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女子トイレ前で土下座強要、日常的に暴言浴びせられ「転校」余儀なく…中学時代の「いじめ」で提訴
母親とマサルさん(撮影:渋井哲也)

女子トイレ前で土下座強要、日常的に暴言浴びせられ「転校」余儀なく…中学時代の「いじめ」で提訴

2019年、埼玉県内の市立中学校に通っていたマサトさん(仮名・当時中学1年・13歳)は、クラスメイトから日常的にいじめを受けていた。マサトさんは、夏休み明けの始業式の日、母親にいじめられていることを打ち明けた。

母親は学校に対応を求めたが、学校側は適切な対策をとらず、その後も、いじめが続いた。マサトさんは二学期の途中から登校できなくなり、最終的には転校を余儀なくされた。

調査委員会が開かれたが、事実誤認が多いため、母親は再調査を求めたが、市長は認めなかった。それを知った有志の市民が1300筆を超える署名と再調査を求める市議会に請願をした。ただ、市議会で不採択となり、再調査はおこなわれていない。

現在、同級生3人と市を相手取り、あわせて約300万円の損害賠償を求める裁判を起こしている。(ライター・渋井哲也)

●もう我慢できず夏休み明けに打ち明けた

マサトさんによると、2019年5月ごろから、クラスメイトによるいじめが始まった。

「もう我慢の限界でした。学校に行けず、寝ようと思っても朝まで眠れない日もありました。一度、夜中に家を飛び出したこともありました。いじめを思い出して、どうしようもない状態になっていました」(マサトさん)

夏休み中はいじめから解き放たれたが、二学期の始業式の日に、もう学校に行きたくないと思い、母親にいじめられていることを打ち明けた。

「すぐに学校へ連絡して『息子はいじめられている。学校を休みます』と連絡しました」(母親)

●同じ小学校出身のクラスメイトが中心だった

いじめの中心人物だったテツオ(仮名)は、中学に入学した4月当初から、休み時間や放課後に「死ね」「クズ」「ザコ」「バカ」「アホ」「カス」「キモいから死ね」「気持ち悪い」などと、他のクラスメイトに聞こえるように言い続けたという。

テツオは、マサトさんと同じ小学校出身。小学6年のとき同じクラスだった。そのころから休み時間や教室移動のときに暴言を吐かれたり、日常的に仲間外れなどの嫌がらせをされた。

さらに同じクラスの女子児童を殴るように命令されたこともあった。毎週2、3回、そうした命令があったが、マサトさんは拒み続けたという。

「小学校の頃から、背中や肩、腹、腰、腕、すね・太もも、尻のあたりを拳で殴られたり、足で蹴られたりしました。胸の辺りをこぶしで強く殴られたときもありましたが、そのときは苦しくて倒れました。学校から帰ろうとしたときには、教室から昇降口の間や、階段でしつこく通せんぼされ、帰らせないようにすることもありました」(マサトさん)

小学生のときは担任に助けを求めたが、「チクったな」と言われ、ますますいじめられた。このことを学校側は保護者に伝えなかった。

「息子はアンケートにも『いじめられている』などと書いていました。その資料は、保存期間を前に『処分した』と教頭先生が言っていました。

小学校の校長は、息子の中学進学時、中学校の校長に口頭で『いろいろとちょっかい出されたり、嫌な思いをすることがあるので、学級編成のとき、十分気をつけてください』などと申し送りをした、と私に話していました。

しかし、中学校の校長は、保護者や市教委には連絡していませんし、対策もとっていませんでした」(母親)

●ノートに落書き、女子トイレ前で土下座させられる

クラスメイトのケンジ(仮名)からもいじめを受けた。日常的に「顔面が汚い」「ブス」「ゴミ」「お前みたいなクズはいない」「消えろ」などと暴言が繰り返された。

また、「数学のノートを貸して」と言われた。マサトさんはノートに薄くマンガのキャラクターの絵を描いて、いつでも消せるようにしていた。ケンジに渡したところ、落書きされた。

ケンジは、消せないように筆圧を強くして、キャラクターの股間に男性器を描いた。さらに「私は巨乳」というセリフを付け加えた。教科担当の教師に提出するノートだったが、マサトさんは落書き部分を破って机の中に押し込んだ。

タカシ(仮名)もいじめに加わった。「死ね」「社会のゴミ」「キモい」「お前ほどブスな奴はいない」などの暴言を浴びせられた。反論すると、週3回くらいの頻度で、すねを蹴られた。女子トイレ前で無理やり土下座をさせられたこともあった。

