執筆した著書の内容などを理由に記者ではない仕事への異動を命じられ、名誉感情を侵害されたなどとして、共同通信社の元記者、石川陽一さんが同社に損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁(大澤多香子裁判長)は2月20日、請求を棄却する判決を言い渡した。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●長崎新聞を「黙殺」と批判→社外活動の許可取り消し
判決などによると、石川さんは長崎県の私立高校で発生したいじめ自殺を取材し、2022年11月に著書『いじめの聖域』を出版した。
著書の中で石川さんは、学校側が自殺を「突然死」として扱おうとしたことや、長崎県も追認するような態度を示したことを取り上げた。そのうえで、地元の長崎新聞がこの問題を積極的に報じなかったとして「黙殺」と表現した。
裁判に至るまでの経緯(取材メモや裁判資料などをもとにNotebookLMで作成)
これに対して、長崎新聞から抗議を受けた共同通信は2023年1月、石川さんに「社外活動(外部執筆)の了解取り消し」を通知。さらに「本を修正しないと重版を認めないこと」や「今回の経緯をメディアで公表したら懲戒の対象になること」などを伝えたという。
共同通信はその後、石川さんに記者ではない仕事への異動を命じた。
石川さんは2023年7月、「表現の自由を侵害された」などとして、共同通信に550万円の損害賠償を求めて提訴。その後、同社を退職した。
●東京地裁「確認取材を怠った」と判断
裁判では、石川さんが著書の中で長崎新聞を批判するにあたり、同社へ「確認取材(反論取材)」をおこなわなかったことの是非が主な争点となった。
東京地裁の大澤裁判長は判決で、共同通信が加盟社に記事を配信し、加盟社が運営費を負担している点に言及。「記者が加盟社の編集方針に対する批判的記事を執筆するに当たっては、慎重な確認取材が求められる」と指摘した。
そして、石川さんが「長崎新聞記事の内容や掲載態様、長崎新聞記者発言の理由、意図ないし背景事情やこれに対する評価等について確認取材をすべきだったにもかかわらず、これを怠った」と認定。
その結果、「長崎新聞社の共同通信社に対する信用が毀損されたと評価することもできる」と認定し、社外活動の許可取り消しは正当で、不法行為にあたらないと結論づけた。
共同通信本社ビル(2026年2月15日、東京都港区で、弁護士ドットコムニュース撮影)
●判決「加盟社批判には慎重な確認取材が求められる」
また、社外活動許可を取り消した経緯の公表を共同通信が禁じたことなどについて、東京地裁は「共同通信が注意喚起することは合理的理由があったというべき」とし、「表現の自由を侵害するものとはいえない」と判断した。
さらに記者ではない業務への異動命令についても、「社会通念上許される限度を超えて原告の名誉感情を害するということはできない」として、不法行為の成立を否定した。
●代理人弁護士「時代錯誤も甚だしい判決」
判決後、石川さんの代理人をつとめる喜田村洋一弁護士は次のように述べ、控訴する意向を示した。
「今回の判決は、長崎新聞は社会の批判の対象になるべきじゃないと言っているようなもので、メディアが果たすべき機能について、まったく無知な説明をしている。時代錯誤も甚だしい」
共同通信社総務局は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して「当社の主張が認められたものと考えております」とコメントした。