政治団体「NHKから国民を守る党」の立花孝志氏が、刑務官らに付き添われて法廷に入る様子を映したように見える動画が、インターネット上で拡散され、話題になっている。
動画は実際に法廷内で撮影されたものなのか、それとも生成AIなどを使って作られたものなのか。現段階では確認できていない。
東京地裁は10月7日、弁護士ドットコムニュースの取材に、動画について「YouTube上に掲載され、削除されていることは承知している」とコメント。
そのうえで、「当裁判所としては、適正な裁判手続をおこなうために厳正に対応することとしたい」とした。
立花氏は別の事件で起訴され、勾留されている。
一方、今回の動画をめぐっては、2025年3月、東京・霞が関で立花氏をなたで切りつけたなどとして、殺人未遂や銃刀法違反などの罪に問われた宮西詩音被告人の裁判員裁判が東京地裁で開かれている。
立花氏は、この裁判に被害者参加制度を利用して出廷している。
●投稿者は「AIで再現した」と説明
拡散された動画には、刑務官らに付き添われながら法廷を歩く立花氏とみられる人物が映っている。髪は以前より伸びているように見え、笑顔を見せるような場面もある。
元の動画はすでにYouTubeから削除されているが、その一部を切り取ったとみられる動画がSNSで拡散している。
一方、動画を投稿したとされる人物は、自身のYouTubeチャンネルで、立花氏が被害者として参加した裁判を傍聴したことは認めつつ、問題となった映像については、法廷で見た光景をAIで再現したものだと説明している。
そのうえで、「法廷の様子をAIで作って、ものすごいリアルな立花孝志を表現してしまい、大変申し訳ございませんでした」などとも話している。
現時点で、弁護士ドットコムニュースは動画が実際に法廷内で撮影されたものか、AIで生成・加工されたものかを確認できていない。
では、仮に実際の法廷内で撮影された動画だった場合、どのような問題があるのだろうか。
●法廷内の撮影は「許可制」
刑事訴訟規則215条は、公判廷における写真撮影、録音または放送について、裁判所の許可がなければできないと定めている。
一律に禁止されているわけではなく、実際、報道機関による法廷内の撮影が開廷前などに許可されるケースもある。ただ、傍聴人が裁判中に自由に撮影できるわけではない。
こうしたルールには、裁判の秩序を保つだけでなく、被告人など訴訟関係者の利益を守る意味もある。
最高裁は1958年、新聞記者が裁判長の許可なく法廷内を撮影した「北海タイムス事件」で、無許可の撮影に対する制裁を認めている。
また、裁判長は傍聴人による無断撮影を把握した場合、撮影の中止や退廷を命じることもできる。
今回の動画が実際に法廷内で無断撮影されたものだとすれば、こうしたルールに反する可能性がある。
●「刑事罰」ではなくても制裁の可能性
では、無断撮影をすれば罪に問われるのか。
刑事訴訟規則215条そのものに刑事罰が定められているわけではないため、「法廷内で無断撮影した」というだけで、直ちに犯罪として処罰されるわけではない。
ただし、何のおとがめもないという意味ではない。
裁判所の命令や措置に従わず、裁判の秩序を妨げた場合には、「法廷等の秩序維持に関する法律」に基づき、「監置」などの制裁を受ける可能性がある。監置は一定期間、監置場に留置するもので、刑罰とは異なる。
一方、今回のように動画が後からインターネット上で発覚したケースで、こうした制裁が可能かどうかは別の問題だ。
同法による制裁には期間の制限もあり、撮影がどのようにおこなわれたのかなど、具体的な事情によって判断が分かれる。
●無断撮影なら「肖像権」の問題も
実際に法廷で撮影された動画だった場合には、民事上の責任が生じる可能性もある。
最高裁は2005年、和歌山カレー毒物混入事件の被告人が法廷内で隠し撮りされた事件について、人には「みだりに自己の容ぼう等を撮影されない」という法的に保護される利益があると判断した。
無断撮影が違法になるかどうかは、撮影された人の立場や撮影場所、目的、方法、必要性などを総合的に考慮して判断される。
この事件では、カメラマンが小型カメラを法廷に持ち込み、手錠や腰縄を付けられた被告人を無断撮影したことについて、最高裁は違法と判断。その写真を公表する行為についても違法性を認めた。
もちろん、今回は北海タイムス事件などとは事情が異なる。仮に実際の映像だったとしても、直ちに肖像権侵害になるとは限らず、撮影や公開の方法などを踏まえて判断されることになる。
●「AIで作った」なら問題ない?
では、本当にAIで作った動画だった場合はどうなのか。
実際に法廷で撮影していないのであれば、法廷内での無断撮影という問題は基本的に生じない。
しかし、だからといって、どのような動画でも自由に作って公開できるわけではない。
AIで生成したものであっても、実在する人物だとわかるほど似た肖像を無断で作成・公開した場合には、その内容や使い方によって、肖像権などの人格的利益を侵害する可能性がある。
つまり、今回の動画が「実際に撮影されたもの」なら、法廷内での無断撮影や肖像権などが問題になり得る。一方、「AIで生成されたもの」だったとしても、別の法的問題が生じる可能性は残るというわけだ。
東京地裁が「適正な裁判手続をおこなうために厳正に対応する」としている今回の動画。まずは動画がどのように作られたものなのか、その事実関係が焦点になりそうだ。