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連合赤軍事件、無期懲役囚の仮釈放を待つ91歳弁護士 立ちはだかる「マル特通達」の壁
古畑恒雄弁護士は今、男女2人の無期懲役囚の身元引受人になっている(2024年7月9日、東京都中央区で、弁護士ドットコムニュース撮影)

連合赤軍事件、無期懲役囚の仮釈放を待つ91歳弁護士 立ちはだかる「マル特通達」の壁

52年前、革命を夢見た若者たちが長野県軽井沢町で起こした「あさま山荘事件」。当時検事として事件の関係者を取り調べ、その後同じ事件で無期懲役の判決を受けた受刑者を弁護士として支える側に回った男性がいる。

法務省保護局長などを歴任し国の刑事政策の現場も知る弁護士は今、無期刑をめぐる不透明な運用に対して「密かに終身刑とされている」と声を上げている。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

画像タイトル あさま山荘事件に関わり、無期懲役刑に服している吉野雅邦受刑者から古畑弁護士に送られてきた手紙。いつも封筒の同じ位置に切手がきれいに張られているという

●若者が”革命戦士”になった経緯を知り「死刑にさせたくない」

弁護士の古畑恒雄さん(91)は、東京都新宿区にある更生保護施設「更新会」の理事長を務め、現在、男女2人の無期懲役囚の身元引受人になっている。

過去には、実業家の堀江貴文さんや参議院議員の鈴木宗男さんなど受刑者となった著名人を支援したこともある。

古畑さんは元検事で、1972年に起きた連合赤軍による「あさま山荘事件」の取り調べに関わった。逮捕された一人の若者とのやり取りを今も覚えているという。

「最初、彼に職業を聞いたら『革命戦士です』と言っただけで黙秘しました。それでも対話を重ねるうちに心を開き、リンチ殺人について話すようになりました。彼とは文学論などの話をして、たまたま『ドフトエフスキーを読んだことありますか?』と聞かれたんです。それがきっかけでカラマーゾフの兄弟の文庫本を3冊差し入れたら、心休まるような表情をしていました」

古畑さんは、その若者が当初は社会をよくしたいと思って学生運動に熱中していった経緯を知り、「動機その他の情状にかんがみると、死刑だけにはさせたくない」と取り調べ調書には彼の言い分をしっかり盛り込んだという。

裁判で検察は彼に無期懲役を求刑したものの、懲役20年の実刑判決が確定し、服役後に社会復帰した。

画像タイトル 古畑弁護士が理事長を務める更生保護施設「更新会」

●無期囚に立ちはだかる壁「マル特通達」

古畑さんは退官して弁護士になった後、連合赤軍の元メンバーから、無期懲役囚として服役している吉野雅邦(よしの・まさくに)受刑者(76)を紹介され、「何とか仮釈放させてほしい」と懇願された。

吉野受刑者は、あさま山荘事件で妊娠中の恋人など合計17人の死亡に関わったとして、殺人罪などで起訴され、死刑の求刑に対して無期懲役の判決を受けた。逮捕から数えると50年以上が経っている。

古畑さんは2017年に吉野受刑者の身元引受人になり、手紙のやり取りや刑務所での面会を続けている。吉野受刑者の実家が都内に残されており、その管理も行っている。

ただ、吉野受刑者には大きな壁が立ちはだかっている。それが「マル特無期通達」の存在だ。

1998年に最高検が出した通達のことで、「無期懲役刑受刑者の中でも特に犯情等が悪質な者」を「マル特無期」として扱い、「従来の慣行等にとらわれることなく、相当長期間にわたり服役させることに意を用いた権限行使等をすべきである」としたものだ。

どのような条件でマル特無期に指定するのかを検察は明らかにしていないが、死刑が求刑された事件などが対象になっていると見られている。

画像タイトル 最高検への開示請求で入手した「マル特無期」に関する通達。「無期懲役刑受刑者の中でも、特に犯情等が悪質な者については、従来の慣行等にとらわれることなく、相当長期間にわたり服役させることに意を用いた権限行使等をすべき」と書かれている

●「内部通達の運用で密かに終身刑化」

古畑さんによると、吉野受刑者は刑務所で模範囚として生活しているというが、事件の被害者が多数に上り裁判で死刑を求刑されたことが半世紀以上経った今も仮釈放が認められない要因の一つと見ている。

「仮釈放されたら彼は被害者遺族へのお詫びに回りたいと言っています。今出てきても彼が再犯する可能性は全くありません」

そう断言する古畑さんは、近年、無期懲役刑が「終身刑」となりつつある現状に強い疑問を示す。

「今の無期懲役刑は、法律に基づかずに内部通達の運用によって密かに終身刑とされています。刑事収容施設法には『受刑者の処遇は、改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成を図ることを旨として行うものとする』と書かれていますが、全く反映されていません。無期懲役囚は見捨てられた犯罪者群というような感じがします」

画像タイトル 吉野雅邦受刑者から送られてきた手紙を手にする古畑弁護士

●「受刑者の処遇を人間味のあるものに」

被疑者を取り調べる検事と、罪を犯した者の立ち直りを支援する弁護士という二つの立場を経験したが、一貫して「生まれながらの犯罪者はいない」「どんな罪を犯した人でも変わり得る」と信じている。

「私もいつどこかで罪に問われることがあったかもしれず、たまたま家族や友人など周りの人間関係に恵まれていただけだと思うことがあります。事件を起こした人を一人一人見ていくと、それぞれに事情や理由があります」

来年には懲役刑と禁固刑が一本化され「拘禁刑」が導入される。刑事司法にとって過去にないほどの大転換期に差し掛かっており、古畑さんはこう期待を込めて語る。

「日本では無期懲役に関する情報が少ないため、無期懲役囚の心情や境遇についてあまり議論されていません。今、刑事政策が大きく変わりつつあるので、受刑者の処遇も人間味のあるものにしてほしい」

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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