旧司法試験時代には東京大学と合格者数で凌ぎを削り、「法科の中央」と呼ばれた中央大学が近年の司法試験では苦戦を強いられている。
2006年に現在の司法試験制度が導入されてからしばらくは、変わらぬ名門ぶりを示していたが、2015年に合格者170人で法科大学院別のトップになって以降は低迷。2022年には合格者50人でついにトップ5からも転落して8位だった。
なぜこの数年で成績が悪化してしまったのだろうか。中大出身の弁護士に分析してもらった。
中央大学多摩キャンパス(dekoの風 / PIXTA)
●弁護士増加の中でブランドを求める
「今の司法試験になって弁護士が大幅に増えています。特に自分たちの時代は、就職難という報道が多くありました。弁護士になっただけでは差別化ができないので、だったらネームバリューがあるところに行かないと、と思いました」
こう話すのは、中大出身の男性弁護士(30代)。学部卒業後は中大ではなく、東大の法科大学院(ロースクール)に進学した。中大時代からの同級生も複数人いたという。
「大手の事務所に入ろうと思ったら、予備試験に合格するとか、『東大ブランド』があったほうが有利なんじゃないかと。自分の周りだと、慶應ローに行った人も多かったですね。実際に弁護士の仕事を始めたら、出身校なんてほとんど関係ありませんでしたが」
法科大学院に進学すると、キャンパスが変わることも影響したという。
「自分は地方出身なのですが、中大ローに進学すると、山の中の多摩キャンパス(八王子市)から都心の市ヶ谷キャンパスになるので生活環境が一変します。それだったら中大以上の実績を持ったローがあるし、中大に居続ける理由もないなと」
中大は2023年度に大きなキャンパス移転がある。法学部が多摩から都心の茗荷谷キャンパスへ、法科大学院も市ヶ谷から駿河台キャンパスへ移転する。茗荷谷と駿河台の両キャンパス間は地下鉄で3駅だ。
●予備試験では変わらない存在感
この男性弁護士は自身の経験も踏まえ、司法試験での中大の苦戦について、「予備試験に受かったり、他大の法科大学院に進学する学生が多いからではないか」と分析する。
予備試験に目を向けてみると、中大は既卒込みで毎年30人前後の合格者を出している。大学別のランキングでは、2021年度に4位となったものの、2017~2020年度は3位をキープしており、変わらない存在感を発揮していると言える。
源泉にあるのは、司法試験向けのサークル(受験団体)の存在だ。およそ10団体あり、古いものでは100年近い歴史を持つものもある。
「入会するための試験に受かると、研究室に席がもらえて、いつでも勉強できます。今思うと、現役の弁護士がゼミをやってくれたりとか、凄い恵まれていたなとは思いますね」
●学部からの流出
問題はこうした優秀な学部生がどういう進路に進むかという点だ。中大法学部のガイドブックによると、2021年卒の中大法学部生が進学した法科大学院は以下の通り(入学6人以上に限る)。
・中大ロー、53人
・東大ロー、47人
・早稲田ロー、27人
・慶應ロー、26人
・一橋ロー、15人
・大阪大ロー、6人
・明治大ロー、6人
進学先のトップこそ中大ローだが、東大ローと大差がない。全体では中大ローに進まないほうが多数派で、その進学先についても合格者数や合格率で、中大ローよりも成績が良いところが多いというのが実情だ。
司法試験の出願者数はピーク時の約1万2000人から約3500人まで減少。「需要」がおよそ3分の1になる中、各大学の法科大学院による学生の取り合いが起きている。
実際、中大法科大学院の入学者数はここ数年、定員200人を割り込んでおり、2022年度は132人だった。それに伴ない、2018年度は435人いた司法試験受験者が、2022年度は191人と半分以下に落ち込んでいる。
学生の質・量は司法試験の合格結果にも表れてくる。そして、その結果が法科大学院が選ばれるうえでの指標のひとつになる。
中央大学は現在でも間違いなく、法曹の一大供給地と言えるだろう。ただし、それは自らが設置した法科大学院からとは言いづらい状況になっている。