タレントの中居正広さんの女性トラブル問題を契機に、フジテレビへのCM出稿を打ち切る企業が続出するなど、波紋が広がっています。1月21日には、村上誠一郎総務相がフジテレビに対して、早期の調査を行うよう見解を示しました。
今後どうなるのか。2009年の退職までフジテレビで情報番組のプロデューサーなどを務めた吉野嘉高・筑紫女学園大学教授は「前代未聞の事態であり、これを機に膿を出し切って改革をすべき」と指摘します。
●「フジテレビ問題」に発展
昨年12月、中居さんと女性との間にトラブルが発生していることを『女性セブン』『週刊文春』が報じた当初、ここまで大きく「フジテレビ問題」にまで発展するとは想定していませんでした。
フジテレビは今回の問題について、これまでに2度、自社の立場を表明をしていますが、その対応に納得できる人はあまりいないでしょう。
初回は昨年末、幹部の関与について自社のサイト上で次のように明確に否定しました。
「このたび一部週刊誌等の記事において、弊社社員に関する報道がありました。内容については事実でないことが含まれており、記事中にある食事会に関しても、当該社員は会の設定を含め一切関与しておりません。会の存在自体も認識しておらず、当日、突然欠席した事実もございません」
しかし、どのような根拠に基づき「一切関与しておりません」と強く否定したのか、そもそも適切な調査はあったのか、など疑問が噴出しました。
●記者クラブに頼った「フジテレビの誤算」
これを受け、1月17日の港浩一社長の会見に注目が集まりました。
ラジオ・テレビ記者会は記者クラブの枠を超えてオープンな開催を求めましたが、フジテレビは、この問題を積極的に取材してきた週刊誌やフリーランス、ウェブメディアの参加を認めませんでした。
そして、映像メディアを制作しているテレビ局の社長が会見するのに、生配信もなく静止画のみで報じるという異例の会見となりました。
おそらく、フジテレビ側は、記者クラブであれば、世間の厳しいまなざしの防波堤になり、自分たちを守ってくれると考えていたのではないでしょうか。
例えば、都庁クラブであれば、小池都知事に関する疑惑がいくつかあっても、会見で本人に問い質すようなことはしないようです。平河クラブ(与党担当)においても、裏金問題について聞かれても答えない議員を鋭い質問によって追及している姿はありません。そもそも裏金問題の捜査のきっかけは大学教授の告発であり、政治部記者の取材結果ではありませんし。
記者クラブのこのような実態を考えれば、会見する立場の人も記者も同じコミュニティーのメンバーのようなものですから、閉鎖的な仕組みの中で丸く収めてくれるはずだと期待していたのではないでしょうか。このあたりに80年代から続く「内輪の論理」優先の姿勢を感じます。
しかし、これだけ一般の人の関心を引いているのですから、会見の閉鎖性や十分な説明責任を果たしていないことがつまびらかにされ、批判されるのは当然です。視聴者やスポンサーがなんとなくスルーしてくれるわけはない。それは誤算だったのだと思います。
実際、この会見後に堰を切ったようにスポンサーのCM出稿差し止めが相次ぐ事態となりました。
●「女性アナ接待」の実態解明を
いま、フジテレビのガバナンス不全が白日の下に晒されています。女性アナウンサーがハラスメント被害にあうような接待の場を幹部社員が提供していたのであれば、安全配慮義務違反の疑いもあります。
外部の独立した第三者委員会による調査を行い、事実関係を明確にする。それを受け、役員を入れ替えて大胆な改革をしない限り、スポンサーは離れるし、株主は納得しないでしょう。
何からやるべきか。まずは、「女性アナ接待」の実態解明でしょう。
私がフジテレビ社員だった2000年代初め、若手の女性アナウンサーが「女子アナってホステスみたいなものですよ」と話していたのを覚えています。その言葉にはインパクトがあったので、いまでも鮮明に記憶に残っています。
それが「接待」を意味するのかどうかはわかりません。たまたま何か嫌なことがあって愚痴を言っただけかもしれません。いずれにしても、今回の問題だけでなく、ある程度過去にさかのぼって会社内の慣習を第三者の目線で点検する必要がありそうです。
●今回の問題を契機に「きっかけはフジテレビ」の改革を
このまま放置すれば、ジリ貧としか言えませんが、物申す株主から変革は始まるのでは?という期待もあります。特に国際基準で物申す株主です。
米投資会社のダルトン・インベストメンツとその関連会社は、フジテレビを傘下に持つフジ・メディア・ホールディングス(HD)の取締役会に対し、外部の専門家からなる第三者委員会を設置し、事実を検証することや再発防止策を提示することを強く求める書簡を公表しています。
株主、スポンサー、そして多くの視聴者からフジテレビは厳しい目を向けられています。独立した第三者委員会の調査を行わない限り、逃げられないと思います。逃げれば逃げるほどSNSで炎上し、火だるまになります。
フジは、これからパンドラの箱を開けざるをえないでしょう。その役員人事も含めて根本から組織のあり方を見直すタイミングです。
まだまだ先ですが、膿を出し切れば、フジテレビ再生のシナリオが始まるはずです。かつて「きっかけはフジテレビ」というキャッチフレーズがありました。フジテレビがきっかけで他局も含めて女性アナウンサーが伸び伸びと活躍できる場が確保されることを期待しています。
〈筆者プロフィール〉
吉野嘉高
1962(昭和37)年広島県生まれ。 筑紫女学園大学文学部教授。 1986年フジテレビジョン入社。 情報番組、ニュース番組のディレクターやプロデューサーのほか、社会部記者などを務める。 2009年同社を退職し現職。著書に『フジテレビはなぜ凋落したのか』(新潮新書)。専門はメディア論。