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死刑執行は「選挙対策」なのか?過去30年分のデータで検証…参院選前に「座間事件」で執行に疑念の声も
白石隆浩氏の死刑が執行された東京拘置所(iLand / PIXTA)

死刑執行は「選挙対策」なのか?過去30年分のデータで検証…参院選前に「座間事件」で執行に疑念の声も

神奈川県座間市で2017年に男女9人を殺害したなどとして死刑が確定した白石隆浩死刑囚(34)の刑が6月27日、東京拘置所で執行された。

死刑は2022年7月の秋葉原無差別殺傷事件の加藤智大死刑囚(当時39歳)以来、約3年間執行されていなかった。そんな中、参議院選挙を目前に控えたタイミングでの執行となったことから、ネット上には「選挙対策では?」といった書き込みも見られる。

はたして、そんなことがありうるのか。直近30年の死刑執行と国政選挙の実施日を調べてみた。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

●死刑執行から3カ月以内の国政選挙、過去30年で何回?

死刑に関するデータをまとめているNPO「CrimeInfo(クライムインフォ)」のサイトや、衆議院・参議院の公式資料を参考に、1995〜2025年の約30年間に実施された死刑執行と国政選挙のタイミングを整理した。

死刑の執行がなかった年は、2011年(東日本大震災)、2020年、2023年、2024年の4回のみ。

2018年には、無差別テロ事件を起こしたオウム真理教の元信者ら計15人の死刑が執行され、特に多い年となった。

死刑執行と選挙の関係を厳密に断定するのは難しいが、今回は選挙投開票日より「3カ月前」までに死刑が執行されたケースをみてみる。

画像タイトル 1995〜2025年にあった死刑執行と国政選挙(CrimeInfoのサイトなどを参考に弁護士ドットコムニュースが作成)

●内閣支持率が落ち込んでいない時期にも死刑執行

今年7月20日に投開票される参院選を含めると、1995〜2025年の間に国政選挙は計21回(衆院選10回、参院選11回)おこなわれている。

このうち、死刑執行後3カ月以内に選挙があったのは、1995年(参院選)、1998年(参院選)、2003年(衆院選)、2009年(衆院選)、2012年(衆院選)、2013年(参院選)で、今回の参院選が7回目となる。

これらの選挙当時、それぞれ以下のような政治状況があった。

1995年:自民、社会、さきがけの3党連立政権下で初の国政選挙。社会党が大幅に議席を減らした。

1998年:金融不安が広がる中、橋本龍太郎内閣の支持率は24%(NHK世論調査、以下同)。選挙で大敗し退陣。

2003年:小泉純一郎首相が自民党総裁選で再選後、衆院解散。小泉内閣の支持率は56%。

2009年:麻生太郎内閣の支持率が低迷(同年8月の麻生内閣の支持率23%)。選挙で民主党が政権奪取。

2012年:野田佳彦内閣の支持率は20%。選挙で自民党が政権奪還。

2013年:自民党が政権を取り戻して初めての参院選。直前の都議選で自民党が第1党に。安倍晋三内閣の支持率は57%。

そして2025年、参院選を控える中で石破茂内閣の支持率は39%。米不足や物価高の影響で家計が圧迫され、6月の都議選では自民党が大きく議席を減らした。

このように、1998年、2009年、2012年、2025年の選挙時には内閣支持率が不支持率を下回る状況だった一方で、2003年や2013年のように支持率が落ち込んでいない時期にも死刑執行がおこなわれている。

参議院議員は任期が6年で3年ごとに半数改選だが、衆議院は首相の解散権により実施時期が流動的なため、衆院選のほうが「選挙対策」との疑念が生じやすいともいえる。

画像タイトル 多くの死刑囚が収容されている東京拘置所(柳生 鉄心斎 / PIXTA)

●死刑ゼロが続く中で廃止を期待していた人も

2022年には、当時の葉梨康弘法務大臣が「トップニュースになるのは死刑のはんこを押したような時だけ」という趣旨の発言をして辞任した。

さらに2024年には、死刑が確定し長期間身柄を拘束されて死の恐怖にさらされ続けてきた袴田巌さんが再審無罪となった事件が大きな話題となった。

執行が途絶える期間が長く続いたことで、死刑廃止を求める研究者らの中には、法務大臣が死刑執行を決断しにくくなり、結果的に死刑制度の見直しにつなげられるのではないかと期待する声もあった。

一方、内閣府が5年ごとに実施している死刑に関する世論調査(2025年2月公表)では、「死刑もやむを得ない」と答えた人が83.1%、「廃止すべきだ」とした人が16.5%で、依然として、死刑制度を肯定する意見は根強い。

画像タイトル 日本の死刑は刑法で絞首刑とされている。写真はイメージ(bee / PIXTA)

●国民に情報が明かされない日本の死刑

日本では、どのような基準で死刑執行する対象者を選んでいるのかなど、制度に関する重要な情報がほとんど明かされていない。

死刑囚が面会や手紙のやり取りをできる相手は、ほぼ家族に限られる。事件や被害者について何を考え、どのように過ごしているのかを国民が知る機会は極めて少ない。

今回の白石・元死刑囚についても、死刑判決後にどのような心境の変化があったのか、社会に共有されることはないままとなった。

以上のように、過去の選挙との比較だけでは、死刑執行が「選挙対策」と断言することはできない。

しかし、「選挙対策では?」といった疑念が生じる背景には、死刑制度の閉鎖性と不透明さがあるのはたしかで、それが死刑に関する国民的な議論を停滞させる一因となっている。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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