弁護士ドットコム ニュース
  1. 弁護士ドットコム
  2. 民事・その他
  3. 万博土下座、なぜ起きたのか?カスハラ招いた組織の甘さ、専門家が指摘
万博土下座、なぜ起きたのか?カスハラ招いた組織の甘さ、専門家が指摘
土下座事案について組織としての問題点を指摘する能勢弁護士

万博土下座、なぜ起きたのか?カスハラ招いた組織の甘さ、専門家が指摘

4月に大阪・関西万博の会場近くで警備員が来場者に対して土下座した事案は「カスハラ」にあたるとして大きな話題となった。

万博協会は土下座について、「自主的な行動」との見解を示すが、カスハラ対策に取り組む能勢章弁護士は「『組織としては関係ない』という態度と受け取れる」と指摘する。

そのうえで、能勢弁護士は、自主的に土下座に至った背景には「組織的に土下座を許容する雰囲気があったのではないか」と話す。

企業のカスハラ対策における組織としての問題点にはどのようなものがあるのか。「万博土下座」を例に考える。

●「自主的な土下座」で片づけられない理由

──大阪万博における警備員の土下座はカスハラと言えますか。

土下座という目立った行動に目が行きがちですが、土下座の前後にどういう事象があったのかを客観的に整理する必要があります。

デジタルサイネージへ案内した行動は適切だったとされていることから、警備員の行動には落ち度はないと思われます。それにも関わらず、来場者から詰問されて、警備員は謝罪したのですが、その後、来場者は警備員に対して大声を出して詰め寄っていました。

こうした流れの中で、警備員は身の危険を感じて自ら土下座したとのことです。警備員が土下座をした際に来場者は、「土下座をやめてください」と冷静に話すのならともかく、腕を組んで土下座する姿を見下ろしながら、何やら大声で叫んでいました。

これらの来場者の言動や警備員の反応からすれば、来場者の言動は威圧的であり、社会通念上不相当な行為であり、しかも、警備員の就業環境を悪化させるものだったと言えるでしょう。

自主的に土下座をしたのなら、カスハラではないだろうという考え方もあるかもしれませんが、それだったら「土下座なんてやめてください」と冷静に言えば良いだけなのに、来場者は腕を組んで怒鳴りつけているわけです。

たとえ土下座の強要がなかったとしても、その前後に「威圧的な言動」があったのであれば、それは社会通念上不相当な行為があったと言えるので、土下座のあるなしとは関係なく、カスハラにあたると思います。

●「土下座を許容する雰囲気」があることが問題

──今回の事案について、組織としての問題点はどこでしょうか。

さまざまな報道を見てみると、万博協会としては、土下座については自主的な問題だったとして、良いとも悪いとも評価していません。見方を変えれば、土下座という、ちょっと行き過ぎた接客対応を個人的にやったに過ぎず、組織としてはあまり関係ないという態度であったと受け取れます。要するに、警備員の自主性に委ねたということなのでしょう。

しかし、自主性に委ねられたとしても、警備員の側から見れば、恐怖を感じて、そこから逃れたい一心で土下座をしてしまった可能性もあります。そうした場合であったとしても、組織的には「自主的におこなった」の一言で片づけられることにもなりかねません。これでは安心して業務をおこなうことはできないでしょう。

そもそも万博協会の通常業務において、土下座が必要になる場面はありません。たとえ自主的な土下座であったとしても、組織内に土下座を許容する雰囲気があること自体が問題なのであり、そうした雰囲気が払拭されない限り、万博協会の業務でカスハラを防ぐことはできないと思われます。

カスハラがハラスメントの一種である以上、セクハラやパワハラと同じように、従業員を守るために組織内からカスハラを根絶する覚悟を持たなければなりません。そうした覚悟がある組織では、たとえ自主的なものであっても「土下座なんかやめよう」という雰囲気になるはずです。

ところが、万博協会には「自主的に土下座してでも面倒なお客さんをなんとかしてくれよ」という雰囲気があった可能性があるのです。

この事件のあとに万博協会が発表したカスハラに対する基本方針には「毅然とした態度で対応します」と書かれていますが、そんな雰囲気では毅然とした対応なんかできません。そうした雰囲気が払拭されない限り、毅然とした対応といいながら、結局は「自主的に土下座をすることになるんですか」という話にもなります。

万博協会としてはいろいろなカスハラ対策を講じているのでしょうが、結局は形だけ作っても、魂が込められたものではなかった。それが土下座という行為に表れたのではないでしょうか。

●カスハラ対策を接客業務の一環として考えてはいけない

──そもそも、なぜこうした対応が現場で起きるのでしょうか。

カスハラ対策を接客業務の一環と考えていることに原因があると思います。

企業でカスハラ対策の実務をおこなっている方とお話をすることがあるのですが、未だに「適切に接客をおこなっていれば、カスハラなんて生じるはずなんてない」と言われる方もおられます。

しかし、そういう問題ではないと思います。カスハラ加害者の特徴として、独自の正義感をもち、それが軸として揺るがず、どんな説得にも応じないというものがあるのですが、そうした特徴から考えれば、企業側でどんなに適切な接客対応をおこなっていても、カスハラを防ぐことはできません。

また、企業の幹部の中にはクレーム対応が上手いこともあって出世した方もおられると思います。そういった方はやっぱり自分がクレーム対応で成功したから、部下も同じように成功できるだろうと思っている節があるんです。

でも今はそんなことを部下に求めるのは難しくなっています。そんなことを求めていたら離職されてしまうからです。経験上、カスハラが多い職場というのは離職率の高いところとリンクしています。カスハラを受けた人が辞めるとそのショックで連鎖して同僚が辞めるというケースもあります。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

能勢 章
能勢 章(のせ あきら)弁護士 能勢総合法律事務所
カスハラ専門の弁護士。カスハラという言葉がない時代からBtoCの企業から依頼を受けて困難なカスハラ案件に数多く従事する。カスハラ対策及びカスハラ対応に関する情報を発信するサイト「正しいカスハラ対策で従業員を守る方法 - カスハラドットコム (kasuhara.com)」を運営している。

オススメ記事

編集部からのお知らせ

現在、編集部では協力ライターと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

協力ライター募集詳細 情報提供はこちら

この記事をシェアする