ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、日本代表「侍ジャパン」の戦いに注目が集まっている。
準々決勝から舞台をアメリカに移して試合がおこなわれる。しかし今回は、地上波テレビでの放送がなく、動画配信サービスのNetflix(ネットフリックス)を契約しなければ試合を視聴できない。
そのため、居酒屋やスポーツバーなどが店内の大型モニターで試合の様子を映し出す「パブリックビューイング」を実施することができないとされている。
一方で、自治体の中には、侍ジャパンを応援したいと考え、住民向けに無料のパブリックビューイングを企画しようと考えているところもあるかもしれない。
また、日本戦が平日の日中におこなわれる場合、オフィスの会議室を開放して、社員みんなに観戦させたい企業もあるだろう。
飲食店で試合中継を流すケースと違って、このような形で民間企業や自治体が動画配信サービスの映像を職場や公共施設の大型スクリーンに映し、社員や住民に視聴させる行為は違法なのか。
著作権法にくわしい高木啓成弁護士に聞いた。
●WBCの中継番組は「著作物」
──民間企業が、役員や従業員のネットフリックスの個人アカウントを使って、職場の大型スクリーンなどにWBCの試合を映し出して社員みんなに観戦させることは許されますか。
まず、2026年3月現在、Netflixは利用規約上、個人的な非商用用途の利用しか認めていません。そのため、Netflixから特別の許諾なく、個人契約アカウントを使ってパブリックビューイングをおこなえば、規約違反となります。
さらに、著作権法上の問題もあります。
WBCのスポーツ中継番組は、複数のカメラによる撮影やカメラワーク、解説者の機転の効いた実況など、視聴者を楽しませるような創意工夫が凝らされています。そのため、著作権法上の「著作物」にあたると考えられます。
このような著作物をテレビなどで受信しながら観衆に視聴させる行為(いわゆるパブリックビューイング)は「公衆伝達」と呼ばれ、著作権者の許諾なくおこなえば、著作権(公衆伝達権)の侵害になってしまいます。
●著作権法の特別な規定「ネット配信は対象外」
──前回のWBCやワールドカップなど、地上波で放送されていた試合は、居酒屋やスポーツバーでパブリックビューイングしていたと思います。Netflixが独占配信する場合、なぜ著作権法上も問題になるのでしょうか。
テレビ放送の番組でも、ネット配信の番組でも、それを受信して観衆に視聴させる行為は、原則として著作権(公衆伝達権)の侵害となります。
ただし、放送されている番組については、著作権法に特例があります。
(1)非営利で、かつ料金を徴収しない場合
または
(2)通常の家庭用受信装置を用いる場合
であれば、著作権侵害にならないとされています(著作権法38条3項)。
飲食店や企業が主体となる場合、「非営利」とは言いにくいため(1)の要件を満たさないことが通常ですが、「通常の家庭用受信装置」(つまり家庭用テレビ)を使うのであれば、(2)の要件を満たすので、適法にパブリックビューイングをおこなうことができるわけです。
この「通常の家庭用受信装置」については、何インチまでといった具体的な規定は著作権法にありません。
そのため、飲食店などで、ある程度大型のテレビを使ってパブリックビューイングを開催するケースも、適法だと説明されてきたのです。
しかし、この規定(38条3項)は、あくまで放送されている番組のみを対象としており、ネット配信番組には適用されません。
そのため、今回のWBCのようにNetflixで配信されている番組については、パブリックビューイングをおこなうと著作権侵害になってしまうのです。
●自治体が無料で実施しても著作権侵害に
──たとえば自治体が地域住民に無料で開放した会場で実施するなど、完全に非営利目的のパブリックビューイングであれば問題はないのでしょうか。
この場合も、ネット配信番組である以上、著作権法38条3項は適用されません。そのため、この規定によって適法になることはありません。
また、著作権法38条1項には、非営利・無料・無報酬での著作物利用を適法とするという規定があります。
しかし、この条文が対象としているのは、あくまで「上演」「演奏」「上映」「口述」です。
一方、ネット配信番組を受信しながら観衆に視聴させる行為は、「上映」ではなく「公衆伝達」とされるため、この規定の対象にもなりません。
ほかに、このような行為を適法とする著作権法上の規定は見当たらないため、やはり著作権(公衆伝達権)の侵害になってしまうと考えられます。
なお、今回、Netflixは「侍ジャパン」選手の出身地の自治体や学校などと連携し、公式のパブリックビューイングを企画・開催しているようです。
非営利目的のパブリックビューイングであれば問題ないとイメージしがちですが、著作権侵害は、民事上の損害賠償だけでなく、刑事罰の対象にもなるため、注意しましょう。