福島県の浪江町商工会が保有する商標「なみえ焼そば」について、10月から飲食店などを対象にロイヤリティを徴収する運用が始まった。
「なみえ焼そば」は、太めの中華麺にモヤシと豚肉を使ったソース味のご当地グルメだ。
商工会は今年春から、登録料3000円に加え、売上の2.5%をロイヤリティとして徴収する方針を飲食店などの事業者に通知していた。しかし、これに反発する飲食店も現れ、別の名称で販売する動きも出ている。
SNS上では「飲食店における提供まで権利は及ばないのではないのか」といった声が上がるなど、徴収の妥当性に疑問を示す意見も少なくない。
商工会関係者には攻撃的な中傷も届くようになったが、落ち着いた対応が求められる。
知的財産法にくわしい坂野史子弁護士に、商標権の権利範囲と地域団体商標の性質から検討してもらった。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)
●「飲食店」での使用には権利が及ばない可能性も
──商工会が「なみえ焼そば」という名称で販売する飲食店にロイヤリティを求めることは可能なのでしょうか。
商工会が公表している「なみえ焼そばの商標利用内規」(公開版)には、ロイヤリティ徴収に関して、次のような定めがあります。
・各企業各屋号登録料1件3000円(登録時)、ロイヤリティは、製麺所等0.5%、飲食店2.5%とする(2月締め3月支払い)。大企業の契約商品は別途協議する。(第6条ロイヤリティ徴収)
・「なみえ焼そば」の商標使用と、商品や幟に使えるロゴマークを期間内に貸し出す。(第7条許可した場合)
ただし、「なみえ焼そば」の商標権(商標登録第5934383号)の指定商品は「30類 福島県双葉郡浪江町を発祥地とする調理済焼そば、福島県双葉郡浪江町を発祥地とする焼そばのめん」です。
つまり、商標権は麺などの食品(30類)について登録されています。
一方、飲食店が「焼そばを提供する」行為は、43類「飲食物の提供」にあたります。30類と43類は商標区分が異なるため、通常は「非類似」と判断されるものと思われます。
また、2014年の出願時には「43類 福島県浪江町で発祥した焼そばの提供」も含まれていたのですが、審査段階で削除されたようなので、このことからも30類と43類は区別される可能性が高いと思います。
──飲食店の提供行為には、商標権の効力が及ばないということですか。
その可能性が高いです。
そうすると、現在登録されている商標は43類を含んでいないため、「飲食物の提供」に関しては権利が及ばないと考えられます。
つまり、商工会の内規の「ロイヤリティは、製麺所等0.5%、飲食店2.5%とする」のうち、製麺所については30類の範囲であると考えられます。
一方で、飲食店は43類であり、非類似ですから、商標権の範囲外です。「飲食店2.5%とする」との規定は、範囲外においてロイヤリティを求めるものなので、権利が及ばない可能性が考えられます。
●地域団体商標でもある「なみえ焼そば」
──「なみえ焼そば」は地域団体商標でもあります。この場合、特別な扱いはあるのでしょうか。
地域団体商標の場合、通常の商標とは異なる特徴があります。たとえば、出願前からその商標を不正競争の目的なく使っていた者には「先使用権」が認められます(商標法32条の2)。
通常の商標における先使用権では、「周知性」(有名であること)が要件となりますが(商標法32条)、地域団体商標ではそれが不要です。
そのため、今回のケースでいえば、2014年11月6日の出願より前に「なみえ焼そば」を使っていた者は、先使用権が認められる可能性があります。製麺所も先使用権を有する場合、ロイヤリティを支払う義務はないのではないかと考えられます。
浪江町商工会のホームページ
──商工会の会員であれば、自由に使える?
地域団体商標は、地域団体(商工会や組合など)がその構成員のために登録する商標です(商標法7条の2)。構成員は、権利者の定めるところにより、個別の使用許諾なしに商標を使う権利があります(商標法31条の2)。
「定めるところにより」とは、特定の品質管理や表示基準などを守る趣旨のものです。
したがって、特定の品質等を満たしている構成員に対して、商工会等の権利者が「ロイヤリティの支払いをしなければ商標の使用を制限する」とする運用が、はたして地域団体商標の趣旨に沿うのか、という問題もあるように思います。
なお、今回の解説にあたっては、岡村太一弁理士に協力をいただきました。