び向上に努めなければならない」と定められている。
だが、パチンコ店などへの出入りを禁止する規定ではなく、大分県は2月26日、「生活保護法60条のみをもって処分することは不適切だ」として、別府市に対して是正指示をおこなった。別府市社会福祉課は3月18日、弁護士ドットコムニュースの取材に「パチンコ店などを巡回する調査そのものは適法なので、今後もつづけていく」と答えた。
●弁護士「調査は誤ったイメージを与えるので、不適切だ」
別府市による生活保護費の支給停止処分をめぐっては、弁護士や司法書士、支援者らでつくる市民グループ「生活保護支援九州・沖縄ネットワーク」などが3月9日、「処分は違憲だ」として取り消しなどを求める意見書を別府市長などに提出していた。
別府市の今回の処分中止について、同ネットワークの事務局長をつとめる高木佳世子弁護士は弁護士ドットコムニュースの取材に次のように述べている。
「保護費支給停止は、憲法で保障された最低限度の生活を侵害することになるため、処分中止は当然のことと考えます。過去の支給停止も違法であったことは明らかであり、本来は、過去の支給停止も取り消して支給すべきです。
パチンコ店などの巡回調査は『生活保護受給者は、公衆の面前で、何ら違法性のない行為についてまで行政から干渉されても仕方ない』という誤ったイメージを与えます。受給者や保護を必要とする人を萎縮させるため、不適切だと考えています。
ギャンブル問題を抱えた人に対しては、取り締り的な調査を続けるのではなく、福祉的な観点での援助がおこなわれる方向に変わっていくよう期待しています」