裁判に勝ったものの、認められた賠償額はわずかに「4円」──。そんな判決が大阪地裁堺支部で下されたと報じられた。
朝日新聞によると、大阪府警の警察官がひき逃げ事件の捜査中、他人の駐車場に警察車両を無断で停めた。これに対して、駐車場の管理者が「使用収益権を侵害された」として、1カ月分の賃料にあたる8000円の支払いを求めて提訴したという。
大阪地裁堺支部は、賃借権の侵害を認めたうえで、無断駐車の時間が約20分間だったことなどを考慮し、不当利得の額は「4円が相当」と判断したという。
この判決について、Xでは、裁判を起こすために必要な費用を考慮すると、「勝訴した原告が被告から回収できるのは0円」といった趣旨の投稿がされて、訴訟費用の負担ルールが話題となっている。
裁判を起こして勝ったはずの当事者が、かえって金銭的な負担を負うことはあるのだろうか。訴訟費用の考え方について、河野晃弁護士に聞いた。
●民間駐車場での無断駐車に「罰金」は科せられない
──無断駐車の「罰金◯万円」などと書かれた看板を見かけることがあります。今回の判決を踏まえると、実際にはどの程度の支払い義務が生じるのでしょうか。
まず、「罰金」というのは、刑罰の一種であり、国家が科すものです。民間の駐車場で「罰金」が科せられるということはありません。
質問の趣旨は、民事上の損害賠償という意味だと解釈します。
そのうえで、今回の判決では「罰金」を明示していた駐車場の事例ではありません。月極駐車場に「契約者以外、無断駐車ご遠慮下さい」と掲示されていたところ、警察車両が無断駐車したというケースであり、前提条件が異なります。
一般的な無断駐車と比べているのではなく、「罰金〇円」のケースとは違うと言っています。
今回の判決とは無関係に答えると、無断駐車によって生じた実損額について、民事上の損害賠償が認められる可能性が高いと思います。
●賠償金は代理人を通じて支払われることが多い
──今回のように損害賠償が「4円」とされた場合、原告と被告はそれぞれどのような対応を取ることになるのでしょうか。
判決が確定したと仮定した場合、被告は大阪府ですので、判決内容に従って支払うと思います。
原告側は、判決に基づいて被告に請求書を送付するなどの行動を起こすことも考えられます。
双方に代理人弁護士がついている場合は、実務上、代理人を通じてやり取りがおこなわれることが多いと思います。
●「裁判に勝った」の意味は一様ではない
──勝訴したにもかかわらず、原告が金銭的な負担を負うケースは実際にあるのでしょうか。
「金銭的負担」をどう捉えるかによって答えは変わります。
裁判を起こすには、請求額に応じた印紙代や郵券代を裁判所に納める必要があります。出廷すれば交通費もかかりますし、弁護士に依頼すれば、その費用や打ち合わせのための経費も生じます。
こうした支出も含めて考えると、裁判には一定のコストが伴います。
また、「裁判に勝った」という言葉の受け止め方も人それぞれです。実際に回収できた金額と、かかった費用を比べて「黒字になった」ことを勝利と考える人もいれば、判決で請求が認められたこと自体をもって「勝った」と感じる人もいます。
仮に裁判で請求が棄却されたとしても、裁判を起こしたことで物事が解決に向かったり、社会的な意義を見出したりして、結果的に「勝った」と感じる人もいるでしょう。
今回の質問をシンプルに「請求が認められたにもかかわらず、訴訟実費(印紙代など)を下回るケースはあるか」という意味で受け取るのであれば、現実的に十分あり得ます。
印紙代は、請求額に比例して高くなります。たとえば、請求額が1億円の場合、1審の印紙代は32万円です。仮に一部勝訴でも、認められた金額が32万円未満であれば、計算上は赤字になります。
●弁護士費用は事前に十分な説明を求めるべし
──一般的な裁判費用や弁護士費用、損害賠償の計算方法について教えてください。
裁判所に納める印紙代や郵券代は、訴訟の内容や請求額によって異なります。
1審地裁では、請求額が10万円までなら印紙代は1000円、20万円までなら2000円といった具合です。郵券代は数千円から1万円程度になることが多いです。
弁護士費用については、弁護士ごとに異なるため一概には言えません。私の場合、事件を受任する際に着手金をいただき、事件終了時に報酬金をいただく形を取ることが多いように思います。
成果がなかった場合には、報酬金が発生しない契約です。報酬金の算定方法は、事前に契約で定めます。たとえば、「認容額の5%」といったかたちです。
そのほか、交通費や日当などの実費をいただく場合もあります。
いずれにしても、弁護士は受任前に費用について説明し、契約書に明記したうえで業務をおこないます。不明なことがあれば、事前にしっかり確認することが、のちのトラブル防止につながります。
また、たとえば、思っていたよりも高額であるなど、費用面で不満があれば、依頼することをきちんと断ることも大事です。
●「原告あっぱれ」 判決が持つ意味
──今回の判決には、どのような意味があるでしょうか。
判決文そのものを確認したわけではなく、報道をもとにした印象になりますが、まず、原告の行動に対して「あっぱれだな」と思いました。
これまでにも無断駐車が繰り返されていた、あるいは警察の対応に納得いかなかったなど、何らかの積み重ねがあったのではないかと想像します。
「警察なんだから少々多めに見てくださいよ」という姿勢に対して、裁判所が一応「それはアウト」と一定の判断を示した点に、この判決の意義があると思います。
報道によると、警察側は職務の正当性を主張して請求棄却を求めていたとのことですから、それが認められなかったということになります。
このような判決が全国の警察に周知されれば、同様の行為は、全国的に減っていくことが期待されます。
●時間貸しの駐車場だったら結論は違った?
──裁判官はどのような判断をしたと考えますか。
これも推測になりますが、警察側のいう「業務の正当性」と、原告の「財産権侵害)を比較衡量した結果、どちらを優先すべきかということを考えたのだと思います。あらゆる事情を考慮して原告の一部勝訴という判断をしたということだろうと思います。
興味深いのは、月額8000円の月極駐車場を約20分使用した結果、不当利得が「4円」と算定された点です。計算としては理解できます。
ただ、仮にここが「10分100円」の時間貸し駐車場だった場合、200円と認定されていたのか、という疑問も浮かびます。土地の利用形態によって、同じ侵害行為でも評価額が変わることになります。ちょっと不思議な感じがしませんか?
さらに、この判決が話題になることで「月極駐車場なら無断駐車しても大した金額にならない」と誤解する人が出やしないかとも考えます。
たとえば、「月額9000円の駐車場に1日無断駐車しても300円払えばいいんだ」といった曲解が広がらないことを願いたいところです。