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東大と張り合った「法曹界の中央大パワー」知る大物OB、司法試験の苦戦にゲキ
宗像弁護士(2022年9月8日撮影)

東大と張り合った「法曹界の中央大パワー」知る大物OB、司法試験の苦戦にゲキ

「法科の中央」と呼ばれ、かつて司法試験合格者数でトップを争っていた中央大学。ところがここ数年、中大法科大学院の合格者数の低迷が続いている。

中大法学部OBで、東京地検特捜部長などを歴任、中大法科大学院で教鞭を執った経験もある宗像紀夫弁護士(80歳)に、中大の栄光の時代、そして現状について聞いた。(ライター・山口栄二)

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●研究室で勉強漬け 学内に漂うヒリついた空気

――今年の司法試験の合格者は、中大法科大学院は50人で、大学別ランキングでは8位でした。

「信じられません。私が学生のころは、常に東大と1位を争っていましたからね。大学にもいろいろ事情はあるでしょうが、怒りを禁じえません」

――そもそも中大法学部を進学先に選んだのはなぜでしょうか。

「私は、家があまり豊かではなかったので、小さいころから、将来は医者か法律家になりたいと思っていました。その中では、法律家のほうがなりやすそうだと思って、当時、司法試験合格者数がトップで学費が他の私大に比べて安かった中大法学部に進学しました」

――当時の中大法学部はどのような雰囲気でしたか。

「私が学生だった1960年代は、まだ駿河台にキャンパスがあって、私と同様、貧しい学生が多く、少しでも早く司法試験に合格しなければ家計に迷惑がかかるというので、切羽詰まった雰囲気で勉強していました。

私は、伝統と実績のある受験サークル『真法会』に入会できたので、大学の研究室の一角を自分専用の勉強スペースとして使うことができました。毎朝大学に行くとまずその自分の席に行って、そこから興味のある授業を受けに行き、終わるとその席に戻って夜まで勉強するという毎日を過ごしました。

真法会は人気のあるサークルで、毎年100人から150人ぐらいが入会試験を受けて、入会できるのは7、8人だけでした。でも、そこに入ることができれば、司法試験に受かったようなものと言われていました。

実際、学習環境に恵まれたこともあって、大学を卒業した年に司法試験に合格することができました」

――ところが、1978年に法学部などが多摩キャンパス(八王子市)に移転しました。このことの影響をどうみますか。

「八王子への移転については、中大は法学部だけでなく、総合大学として人材を育てるような大学になるべきだという考えがあったと思います。法学部偏重から脱すべきだというような。

法学部でも、司法試験一辺倒ではなく、より広く、官界や民間企業にも卒業生を輩出していくような形に変わっていくべきだというような議論もあったようです」

●東大・京大と張り合う「法曹界の中大パワー」

――法曹界における中大の存在感はそう簡単に築けるようなものではないのでは?

「確かに、検察官も中大OBが多く、ある時は、8つの高検の検事長がほぼすべて中大出身者だったこともあるくらいです」

――検察と言えば、宗像さんの古巣である東京地検特捜部も中大出身が多くて、結果的に歴代特捜部長がかなり多くの中大出身者で占められていますね。

「司法試験はある程度学力があって勉強すれば通ることができますが、特捜部は若いころから捜査能力のある検事を選別して集めて、入ってからも総合的な力がないと生き残っていけない実力社会です。

上司の機嫌をうかがう必要もなく、ひたすら与えられた仕事をやり遂げる能力のみが求められる組織ですから、東大、京大卒が幅を利かせがちな役人の社会にしては異例ですが、私大卒が健闘しているのです。

中でも、中大は司法試験合格者自体が多いので、検事任官者も多く、結果的に特捜部にも多くの中大出身者が集まったということでしょう」

●教員として見た中大の変化

――2004年に検察庁を退官、中大大学院法務研究科教授に就任されました。約40年ぶりに母校の学生と接した印象はどのようなものでしたか。

「2~3年間にわたって高い学費の支払いが必要になることもあってか、かつての中大とは違って豊かな家庭の子弟が多いなと感じました。

昔は苦学生ばかりでしたから、1年でも早く合格して家計を助けたいという切迫感が漂っていましたが、そのような深刻な雰囲気はなくなっていましたね。でも、概してまじめで質実剛健な気質は残っているとは思いました」

――司法試験についていえば、合格者数は宗像さんが教授をしていた2012年ごろまでの数年間は、100人台の後半から200人程度で推移して、大学別ランキングも1位か2位を維持していましたね。

「司法試験の結果がすべてというわけではないかもしれませんが、司法試験の受験資格を得させることが法科大学院の役割である以上、ある程度の結果を出していかなければならないのではないでしょうか」

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――中大法科大学院では、実務家出身教員と研究者出身教員の間で、学生への指導のあり方についての認識が十分共有されていないという指摘も一部であるようです。

「それはよくわかりませんが、研究者出身の先生方の間に、私たち実務家出身教員を軽んずる傾向があるような感じを受けたことはあります」

――しかし、学生にとっては、法律の現場を知っている実務家出身教員の話は興味を引くのではないですか。

「私のゼミは人気があって、毎年ゼミ生を選ぶための試験をおこなっていたほどです。やはり、どうやって、大物政治家を捕まえたのかといった生の話が聞けるというのは魅力だったんでしょうねえ」

●2023年度から文京区の茗荷谷キャンパスへ

――現在の低迷状態を脱却するには、どうすればいいでしょうか。

「総論としては、いい教育人材を集めて、教育環境を充実していくということに尽きますが、いい教育人材とはどんな人か、何が教育環境の充実につながるか、といった各論になるとそれぞれの立場によってまちまちで、なかなかまとまらないでしょうね」

――その意味では、2023年度から法学部を都心のキャンパスに移転させることは一歩前進と言えるでしょうか。

「そうでしょうね」

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

宗像 紀夫
宗像 紀夫(むなかた のりお)弁護士 弁護士法人一番町綜合法律事務所
福島県立安積高校卒業。1965年に中央大学法学部を卒業し、司法試験に合格。68年検事任官。福島地検検事在職中に、木村守江福島県知事を収賄罪で起訴した「福島県政汚職事件」の捜査を担当。その後異動した東京地検特捜部で、ロッキード事件裁判の公判(控訴審)を担当、リクルート事件の主任検事を務める。さらに特捜部長として、ゼネコン汚職事件や金丸信・元副総理の巨額脱税事件の捜査を指揮した。高松高検と名古屋高検の検事長を歴任。 2004~2012年中大大学院法務研究科教授。

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