東京都立川市の小学校に侵入した男性2人が暴れるなどして暴行の疑いで逮捕される事件が起きました。
NHKによると、5月8日午前、この学校に子どもを通わせる母親の知人である男性2人が学校に侵入し、教室で子どもの担任の教諭に暴行を加えたり、酒の瓶を床に投げつけたり、ガラスを割ったりしたといいます。
暴れた男性2人は児童の母親に呼ばれて学校を訪れ、教職員の男性5人がケガをしたものの、教室にいた30人ほどの児童にはケガはなかったそうです。
事件を目撃した子どももいるといい、今後トラウマを抱える児童が出てくるかもしれません。
学校の児童やその保護者が、暴れた男性2人らに損害賠償を求めることはできるのでしょうか。また、学校の安全を守るために何が必要なのでしょうか。浅井耀介弁護士に聞きました。
●児童や保護者は損害賠償を請求できる?
──今回の事件を起こした男性2人や学校に呼びつけた母親に対して、学校に通う児童や保護者が損害賠償を求めることはできますか?
ケガをした教職員らが直接的な被害を受けていることは当然として、学校に通う児童やその保護者も、精神的に動揺してしまうなど間接的な被害を受けているものといえます。
間接的な被害については、直接的な被害と比して損害賠償請求が認められにくい傾向にはあります。
しかし、暴力行為を目の前にした児童らの精神的負担を軽視すべきではありません。
例えば、児童が直接暴力を振るわれたわけでなくとも、家庭内で配偶者に対する暴力がありそれを児童が目にすれば、それは児童に対する「心理的虐待」に該当します。
そうだとすれば、本件においても、児童が暴行現場から相応に近い距離にいて、それにより多大なショックを受けた場合などには、男性2人やその男性らを呼びつけた母親に対する損害賠償請求が認められる余地はあるかと思われます。
●学校側の責任は?
──男性2人の侵入を許した学校側に責任を問うことはできますか?
学校側に安全配慮義務違反が認められた場合には、学校側の責任を問うことができます。
本件において、ケガをした児童はいなかったという点については、現場の先生方の対応は素晴らしいものだったかと思います。
しかし、そもそも男性らが学校の敷地内に容易に侵入できてしまったという点については、果たしてセキュリティ対策として万全だったのか検証すべきですし、学校側の安全配慮義務違反が問われる可能性もあるかと思われます。
●警備員の導入や「モンスターペアレンツ」対策を
──今回のような事件を防ぎ、学校の安全を守るためにはどのようなことが必要なのでしょうか?
私も、依頼を受けて全国各地の学校に面談に行く機会が多いのですが、その際、特に公立の学校において、警備員がいる学校をほとんど見たことがありません。
私たちが来たことを誰にも知られることなく校舎内に立ち入ることができてしまうことすらあります。その度に「これで私が不審者だったらどうするのだろうか」とゾッとします。
今回の事件は、まさにそのような警備体制の甘さが一因となって引き起こされてしまったものと考えられます。
私立の学校においては校門などに警備員を配置している学校も多くあるので、公立の学校においても警備員の導入を真剣に検討すべきではないでしょうか。
また最近、「学校に対して不当な要求をする保護者による様々なトラブルが生じている」といった相談を受けることも多いです。
学校として、対応すべき保護者の要望があることは間違いないのですが、毅然とした態度で断るべき要求があることもまた事実です。
それらの線引きについて、明確な基準が存在せず、現場任せとなってしまっているがゆえに、混乱が生じてしまうのだろうと思われます。
本件において、母親と学校側との間でどのような話があったのかは定かではありませんが、適切な対応をしていれば、もしかしたら事件を防げたかもしれません。
今月から東京都教育委員会において、「モンスターペアレンツ」対応マニュアルを策定するための有識者会議が設置されていますが、全国的な規模で保護者からの不当要求に適切に対応するためのガイドラインなどを策定するべきと考えます。