無期懲役刑の"終身刑化"を招いていると指摘されることがある「マル特無期(まるとくむき)」通達が、国会の議論に上がった。
衆院法務委員会で、弁護士の議員が「終身刑を法務省、検察庁が創設したと言われても過言ではない」と指摘したのに対し、法務大臣は「通達の廃止を検討する状況ではない」と答えた。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●求刑死刑の事件などが対象になっているとみられる
「マル特無期」通達とは、1998年に最高検が出した通達のことで、「無期懲役刑受刑者の中でも特に犯情等が悪質な者」を「マル特無期」と指定。
「従来の慣行等にとらわれることなく、相当長期間にわたり服役させることに意を用いた権限行使等をすべきである」として、全国の地検や高検に仮釈放を判断する際により慎重な対応を求める内容だ。
検察庁がどのような条件、基準でマル特無期を指定しているのかは明らかでないが、裁判で死刑が求刑された事件などが対象になっているとみられている。
最高検の「マル特無期」に関する通達。「無期懲役刑受刑者の中でも、特に犯情等が悪質な者については、従来の慣行等にとらわれることなく、相当長期間にわたり服役させることに意を用いた権限行使等をすべき」と書かれている
通達によると、検察庁はマル特無期に該当する可能性がある無期懲役の判決が出た場合、マル特無期に選定するかを協議する。
「マル特無期」に指定した事件の受刑者については、事件の概要やマル特無期に指定した経緯などをまとめた記録を作成する。
受刑者の仮釈放を申請する「刑務所」や仮釈放の許可・不許可を判断する「地方更生保護委員会」から意見を求められた際に、記録をもとに検察庁としてより慎重な対応をすることになっているという。
藤原規眞・衆院議員(衆議院インターネット審議中継より)
●藤原議員「通達後、仮釈放数が年16.89件から7.04件に」
5月16日にあった衆院法務委員会で、立憲民主党の藤原規眞(のりまさ)議員がこの通達について取り上げた。
弁護士でもある藤原議員は「マル特無期」が発出された1998年(平成10年)を境に、仮釈放された無期懲役囚の数が大幅に減少していると指摘したうえで、次のように質問した。
「平成元年から9年までの無期刑囚の仮釈放許可人員の数は、平成3年の33件をピークに9年間の平均で年16・89件ありました。
一方で、マル特通達が施行された翌年から令和5年までは年平均7・04件です。
16・89件から7・04件。明らかに有意な差があるわけですけど、これも個々の事案に応じて適切におこなわれた結果という理屈で片付けられますか。
立法にもよらず、しかも全面公開されていない通達一本で生じて良い差ではないと思うが、いかがですか」
これに対して、法務省の押切久遠・保護局長は「仮釈放の審理が個々の事案に応じて適切におこなわれた結果であると認識している」と述べた。
国会議事堂(2025年5月、弁護士ドットコムニュース撮影)
●有期刑の上限30年に引き上げも「通達は妥当」
また、藤原議員は、2004年の法改正で有期刑の上限が20年から30年に引き上げられた点に触れたうえで「法改正で無期刑の重罰化が実現されているにもかかわらず、なぜマル特無期は廃止されずに現在も生きているのか」と質問。
法務省の森本宏・刑事局長は、「有期刑の最長刑が引き上げられたあとも(マル特無期が定められた)趣旨は引き続き妥当していると考えていることから、ご指摘はあたらない」と答えた。
鈴木馨祐・法務大臣(衆議院インターネット審議中継より)
●法相「通達の廃止を検討する状況ではない」
「無期懲役の場合でも仮釈放が認められるか否かは一定の裁量があるとしても、法律によらずに実質的な終身刑が創設されることはあってはならない」
藤原議員はそう懸念を示し、「終身刑を法務省、検察庁がオリジナルで創設したと言われても過言ではないと考える。マル特通達のあり様を調査し検討すべきではないか」と尋ねた。
これについて、鈴木馨祐(けいすけ)法務大臣は次のように答弁した。
「通達は法律によって定められた運用の範囲であると考えております。そうした中、通達の趣旨は現在も妥当するものではないかと考えており、廃止を検討するような状況ではないのではないかと私としては考えております」