全国で気温が上昇し、早くも真夏のような暑さが始まっています。
環境省と気象庁は6月16日、和歌山県や香川県などに「熱中症警戒アラート」を出しました。これは、気温が著しく高く、熱中症のリスクが特に高まることを示すものです。
今日17日も、千葉県や和歌山県に熱中症警戒アラートが発表されているほか、東京でも35度以上の「猛暑日」になる予想です。
熱中症対策が欠かせませんが、このような気候の下、会社は従業員にどのような配慮をしなければならないのでしょうか。今井俊裕弁護士に聞きました。
●会社に「熱中症対策」が義務付けられた
──翌日の著しい暑さが予想されるような状況で、会社は従業員に対してどんな配慮が求められるでしょうか。
この時期から全国的に暑さが本格化するようですね。湿度の高い日本では、残念なことに毎年のように脱水症状や熱中症による死亡事故、労働災害が生じています。
厚生労働省は、熱中症の重篤化を防止するため、労働安全衛生規則を改正しました。この規則が今年6月1日から施行されることで、会社には熱中症対策が義務付けられることになりました。
たとえば、従業員に熱中症を生じるおそれのある作業をさせる際、熱中症の自覚症状のある従業員や、熱中症のおそれのある従業員を見つけた同僚などが、その事業場の担当者に報告する体制をあらかじめ定めて周知しておかなければなりません。
さらに、従業員がその作業中から一旦離脱することや、身体を冷却すること、必要に応じて医師の診察や処置を受けること、事業場ごとの緊急連絡先や搬送先などの手順を定めて周知しておく義務もあります。
この改正規則でいう「熱中症を生じるおそれのある作業」とは、暑さ指数が28度以上の作業場で継続して1時間以上の作業をおこなわせる場合などが含まれます。
もちろん、各地点の暑さ指数はその環境によって大きく異なるので、必ずしも直結するとまでは断定できませんが、行政によって熱中症警戒アラートが発令されている地域などは、これに該当する可能性があります。
●安全配慮義務に反した会社は「損害賠償責任」を負う
──ということは、会社は従業員に休息させる義務を負うといえますか。
この規則は、労働者の安全を保護するために会社が遵守すべき決まりを国が一律に決めたものです。従業員と会社との権利義務関係を直接定めたものではなく、これだけで会社が従業員に対して、作業を中断させて休息させる義務を負うということにはなりません。
しかし、会社と従業員との関係を直接に律する法律として、労働契約法があります。この法律の中で「使用者は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」という条文があります(労働契約法5条)。
この条文によって、会社は、作業を中止させたり、身体を冷却させたり、医師の診察や処置を受けさせる義務をその従業員に対して直接負います。
仮に会社がこの安全に配慮する義務に違反した結果、従業員に被害が生じた場合は、原則として、従業員に対して損害賠償責任を負うことになります。
●「在宅勤務」を命じる義務までは難しい
──コロナ禍以降、在宅勤務が広がりました。たとえば翌日に高い度数の暑さ指数が予想されるような場合、会社に在宅勤務を命じる義務があるといえるでしょうか。
もちろんケース・バイ・ケースの判断になりますが、結論として、会社にそのような義務を認めることは難しいと思います。
改正規則では、熱中症のおそれのある作業をおこなわせる場合に会社がとるべき措置がいくつか規定されていますが、就業場所の変更、つまり、その日は在宅勤務を命じるという義務までは規定していません。
その従業員の業務の種類によりますが、在宅で就労しても本来の意味をなさない業務もあるでしょう。むしろ規則が予定しているのは、そのようなタイプの業務であるとも思えます。