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<司法試験漏えい>法科大学院教員と考査委員「兼任」はアリ? 割れる弁護士の意見
合格発表をみる人々(法務省、9月8日)

<司法試験漏えい>法科大学院教員と考査委員「兼任」はアリ? 割れる弁護士の意見

司法試験の考査委員として、今年の問題作成に携わった明治大法科大学院の男性教授が、教え子の女性に問題の一部を漏らした疑いで刑事告発された。明治大学は大学の名誉を汚す行為があったとして、9月12日付けで教授を懲戒免職とした。

この教授は、教え子の女性に、憲法の論文式試験の問題を教え、事前に何度も答案を添削していたという。東京地検特捜部は、国家公務員法の守秘義務違反の疑いで捜査を進めている。

今回の事態を受け、受験生に接する法科大学院の教員が、司法試験の問題を作成する現在の仕組みの危うさを指摘する声があがっている。法科大学院の教員が、司法試験の考査委員も兼任して、問題を作成することは問題ないのか、弁護士ドットコムに登録する弁護士たちに意見を聞いた。

●「泥棒に刑法改正を議論させるようなもの」

以下の3つの選択肢から回答を求めたところ、17人の弁護士から回答が寄せられた。

1 法科大学院の教員が司法試験の考査委員を兼任することは問題だ → 12人

2 法科大学院の教員が司法試験の考査委員を兼任することは問題ない → 5人

3 どちらでもない → 0人

<兼任することは問題だ>は12人、<兼任することは問題ない>は5人、<どちらでもない>を選択した弁護士はゼロだった。

<兼任することは問題だ>と回答した弁護士の中には、「問題を知りながら、それを全く意識せずに講義することは不可能」と、試験の公正さの観点から問題視する意見が多く寄せられた。また、「司法試験が実務家登用試験である以上、試験委員は実務家で固めるべき」として、そもそも学者が試験委員をつとめることを疑問視する意見もあがった。

一方で、<兼任することは問題ない>と回答した弁護士からは、「実務家のみでは適切な問題の作成は不可能」であり、「ロースクールに多くの教員が必要な現状では、兼任はやむを得ない」といった意見がみられた。また、不正を抑止する手段としては、「不正を犯した考査委員に厳しいペナルティを与えれればよい」として、「ロースクールの教員全体のモラルを疑って排除しようとするのはやり過ぎ」という意見もあった。

回答のうち、自由記述欄で意見を表明した15人のコメントの全文を以下に紹介する。(掲載順は、<兼任することは問題だ>→<兼任することは問題ない>の順)

●法科大学院の教員が司法試験の考査委員を兼任することは問題だ

【西口 竜司弁護士】

「法科大学院の学生数が少ないこと、合格率により法科大学院の存亡がかかっていること等の事情から問題が漏洩するリスクは非常に高いと思います。このようなリスクを避け、ひいては教員に対する疑念を晴らすためにも兼任すべきではないと考えます。なお、司法試験が実務家登用試験である以上、試験委員は実務家で固めるべきであると考えます」

【山口 政貴弁護士】

「ロースクールの教員が考査委員を務めることは賛成できません。そもそも一般的、常識的な感覚として、試験の出題者、作成者が試験の受験生を指導するという状態はどう考えても公正さに疑義が生じてしまいます。現制度はいうなれば『李下に冠を正している』状態ではないでしょうか。司法試験の公正は法曹界全体にかかわる重要な問題であります。いろいろ困難はあろうかと思いますが、それを乗り越えて、誰からも疑われることのない司法試験制度を確立すべきであると思います」

【太田 哲郎弁護士】

「旧司法試験でも、受験生のいる大学の教授が、試験委員をやっていたわけですが、大学は、別に司法試験受験のための学校ではなかったのに対して、新司法試験の場合には、法科大学院というのは、まさに、司法試験を受けるための学校ですので、大学受験で言えば、予備校の教師が、大学入試問題を作って採点しているのと、同じ状況になってしまっている点が、特徴だと思われます。試験問題は、受験生とは全くつながらない、実務教員や大学教員によって作成されることが必要だと思われます」

【黒葛原 歩弁護士】

「今後は、司法試験の作問をできるレベルの研究者の方に、試験委員在任中、法務省参事官のような任期付公務員となって頂き、法科大学院の教育現場から引き離すという方策を採るべきである。任期付公務員となった著名研究者として高見勝利先生や内田貴先生などもおられるところであり、こうした方策は十分に可能なはずである。現状では、出題委員と受験生の距離が近過ぎると言わざるを得ない。司法試験の公平性を保ち、ひいては国民の法曹に対する信頼を維持するため、この問題については可能な限りの対策を採るべきである」

