「ドジャースの試合、見られます!中継、流してます!大谷翔平選手、見られます!」
米大リーグの開幕戦が東京ドームで開かれた3月18日夜。仕事帰りに都内の繁華街を歩いていた記者は、居酒屋で呼び込みをしているのを見かけました。
大谷翔平選手の活躍を見ながら、一杯引っかけるのも乙なものだなと思いながら、記者の脳裏にはあることがよぎりました。
著作権です。飲食店でスポーツ中継を流すには、何かルールがあったはず…。さっそく著作権法にくわしい高木啓成弁護士に聞いてみました。
●家庭用テレビであれば「著作権侵害」にならない
——飲食店など、多くの客が集まる場所で、スポーツ中継番組を流すことは著作権侵害になってしまうのでしょうか。
野球やサッカーなど、スポーツ中継番組は、複数のカメラで試合を捉えてカメラワークをおこない、解説者が機転の効いた実況をするなど、視聴者を楽しませるように創意工夫がなされているので、そのような番組は著作物として「著作権」で保護されると考えられます。
しかし、実は、飲食店など多くの客の向けて放送番組を流すことについては「通常の家庭用受信装置」を使っている限りは著作権者の許諾は不要、という規定があります。
したがって、たとえ営利目的であったとしても、「通常の家庭用受信装置」で放送番組を流すのであれば、著作権侵害には該当しません。
じゃあ「通常の家庭用受信装置」とは何だ?という疑問も出てくると思います。要は、家庭用テレビ・ラジオですが、昔と異なり、近年は家庭用と業務用の区別はあいまいになっていますよね。
ですので、どこまでを家庭用テレビといえるかは明確な基準はありませんが、やはり、業務用のプロジェクターやスピーカーを設置してパブリックビューイングをおこなう場合には、家庭用テレビとはいえず、著作権者の許諾なしにはできません。
●パブリックビューイングには「注意点」も
—— では、店外で「ドジャースの試合、見られます!」と呼び込むことに問題はないのでしょうか。
先ほど述べた通りなので、スポーツ中継番組を「家庭用テレビ」で流すのであれば、そのような呼び込みも問題ありませんが、業務用のプロジェクターやスピーカーを設置する場合は許諾が必要となります。
——地方自治体や学校などでパブリックビューイングをおこなう場合はどうなのでしょうか。
企業や飲食店のパブリックビューイングと異なり、地方自治体や学校などが非営利でパブリックビューイングをおこなう場合は、家庭用テレビに限らず、著作権者の許諾は不要になっています。
ただ、一つ注意があります。
パブリックビューイングについては、著作権だけでなく、「著作隣接権」についても考える必要があり、放送事業者がおこなう放送は、その放送そのものが「著作隣接権」の保護の対象にもなります。
どういうことかというと、たとえば、あるスポーツ中継番組が、実況者もおらず、一つの定点カメラの映像が流れているだけだと仮定しましょう。この番組は創作性がなく、著作物とはいえないので、その放送を録画してインターネット上にアップロードするような行為も、「著作権」の侵害にはなりません。
しかし、放送事業者の放送である以上、著作隣接権の侵害にはなるのです。
そして、「影像を拡大する特別の装置」を使ってパブリックビューイングをおこなうことは、まさに「著作隣接権」が働く場面なのです。
そのため、たとえば、大型プロジェクターで映画館やビル壁面の巨大スクリーンに投影するようなパブリックビューイングをおこなう場合、たとえ非営利だとしても、放送事業者の許諾が必要になります。