「1学期の中間テスト前に『テストで点数が低かったほうが土下座をする』と命令させられたんです。断ると、またいじめられると思い、いやいや了承したんです。テストが終わったあと、先に順位を言われ。一方的に『俺の勝ち』『約束通り土下座しろ』と言ってきたんです。

断っていたんですが、学校3階にある女子トイレの前で四つん這いになり、頭部を押さえられ、土下座をさせられました。なぜ、トイレの前だったのかはわかりません。トイレから出てきた女子生徒が『何やってるの』と言っているのが聞こえました。人だかりができ、とても恥ずかしく、みじめでした」(マサトさん)

●加害生徒側が反対して「学校復帰」できず

いじめは1学期中あり、2学期もこのまま続くと思ったマサトさんは、母親に助けを求めた。母親が学校に伝えると、学校は加害生徒に注意すると言ってくれた。しかし、いじめはやまず、学校側の対応も十分ではなかった。

「最初はいじめを認め、加害生徒は謝罪の意向を示していた。しかし、加害生徒の保護者が入ってから、校長たちは加害生徒側の意向を優先するようになったんです」(母親)

当初は、マサトさんが教室復帰し、2週間をめどに加害生徒3人を他のクラスに移動させることになった。しかし加害生徒側が納得せず、弁護士を立てたことで、当初の案が覆された。最終的には「加害生徒のクラス替えはしない」として、マサトさんが別室に移動することになった。

そのことで、マサトさんは学校復帰できず、最終的には被害者であるマサト自身が転校を考えざるを得なくなった。転校のためには住所を変えなければならず、転校先を母親が探した。

市教委は2019年11月、「児童生徒事故報告速報」をまとめた。それによると、市教委は「いじめ重大事態」としていた。マサトさん側は学校に対して、いじめ防止法に基づく調査委員会の設置を求めたこともあり、市教委の附属機関である「市いじめ問題調査委員会」で調査をおこなうことになった。

「調査委が開催されると、学校はさらに対応しなくなりました。『いじめ問題調査委員会が立ち上がって、我々の手から離れてしまっている』『結果が出るまでは何もできません』と担任から言われました。

加害生徒側にも弁護士がいて、学校との間で決まったことが覆されました。そんなことが3回ありました。それに調査委員には、市の教育行政との利害関係者が複数名いたことがわかっていて、公平・中立とは名ばかりです」(母親)

●調査されるが、その過程で恐怖心を抱く

調査の過程でも、被害者であるマサトさんに対して厳しい対応がされた。調査委員からの聞き取りで「加害側の生徒をよそのクラスに移したいか?」「その3人をよそのクラスに移す。そうすれば学校に行ける?チクるよりもっと酷いことになる。仕返しが」と言われていた。

「この聞き取りの後、息子は『3人が来る。怖い』と漏らすようになりました。調査後も市教委は、教育の安全環境を整える手立てを何一つしてくれませんでした。こうして転校の結論を出さなければならなくなりました」(母親)

2020年3月、調査委が報告書を作成した。それによると、いじめについては一定の範囲で認めた。一方、10月以降のマサトさんは欠席は「病欠」(理由不明)で「いじめが原因でマサトさんが学校に行けなくなっているとは認め難い」と判断して「いじめ重大事態」と認定しなかった。

これに対して、マサトさん側は、いじめについて誤った認定がされことや、調査委に話した内容が違っていること、「重大事態」としなかったことで再調査を求めた。

小学校時代にアンケートが破棄されていたほか、調査委は議事録を作成せず、調査時の録音データも削除するなどの行為が明らかになっていた。しかし、市長は認めなかった。

こうした流れは報道もされたこともあり、有志の市民が2024年6月、1300筆を超える署名付きの「いじめ重大事態についての再調査を求める請願書」を市議会に出した。

しかし、「子どもたちに相当な精神的な負担を強いて再調査をおこなうことが本当に当事者のためになるのか」などと、市議会で反対意見が出されて、政策総務常務委員会で不採択となった。そのため現在までに再調査はおこなわれていない。

●いじめ加害者と市を相手に裁判を起こした

マサトさん側は2021年10月、加害者3人と市を相手取り、損害賠償を求める裁判をさいたま地裁に起こした。近く結論が出る見込みだ。

「息子はいじめを受けたうえ、事実と違う報告書が一方的に作成されました。訂正をお願いしても、『もう終わったこと』とされました。学校や市教委は間違いと認め、ただちに改善してほしいです。自己保身や責任転嫁でなく、いじめられた生徒に寄り添ってほしい。被害を受けた子どもの時間は二度と巻き戻すことはできませんから」(母親)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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