【塩見 恭平弁護士】

「個々の先生方を存じ上げており、皆様方の努力を知っている上で、やはり試験問題作成者と教育機関は分けるべきだと思います。構造的に問題が発生し得る状況で、抑制が先生方個々人の倫理観のみという状況はいびつです。現状では、教育熱心であればあるほど危険が大きくなります。司法試験制度はいびつで、受験生は日々翻弄されていますが、司法試験が公正である点を持って、いびつな制度もかろうじて保たれていると思います。公正さを疑わせる今回の行為は決して許されるものではありません」

【岡田 晃朝弁護士】

「試験の出題者とその試験の講義者が同じなのはやはり問題でしょう。出題教授からすれば、問題を知りながら、それを全く意識せずに講義することは不可能でしょう。どうしても、意図的にそれに関する検討を避けたり、あるいはそれに関連する情報を(漏えいまで行かなくても)伝えすぎてしまうことは大いにありえます。それにより、当該教授の授業を受けた人は、有利あるいは不利に、試験の公正が害されると思われます」

【石井 康晶弁護士】

「法科大学院の教員は、学校の合格実績を上げることを望むものですから、今回のような漏洩が起きるリスクは常につきまとっていると思われます。厳正に試験を実施するためには、試験委員と学生を切り離す必要があるでしょう。ロースクールによっては、それをやると教員の確保が困難になるかもしれませんが、司法試験制度の信頼を保持するためにはやむを得ないことだと思います」

【居林 次雄弁護士】

「公正な試験を実施するためには、疑わしい行為をする可能性のある人は試験委員から除外すべきでしょう。試験委員の人材は、日本中に数多くいるわけですから、受験生に関係の深い教授を、試験委員から除外するのが、宜しいと思われます。そうでなくても、受験生の質が落ちているなどと、世間の悪評がたっている際ですから、少しでも疑わせる可能性のあることは避けるべきでしょう」

【川面 武弁護士】

「法科大学院の教授に問題を作成させるのは、言い古された例えですが泥棒に刑法改正を議論させるようなものです。試験問題は裁判官を中心とした実務家が作成すべきでしょう。どうしても法学者の関与が必要であるとすれば、(1)法科大学院に関与していない法学部の教授、(2)(法務研究科ではなく)法学研究科の教授、(3)その他女子大・短大等で教えている教授などの中から適任者を探せばいいと思います。なお、過去8年間に公法系の委員3人が罷免されていますが、公法系は法曹界に限らず、各省幹部からも適任者を探すことも可能と思われます」

【西島 和弁護士】

「ある法科大学院から司法試験合格者が何人出るかで、その法科大学院が生き残れるかどうかが決まってしまうのですから、法科大学院の先生は、教え子が合格するかどうかで利益を受ける利害関係者です。この利害関係者に司法試験の考査委員をお願いするという現在の制度は、公正さについて客観的な保障が弱く、公正さを個人の『善意』に頼っている点で、問題だと思います」

●法科大学院の教員が司法試験の考査委員を兼任することは問題ない

【濵門 俊也弁護士】

「法科大学院卒業が司法試験の受験資格の一つであるとしますと、法科大学院の学者教員(実務家教員を除きます。)が司法試験の考査委員を兼任すること自体は、やむを得ないと考えます。正直申し上げて、実務家(裁判官、検察官、弁護士)が、試験問題を作成することはできません(意思も能力もないでしょう)。考査委員の任命期間を短縮したり、再任を認めないなど、他の制度運用で再発防止策を検討するほかないのではないでしょうか」

【秋山 直人弁護士】

「ロースクールの教員を一律に考査委員から排除したのでは、考査委員としてふさわしい人材が集まらないことになってしまうでしょう。良問の作成には、実務家だけではなく、学者も必要なはずです。今回のような事件は許せませんが、不正を犯した考査委員に厳しいペナルティを与えれば良く、ロースクールの教員全体のモラルを疑って排除しようとするのはやり過ぎのように思います」

【長谷見 峻一弁護士】

「ある問題が生じた際に、負の側面にのみ目を向けて、制度自体を強引に変えてしまうことには異存があります。『預り金を横領する弁護士がいるので、弁護士にお金を預けないようにしよう』と言うようなものです。実務家のみでは適切な問題の作成は不可能ですし、ロースクールに多くの教員が必要な現状では、兼任はやむを得ないと考えます。問題作成を行う優秀な教員がロースクールで教壇に立たないこともまた問題です。不正に対しては厳しく処罰し、信頼回復に努めていただきたいと考えます」


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