愛媛県の農業アイドルグループ「愛の葉Girls(えのはがーるず)」のメンバーだった大本萌景(ほのか)さん(当時16)が自死したことについて、提訴会見などでの遺族や代理人弁護士の発言により名誉を毀損されたとして、当時の所属会社と代表取締役が計3740万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が2月28日、東京地裁であった。
野村武範裁判長は、遺族と代理人弁護士5人らに計567万円の支払いを命じた。
遺族が会社側に損害賠償を求めた訴訟は、遺族の訴えを退けた東京高裁判決が確定している。
判決後、当時の所属会社「Hプロジェクト」の代表取締役と代理人弁護士が会見を開いた。佐々木貴浩社長は「正直、実感はありません。支えてくれた方にお礼を申し上げたい」と話した。
●「客観的事実であるかのように受け取られる体裁」
判決などによると、遺族側が2018年10月11日に提訴に先立ち開いた記者会見には、100名近くの報道関係者が出席した。会見では代理人弁護士らにより、佐々木社長が大本さんに対し「グループの活動を続けないのであれば違約金1億円を支払え」と発言したという説明や大本さんが会社側の行為が原因で自死したという印象を与える発言がされた。
会社側は、記者会見での遺族と代理人弁護士らの発言、関連団体のウェブサイトでの訴訟提起やクラウドファンディングの宣伝、遺族の手記公表といった一連の広報活動、代理人弁護士と遺族のツイッター投稿について、名誉を毀損されたとして、遺族、代理人弁護士が共同代表理事を務める「日本エンターテイナーライツ協会」、代理人弁護士が代表理事を務める一般社団法人「リーガルファンディング」などに損害賠償を求めていた。
野村裁判長は、記者会見での代理人弁護士の説明について、おおむね名誉毀損が成立すると判断し、関連団体の記事や手記の一部、代理人と遺族それぞれのツイートについても名誉毀損を認めた。
広報活動での発言や記載は「しばしば断定的な表現が用いられ、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると一方当事者の主張として紹介されているのではなく、あたかも裏付けがある客観的事実であるかのように受け取られる体裁となっていた」とし、会社側の社会的評価を大きく低下させる内容であったと評価した。
記者会見に基づく報道内容は、会社側が大本さんを自殺に追い込んだとの印象を与えるもので、そのような報道が連日にわたって大量に行われたことなどから、会社に385万円、佐々木社長に165万円を連帯して支払うよう命じた。弁護士のツイートは11万円、遺族のツイートは6万円の支払いが命じられた。
●代理人は「高額な賠償金」と評価
佐々木社長は報道が相次いだ当時について、「(会見を報じる)放送は私やスタッフの犯罪が確定したような内容でした。久しぶりに会った親戚に『そんな人だと思わんかった』と言われるほどで、報道が真実かのように映し出されたことが大きかった。生きた心地がしなかった」と振り返った。
代理人の渥美陽子弁護士は「これまでの裁判例の傾向からすると、非常に高額な賠償金が認められた」と評価した。
「提訴時の記者会見の内容はかなり断定的なもので、多くのメディアで誤った内容が拡散された。今回特徴的だったのは、クラウドファンディングと一緒におこなわれたことだ。広く一般の方からお金を集めるために、どうしても共感を得やすいストーリーを出していくことが大事になるため、断定的な内容が語られてしまったのではないか」(渥美弁護士)
今後の影響について、「弁護士は訴訟業務の中ではある程度踏み込んだ表現をしなければいけないところもあるが、訴訟を離れたところでは、弁護士業務だからと何をやっても許されるわけではないため、表現がどういう影響を及ぼすのか、十分に注意しながらおこなう必要がある」と話した。
控訴やBPOへの申立てについては検討中だという。
●日本エンターテイナーライツ協会「控訴方針」
日本エンターテイナーライツ協会はHPで、「正当な弁護士業務として行った訴訟提起及び記者会見であると考えており、今回の判決内容については断じて受け入れることができません。改めて判決文を精査し控訴のうえ争っていく方針です」とコメントしている。