ロサンゼルス・ドジャースに所属する大谷翔平選手は3月18日、東京ドームでシカゴ・カブスとの開幕戦を迎える。
打者に専念した昨シーズンは、米大リーグ(MLB)で史上初の「50-50」(50本塁打・50盗塁)を達成。2年連続3回目となるMVPを指名打者としては史上初めて受賞するなど、記録ずくめの1年を過ごした。
今シーズンは、投手としても出場する「二刀流」復活が期待されているが、報道などによると、開幕からしばらくの間は打者に専念する見込みとされている。
投手復帰のタイミングにも影響されそうだが、打者として今年はどのくらいの成績を残すだろうか。
野球のデータを分析するセイバーメトリクスの専門家としてスポーツデータ分析会社DELTA社の協力アナリストでもある市川博久弁護士に、大谷選手の2025年シーズンの成績を予測してもらった。
●MLBで公開されている多岐にわたるデータを分析
大谷翔平選手(大谷)は、2024年にMLBでも史上初となる「50本塁打・50盗塁」を達成した。本稿では公開されているデータから、このような記録を達成できた要因を分析するとともに、2025年はどの程度の本塁打・盗塁を記録できるかを予測していく。
MLBでは以前からデータ分析が進んでおり、一般のファン向けにも多くのデータが公開されている。
公開されているデータの範囲は、打率や本塁打数といったような公式記録だけではなく、球場に設置された計測機器を通じて得られた打球の角度や速度、選手の走るスピードや投手の投げたボールの軌跡など多岐に及んでいる。
今回の分析でも、これらのデータを"Baseball Savant"(https://baseballsavant.mlb.com/)から引用して使用している。
●本塁打に関わる分析
大谷の昨シーズンの本塁打数は、MLB全体で2位となる「54本」。このような多くの本塁打数を記録できる要因は何だろうか。
より多くの本塁打を打つためには、飛距離の大きい打球をできるだけ多く打つ必要がある。そして、スタンドまで届くような飛距離の大きい打球を打つためには、速い打球を飛距離の出やすい理想的な角度で打つ必要がある。
こうした能力に関連する大谷の指標を見ていくと、大谷の打球は非常に速いことがわかる。大谷の昨シーズンの打球初速の平均は、MLB全体で2位となる時速95.8マイル(154.2キロ)であり、打球のおよそ6割が時速95マイル(152.9キロ)を超えていた。
また、同様に飛距離の出やすい角度で打球を打つ能力もそれなりに高い。大谷の打球角度の平均は16.2度であり、MLB平均が12度ほどであることと比較しても、角度の大きい打球を打つ傾向がある。
一般に本塁打を多く打つ打者はフライを打つ割合が高くなり、打球角度の平均も大きくなる傾向があるが、大谷もそのような特徴を持っている。
ただし、本塁打を多く打つタイプの打者の中で比較すると、大谷の打球角度は特筆して大きいわけではなく、2024年に30本以上の本塁打を打った選手23人の中では11番目とほぼ真ん中に位置している。
このように大谷が本塁打を量産するうえでの最も強力な武器は「速い打球を打つ能力」であるといえる。
大谷がこれだけ速い打球を打てるのは、速いバットスイングと投球を正確にバットでとらえる能力を高いレベルで両立できていることにある。
2024年の大谷のバットスイングの平均は時速76.3マイル(122.8キロ)。これはMLB全体で6番目に位置している。
一般的な傾向としては、スイングスピードの速さと投球を正確にとらえる能力とはトレードオフの関係にあり、スイングスピードと投球をバットの芯に近い部分でとらえた割合との間には負の相関関係がある。
しかし、大谷の場合、投球をバットの芯に近い部分でとらえたスイングの割合はスイング全体の26.3%とMLB平均の25%以上を維持できており、スイングの正確性をある程度保ちながら、速いバットスイングができている。
以上のように、大谷が本塁打を多く打つことができたのは、投球を正確にとらえる能力を大きく損なうことなく、MLBでもトップクラスのスイングスピードで、理想的な角度の打球を多く放っていたことがその要因といえる。
●盗塁に関する分析
続いて、盗塁についても関連する指標を見ていく。
2024年の大谷は59個の盗塁を記録しており、これはMLB全体で2番目の記録である。大谷がこれだけの盗塁を記録できた理由の一つは大谷の足の速さにもあるが、それ以上に盗塁の技術が飛躍的に向上したことが大きな理由であると考えられる。
ベースランニングの際の最高速度の平均であるスプリントスピードという指標を見ると、2024年の大谷は秒速28.1フィート(8.56メートル)とMLB全体で上位30%ほどの位置にはいるものの、ずば抜けて足が速いというわけではない。2024年に30盗塁以上の選手24人の中では21番目で、盗塁数が多い選手の中ではむしろ遅いほうに入る。
それにもかかわらず、これだけの盗塁をすることができたのは盗塁の技術が向上したことが要因だと考えられる。2024年は59個の盗塁を記録しながら、盗塁死はわずかに4個。盗塁成功率は93.7%と驚異的な数値となっている。
ただ、2023年以前は大谷の盗塁技術がそこまで優れていたとはいえない。2022年は11個の盗塁に対して盗塁死は9個と足の速さの割には盗塁を苦手にしていたとすらいえる。
しかし、2023年から盗塁が成功しやすくなるルール改正がおこなわれたこともあってか、2023年は盗塁が20個に増えた一方で、盗塁死は6個に減った。そして、2024年は盗塁数、成功率ともに大きく向上させている。
こうした推移からすると、大谷がこれほどの盗塁数を記録した要因は、以前と比べて盗塁の技術を大きく向上させたことにあると考えられる。
●2025年の成績予測はズバリ「本塁打は46本程度、盗塁は34個程度」
さて、それでは大谷は2025年シーズンでは、どの程度の本塁打・盗塁を記録すると推測できるか。
MLBのデータを取り扱っている多くのサイトでもさまざまな数字が出ているが、私は過去3年の成績に基づいて翌年の成績を予測するシンプルな方法によった(ただし、盗塁数については、2023年からルールが改正されたため、2022年の数値に補正を加えた)。
これによると、本塁打は46本程度、盗塁は34個程度という数字になった。
54本塁打、59盗塁という数字からすると、控えめに思われるかもしれない。これは2024年の大谷の成績がMLBの平均と比べても非常に良かったために平均への回帰が見込まれること、大谷自身の過去の成績と比較しても2024年の成績が極めて高いことから、2024年の成績からは数字を落とすことが強く見込まれることによる。
なお、MLBのデータを取り扱っているサイトで見られる予測と比較しても、この予測はやや高めの数値であり、2025年は投手復帰に伴う出場機会の変化も考えると、実際はここから少し減らしたあたりが予測としては堅いと思われる。
いずれにしろ、大谷は過去に類似する選手がおらず、データから見ても非常に面白い選手である。今年もこうした予測を上回る成績が残せることを期待したい。