携帯電話料金の引き下げ策を議論してきた総務省の有識者会議が12月中旬、報告書をまとめた。そのなかで、2年縛りの利用者などに端末補助金を出して「実質0円」にする販売手法について、「高額な端末購入補助は著しく不公正であり、MVNO(格安スマホなど)の参入を阻害するおそれがある」と指摘し、見直しを促した。
端末を「実質0円」で提供する原資は、すでに加入している利用者の通信料金であり、不公平な仕組みだと批判されてきた。さらに、携帯電話会社を乗り換えると、高額なキャッシュバックをもらえたり、「実質0円」よりもさらに安い「一括0円」(端末補助金をもらえるだけでなく、端末自体の価格も0円になる)になるケースもあったりして、問題になっていた。
スマホの端末は、一台10万円を超える高価なものもある。にもかかわらず、携帯端末を「実質0円」で提供することは、法的に問題ないのだろうか。独占禁止法や不正競争防止法に詳しい籔内俊輔弁護士に見解を聞いた。
●独占禁止法の観点から見た問題点
「『実質0円』で携帯端末を提供する仕組みは、端末代金を2年(24回)程度に分割して支払うことにして、毎月の通信料金から分割払い額と同額を割り引くことで、ユーザーは実質的に端末代金を負担していないとアピールする販売方法です。
このような販売方法は、頻繁に端末を買い替えるユーザーに有利で、長期間使用しているユーザーと不公平が生じるといった指摘がなされていましたが、独占禁止法の観点からは、別の問題点を指摘できます」
籔内弁護士はこのように説明する。どのような問題点があるのだろうか。
「商品やサービスを原価割れの安い価格で継続的に販売する行為等は、それにより競争相手の顧客を奪って市場から不当に追い出すことにつながる懸念があるため、独占禁止法上『不当廉売』として禁止されています。しかし、『実質0円』は原価割れであるとは言いにくい事情もありました。
すなわち、端末を購入したユーザーは、携帯電話会社との間で通信サービス契約を結んで、通信料金も支払っています。また、この通信サービス契約には2年程度の解約制限が付されているのが通常です。ユーザーは、2年間通信料金を支払うことになり、端末と2年程度の通信サービスを、セットで購入している(セット販売)とみることができます。
セット販売を行うことが通常となっている商品やサービスについては、セット販売の対象を一体としてみて、原価割れの対価での販売となっているかをみて、独占禁止法上問題となるかどうかを検討すべきと考えられています。
そのため、携帯電話会社から端末を購入し、通信サービスの提供も受けることが通常であった時代には、端末と通信サービスを提供するための原価を割らない程度の対価(通信料金)を得ていれば、独占禁止法上も問題にすることは難しかったといえます」
●総務省の「実質0円」見直しの目的は?
では、問題はあまりないということか。
「ただ、たとえば、端末の購入と通信サービスの提供を別々の事業者から受けることが一般化していくと、このような『実質0円』等のセット販売における端末代金の大幅割引が存在することにより、通信サービスのみを提供する事業者は端末の値引きを提供することができず、効果的な対抗手段がないことから、市場から追い出されたり、新規参入が困難になったりする可能性もあります。
総務省は『実質0円』の見直しを推進していますが、その目的は、本来的な通信料金での競争を促す(『携帯電話料金値下げ』を目指す)という点にあり、携帯電話会社に対しては『実質0円』を廃止して、通信量が少ないユーザー向けに現在よりも安価な通信料金プランの拡充等を求めているようです。そして、報道によれば、一部携帯電話会社はそのようなプランを提供する方向で動いているようです。
その一方で、『実質0円』の廃止により端末代金の高額化が見込まれ、ユーザーの負担は、トータルでは増加する可能性もありえます。また、端末の買い替えが減少したり、それにより端末の中古市場が縮小したりするのではないかという指摘もあります。
携帯端末での通信サービスについて、通信料金プランや端末に多様な価格帯のものが提供されて価格競争が活発化することは、ユーザーにとっていい面もあると思われますが、適正な価格競争が行われていくかどうか、行政の監視・指導も必要であろうと思われます」
籔内弁護士はこのように話していた。