同僚の退職祝いの購入費を集めたり、居酒屋の会計を幹事に支払ったりする際に、現金ではなく、スマホのキャッシュレス決済サービスの送金・受け取り機能を利用することが増えてきた。
ただ、飲み会終わりに酔っ払った状態で送金しようとすると、見ず知らずの他人にお金を払ってしまうという「思わぬミス」が生じることもある。
どうすれば良いのか。キャッシュレス決済大手「PayPay」は、送金後に受け取りが完了してしまえばキャンセルはできないとして、注意を呼びかける。
⚫️「これはもうしょうがない…」酔っ払い会社員の「自業自得な悲劇」
会社員のAさんは、同僚との飲み会が終わると、PayPayを利用して、割り勘した代金約6000円を送金しようとした。しかし、電波が悪かったこともあり、誤って2度も送金をしてしまった。
目の前にいた同僚にミスを伝えて、誤って送った金額を戻して(送金)もらってことなきをえた。
すると、同僚は「私の友だちもミスをしたんだ。お金は戻ってこなかった」と、先日起きた出来事を振り返る。
同僚の友だちCさんは、同じように飲み会の割り勘分を送金しようとして、電話番号の数字を1桁だけ間違って入力して、別の人に送金してしまった。
PayPayの送金は、相手の電話番号やIDなどを入力することで、送金先を指定できる。その番号を間違えて入力してしまった場合、知らない人に送金してしまう事態につながるのだ。
知らない人に送られた5000円は、すでに受け取り済みになってしまい、Cさんは「しょうがないっすね…」と肩を落としたのだった。
AさんもCさんも、酒に酔った状態でスマホを操作した。利用者側がミスを避けるためには、翌朝になって意識が明瞭になってから送金するなど、注意するしかないのだろう。ただ、これがもっと高額だったら、納得できたのだろうか。
SNSには同様の失敗をした人たちから怨嗟の声が上がる。
⚫️受け取り完了してしまうと、キャンセルはできない
「PayPay」の送金機能は、割り勘や家庭内のお小遣いなど、多くの用途で使われている。飲み会後など酒の入った状態での利用も少なくないだろう。
PayPay社の今年4月の発表によると、2023年の「送る・受け取る」機能を使った送金回数は約2.8億回(前年比65.5%増)に上ったという。
PayPay社に取材すると、個人間送金(「送る・受け取る」機能で送った「PayPay残高」)の誤送金をした場合に、相手が受け取りを完了する前はキャンセル可能だ。
受け取りが完了されると、キャンセルはできない。
PayPayでは、ユーザーが第三者による乗っ取りなどの不正利用に遭った場合は全額補償しているが、「ユーザーが自らの意思で誤送金した場合などには補償の対象外」と説明する。酔っ払ったうえで誤送金した場合も「補償対象外」だ。
「飲酒後などに割り勘で誤送金し、すでに受け取りが完了している場合などには、受け取り側に連絡を取り、残高を送り返していただくことをご検討ください。なお、「PayPay」では送金などの手数料がかかりません。
連絡が取れないような知らない相手や、信頼関係のない相手との送金のやり取りなどはしないよう、十分に気をつけていただきたいです」(PayPay社)
電話番号からの送金は、ユーザーの利便性を大いに高めている。まずはユーザーが気をつけるべきだろう。
それでは法的には、PayPayで誤った電話番号を入力し、数千円を送金して、受け取り済みになった場合、送金先に対して返還を求めることはできるのだろうか。池田誠弁護士に聞いた。
⚫︎【弁護士の解説】不当利得返還請求権が発生し、返還を求めることができる
——PayPayで誤った電話番号を入力し、数千円を送金して、受け取り済みになった場合、送金先に対して法的に返還を求めることはできるのでしょうか
誤送金をしてしまった場合、不当利得返還請求権が発生し、返還を求めることが可能です。
不当利得返還請求権は、法律上の原因なく相手が利益を得た場合に、その利益の返還を求めることができるという権利ですので、誤送金はその典型例と言えます。
このことから、権利の発生自体はほぼ明らかですので、誤送金を把握されたら、できるだけ速やかにメッセージや電話で返金を請求するべきだと思います。
ただ、相手としても、見ず知らずの人から突然の送金を受けて困惑していることが想定されますし、返金したあとにもトラブルに巻き込まれる不安を抱えていると思うので、相手が返金しやすい環境を整えて返金を要請するのが重要かと思います。
一方、返金を拒否され、正式にご相談された場合でも、費用面から、弁護士に依頼することはおすすめできません。
誤送金額が数千円の場合でも、弁護士費用や調査費用などで、最低でも数万円の負担をお願いすることになるためです。