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「結婚しよう」ホストにニセ住所の婚姻届を渡され、大金つぎこむ…玄秀盛さんが語る「相談急増」の背景
玄秀盛さん(2023年9月/弁護士ドットコム撮影)

「結婚しよう」ホストにニセ住所の婚姻届を渡され、大金つぎこむ…玄秀盛さんが語る「相談急増」の背景

「娘をホストから救ってほしい」。立ち上がったばかりの団体に、親からの相談が殺到している。宛名や日付の記載すらない紙切れ一枚で百数十万円もの支払いを求められるなど、一般の商習慣とかけ離れている実態も明らかになってきた。

7月20日に設立されたのは、「青少年を守る父母の連絡協議会」(略称:青母連/せいぼれん)。東京・歌舞伎町に事務所を構える公益社団法人「日本駆け込み寺」内にできた。同法人の前代表で理事の玄秀盛さん(67)が担当している。

玄さんはこれまで21年にわたり、DVや家出などのあらゆる悩みに寄り添ってきた実績を持つ。「抜本的な対策のためには条例制定しかない」と話す玄さんにインタビューした。(ジャーナリスト・富岡悠希)

●ホストに対する「売掛」の支払いを抱える女性たち

画像タイトル 宛名も日付もない請求書(提供)

――青母連を立ち上げた経緯は?

民法改正で2022年4月から18歳で成人となり、大人として契約できるようになった。同時にコロナ禍の最中から、(歌舞伎町の)事務所のすぐ目の前で売春する若い女性が増えた。いわゆる「立ちんぼ」や。この女性たちは多くがホストに対する「売掛」の支払いを抱えている。

ホストクラブでは、ホストが飲食代を肩代わりして、女性に後払いさせる「売り掛け」制度を使っている。地方から都内の大学生になった18歳の女の子が、多額の売掛を背負わされる。以前は18、19歳だったら未成年で取り消せたのに、それができなくなった。

親から、こうしたホスト問題の相談が増えてきたので、青母連を設立したんや。

――どれぐらいの相談件数が来ていますか?

今年入って、7月の立ち上げ前までで30〜40件ほど。設立から2カ月ちょっとでは、さらに50件を超えている。9月下旬に共同通信に取り上げてもらった。地方にいる親から地方のホストクラブに関する相談も増えた。最近受けたのは、広島・岡山・福岡やな。

もちろん一番多いのは、ここ歌舞伎町や。この街には今、300軒のホストクラブがあるとされている。1軒で20人のホストがいたとして、6千人。同じ繁華街の池袋でも、数軒しかない。圧倒的や。その歌舞伎町のど真ん中で、俺は6千人のホストを相手にしてるわけやな。

――どんな相談が寄せられるのでしょうか?

「娘がホストにハマり、900万円の借金があると言われています」「ホストに貢ぐために、風俗で働くという娘を止めたい」「弁護士がいきなり、『お嬢さんがつくったホストクラブへの借金600万円を払ってほしい』と乗り込んできた」

こんな感じで、ようは金の問題や。親御さんには「娘さんがホスト通いを止めたいと言っていれば、対処法はある」と伝える。大事なのは、金を渡さないこと。ホスト側が売掛の際、女の子に渡すのは、紙切れ一枚。彼女のフルネームすら書いてないし、何らの宛名や日付すらないのもある。それで数十万~百数十万円を払えと言うんや。

その売掛を作る手口の一つは、女の子がホスト10人ぐらいに囲まれた「女王様」状態で、シャンパンタワーをやるというもの。それで1回、百数十万円。酩酊状態の場合すらある。

――先ほど、対処法の前提で「ホスト通いを止めたいと言っていれば」と条件をつけていました。

女の子が店に行きたい、ホストに会いたい場合は、こうはいかない。貢ぐのは女の子がホストに惚れてるから。いや、ホストが女の子を惚れさせてる。

狙いを定めた子が店に2、3回来たとする。すると、ホストが「俺は1年後に店を出すから、そのときに結婚しよう」と持ちかける。一緒に婚姻届も書くけど、ホストは住所をあえて間違える。けど、女の子は信じているから、きちんと書くうえにマイナンバーとか身分証の写真も撮られてしまう。

その1年の間、女の子はホストをナンバーワンにしたいから、お金を使う。それでも「何かお前は違ったわ」と、結局は捨てて終わり。

●最近は「ほとんどのホストが悪質」と考えるようになった

画像タイトル ホストクラブがひしめく歌舞伎町(弁護士ドットコム撮影)

――ホストは、なぜここまでするのでしょうか?

メディアがホストをこぞって取り上げているわな。ホストのビジネストークあり、ホストを主人公にしたドラマあり、で。だから、ホストを募集すると、新人がすぐに来る。「金を稼げて女にモテる」と考えるから。

けど、新人は先輩ホストのヘルプ役にすぎない。1日で1万円を稼いだとしても、そこから衣装代や寮費を取られる。残るのは数千円だから、すぐに店や友人から借金する。なかには整形代を出してもらって入店している奴もいる。

金を稼がないといけないから、女の子をハメる手口を先輩から教えてもらう。マニュアルになっているようなもんだよ。前は「一部の悪質なホストが問題」だと言ってきたけど、最近は「ほとんどのホストが悪質」と考えるようになった。

――その変遷の背景には何があると考えますか?

歌舞伎町の老舗ホストクラブの創業は、1970年代初頭。80〜90年代は、30歳以下の女性はホストクラブには出入りしなかった。スナック経営者や医者の妻、芸能人など、金を持っている特定の女性だけだった。ホストの平均年齢も40代だったろう。

ところが、2000年代に入って、ホストをやっていた30〜40代の若い経営者が出てくる。徐々にホストのスターも誕生し、ホストも若くなる。20代のホストは、キャバ嬢とか風俗の女性を連れてくるようになる。

そして、2008年にiPhoneが売られるようになると、若いホストたちがSNSを駆使して台頭してくる。最近はマッチングアプリとかも使いながら、金の支払い能力のない18〜23歳の女の子を店に連れ込んでる。

――解決策はありますか?

売掛は、本来は客の信頼があって成り立つもの。だからこそ、スナック、料亭、銀座のクラブなどに限られてきた。それができないキャバクラはカード払いだし、デリバリーヘルスなどの風俗は現金払いが基本や。

そんな中、ホストクラブだけが売掛を使い始めた。一晩で50万円や100万円の支払いになるなんて、普通の女性が支払える金額じゃない。25歳以下の「青少年」に対しては、「売掛禁止条例」を作るしかない。もう東京都に対しては働きかけている。

2000年に東京都がいわゆる「ぼったくり防止条例」を、2013年には新宿区が「客引き禁止条例」を制定した。前例はある。

ホストビジネスは歌舞伎町から全国に広まってしまってる。だとしたら、今度は歌舞伎町からホスト問題の対策を立ち上げたい。これが俺がやるべき、最後の仕事だと覚悟を決めている。

画像タイトル 玄秀盛さん(弁護士ドットコム撮影)

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