明治大学法科大学院の青柳幸一元教授が2015年の司法試験の問題を漏えいした事件を受け、法務省は10月下旬、来年の司法試験の問題をつくる考査委員から法科大学院の「現役教員」を外す方針を発表した。
かつて法科大学院で学生の指導に携わったことのある研究者や、法学部で指導に携わっている研究者などは、問題作成を担当することができる。これに弁護士や検察官などの実務家が加わり、問題作成を担う。
今回の方針は来年に限ったもので、それ以降の考査委員のあり方については検討を続ける。法科大学院での指導経験を持つ弁護士は、法務省の方針をどう見ているのだろうか。正木健司弁護士に聞いた。
●「受験生との接触を断絶することは事実上不可能」
「私の場合は旧司法試験ですが、同じ試験を受けた者として、今回の事件は非常に残念で、憤りを感じざるを得ません。元教授の余りに軽率な行為は、法曹と法曹を目指す者を冒涜するものです」
正木弁護士はこのように事件を振り返る。今回の法務省の方針については、どう考えているだろうか。
「今回の法務省の方針は、司法試験の公平性・公正性が担保されていると世論から認められるために、必要な措置だと思います。
ただ、考査委員の構成や任期などの問題が積み残されています。あくまで暫定的な措置といえるでしょう」
法科大学院の現役の教員を外すことで、不正は防げるのだろうか。
「今回の方針では、法学部の研究者や過去に問題作成にかかわった研究者は、問題作成を担当できるということです。
ですが、法科大学院は法学部や法学研究科と併設されていることが一般的です。考査委員である教員と受験生との接触を断絶することは、事実上不可能でしょう。
私が受験した旧司法試験のころも、たとえば大学のゼミの教授が考査委員ということはありました。しかし、今回のような事件は想像したこともありませんでした。
やはり、実際に試験漏えいが防げるかどうか、試験の公平性・公正性が担保されるかは、最終的に考査委員の方々の自覚にかかっていると言えるのでしょう」
●公平性・公正性の担保が不可欠
今後はどんな対策が求められるだろうか。
「さきほども述べましたが、司法試験に対する信頼を取り戻すためには、制度的に公平性・公正性が担保されていることが不可欠だと思います。
そのためには、今回の元教授のように、10年連続で考査委員を務めるというのは、いわゆる『権力は腐敗する』の恐れも否定できません。一定の任期を設けるべきと考えます。
今回の事件は元教授の個人的な資質によるところが大きいと思いますが、失ったものは大きく、それを取り戻すのは容易ではありません。
今後、各関係者は司法を担う者の誇りにかけて、再発防止策を徹底していかなければならないと思います」
正木弁護士はこのように述べていた。