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オフィスビル、トイレ満室で「他の階」使う人いませんか? 法的に問題ないのか、弁護士に聞いてみた
画像はイメージです(cba / PIXTA)

オフィスビル、トイレ満室で「他の階」使う人いませんか? 法的に問題ないのか、弁護士に聞いてみた

ここは日本のどこか。せわしいオフィス街の一角に悠人さん(仮名)が勤める会社のビルがある。

そのビルはフロアごとに入居者、つまりテナントが違うのだが、先日、見かけたことのない人物が、悠人さんの会社のフロアにあるトイレから出て来るところを目撃した。

そのときは「お客さんかな」と思ったが、あとから他の階に入る会社の社員だったことがわかったという。男子トイレの個室は少ないため、おそらく満室で、便意を我慢できず使ったものとみられる。

悠人さんは同僚との雑談の中で、驚きを持ってこの話を伝えたところ、逆に「え、あなたはやったことないの?」と言われたという。世間一般のマナーはいざしらず、法的には問題ないのだろうか。佐々木一夫弁護士に聞いた。

●他の階のトイレは自由に使えるとは限らない

意外と知られていないのですが、他の階のトイレは自由に使えるとは限りません。

一般にオフィスビルのトイレに関しては、ビルの構造や契約形態によって、「テナントの専有部分」に含まれる場合と「ビル全体の共用部」に該当する場合があり、法的評価が異なります。

また、ビル全体の共用部であったとしても、館内規則によって利用のルールが定められている場合があります。

これらのことを知らないで他の階のトイレを日常的に利用していると、思わぬトラブルに発展することもありえます。詳しくみていきましょう。

●テナント専有部分→許可なく立ち入れば法的トラブルになりうる

まず、トイレがフロアごとに入居テナントの所有(あるいは賃借)空間の一部として扱われているケースです。

オフィスビルによっては、契約時に「該当のフロアに設置されたトイレはそのテナントの専有部分とする」という特約が盛り込まれていることがあります。テナントが内装工事などでトイレを改装する権限を有している場合や、フロア全体を大きく賃借している場合は、トイレも専有部分とされている可能性が高いです。

この専有部分は、賃貸借契約に基づいてテナントが独占的に使用する権利を持つ空間のことを指しています。ですから、テナントの許可なく立ち入れば、民事上は「不法行為」(民法709条など)の問題となりえますし、状況によっては刑事上の「建造物侵入罪」(刑法130条)が成立する可能性もあります。

そうすると、専有部分に設置されたトイレであれば、単なるトイレの使用であっても「外形上部外者が入ってはならないとわかるような位置のトイレだった」とか「事前に明確にこのフロアのトイレはテナントの専有部分であることがわかっていた」にもかかわらず利用を強行すると、法的トラブルにつながる可能性があります。

実際のところ、トイレ使用で具体的な損害が発生しにくいのも事実です。しかし、企業によっては情報セキュリティ上の理由や、施設管理上の方針で「当社フロアへの無断立ち入りを禁ずる」という厳格な姿勢をとる場合もあります。

その場合、警告を受けたにもかかわらず繰り返し使用していると、トラブルが大きくなることがありますので、利用は控えるべきです。

●ビル全体の共有部分→館内規則などに従う必要あり

次にオフィスビル全体の共用部としてトイレが設置されているケースです。

ビルの構造上、各フロアに設置されたトイレが共用扱いになっていることも珍しくありません。契約形態によっては「◯階から◯階までは共同トイレ」「管理会社やビルオーナーが一括管理するトイレ」と定めているケースもあります。

共用部であれば、基本的にはビルの全テナントや来訪者が利用することを想定しているため、他のフロアの人が利用しても、ただちに違法となったり、トラブルになる可能性は低いでしょう。ただし、管理権限はあくまでビルの所有者・管理会社にあり、各テナントは賃借人としての使用権を間接的に与えられているに過ぎません。

共用部のトイレは専有部分にくらべれば、使って良い人の幅は広くなるのが一般的ですが、ただ、それでも常に「誰でも自由に使ってよい」というわけではなく、ビルが定める館内規則や管理規約に従って使用する必要があります。

特に大規模オフィスビルでは、テナントや来客向けに「トイレは各自のフロアのものを利用してください」あるいは「フロア間の移動によるトイレ使用は禁止」といったルールが定められていることもあります。

こうしたルールに反して、明確にアクセス権限が制限されているトイレに立ち入った場合には、専有部分の場合ほどではないにせよ、やはり不法行為や建造物侵入罪が問題となる可能性があります。

また、賃貸借契約書上、テナントは館内規則に従う義務があることが通常ですから、その館内規則に反していれば、賃貸借契約上の義務に違反していることになります。

テナント(その従業員も含む)が義務違反を集団的に長期間繰り返し、他のテナントからの苦情も出て管理上の支障も生じているなど、あまりにひどいと評価される場合には、賃貸借契約解除をめぐる紛争になるリスクも考えられます。

●ビル管理会社へ問い合わせておくと良い

以上から、まとめると次のようにいえます。

トイレが専有部分の場合、そのテナントの独占的な占有空間であり、無断使用はトラブルを招く可能性があります。管理者やテナントによって外形的、明示的に禁止されているなら控えるべきです。

トイレが共用部の場合、ビル全体が利用するスペースであるため、法的にすぐ問題になるわけではありません。ただし、館内規則による制限やセキュリティ管理上の方針が存在することがあるため(大規模ビルではほぼ確実にあります)、ビル全体で取り決めがある場合は従わなければなりません。

「規則があるのに守らない」という事態は、管理会社や他のテナントとの関係悪化を招きます。しっかり確認して守りましょう。

もちろん、他の階のトイレを一回利用した程度で、具体的な法的問題が生じることがあるわけではないかもしれません。

ただ、何も考えずに他のフロアのトイレを使っていると、知らず知らずのうちに法律違反や賃貸借契約上の義務違反になる場合があります。

そのようなリスクを回避するために、入居しているビルのトイレが専有部分なのか共用部分なのかを確認したうえで、また館内規則の確認やビル管理会社へ問い合わせをしておくと良いでしょう。ルールを知らなければ守りようもないですからね。

そして、ルールがわかれば、そのルールに沿った利用を心がけることが、トラブルを回避することに直結すると思います。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

佐々木 一夫
佐々木 一夫(ささき かずお)弁護士 弁護士法人アクロピース
弁護士法人アクロピース代表弁護士。東京都の赤羽と埼玉県の大宮にオフィスを有し、相続、不動産を中心に、企業法務、離婚、交通事故、労働など幅広い案件を扱っている。任意交渉のみならず訴訟案件を多く取り扱っており、法廷での訴訟活動に強みを持つ。

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