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「自分ひとりで生きているわけじゃない」抗がん剤治療を経て、里親になった男性
画像はイメージです(ペイレスイメージズ1(モデル) / PIXTA)

「自分ひとりで生きているわけじゃない」抗がん剤治療を経て、里親になった男性

保護者のない子どもや保護者に監護させることが適当でない子どもを養育し保護する「社会的養護」の仕組みの1つに「里親制度」がある。児童福祉法に基づき、里親希望者が自分の家庭に迎え入れて子を養育する制度だ。

2016年に改正された児童福祉法では、家庭養育優先の理念を定め、実親による養育が困難な場合への対応として、特別養子縁組や里親による養育を推進することを明確化。2017年8月には、国が「新しい社会的養育ビジョン」を策定し、里親制度の充実強化を掲げた。

「里親」について、一般的にはボランティア活動の一種、つまり「無償行為」だと誤解されることが多いのだが、そうではない。実際には一般生活費など一定額の経費が公費で支給され、一定の里親には里親手当も支給されている。(ライター・小泉カツミ)

●3人の実子を育て上げたのち、幼児や乳児を育てる「里親」

水道施設関連の仕事を長年手がけてきた静岡県内在住の岩村忠信さん(75、仮名)と妻の美佐代さん(69、仮名)は、3人の娘たちを育て上げ、現在は3人とも家を出て自立、結婚している。

一方で、岩村さん宅では、小学4年生の男の子、幼稚園に通う4歳の女の子、生後10カ月の女児の3人を「里子」として育てている。

本来なら、年金暮らしの悠々自適な生活を送るはずだったが、さかのぼること10年ほど前。岩村さん夫婦は、ひょんな流れから生後8日目の男の赤ちゃんを引き取ることになった。そして5年後には生後9日目の女児、さらにその3年後には3人目の女児を引き取ったのだ。

岩村家の朝は忙しい。朝6時30分に、朝食が始まる。朝食を急いで食べた小学4年生の子がランドセルを背負って飛び出していく。そこに起きてきた4歳の女の子に食事をさせ、10カ月の女児にミルクをあげる。

4歳の子を幼稚園のバスに乗せると、今度は忠信さんが車で赤ちゃんを保育園に届ける。端から見れば、祖父母に育てられている兄妹にしか見えない。

岩村さん夫婦が「里親」になるきっかけはいくつかあった。

まず、美佐代さんが、自分の娘たちをスイミングスクールに通わせていたことから、母親たちのネットワークが誕生し、子育てを応援し合うファミリーサポートチームがあったこと。そこから、児童養護施設の子たちに「家庭」を体験させるホームステイ活動に参加し、そして夫婦で「里親」の認定も獲得していた。

また、こんな背景もあった。

忠信さんは40代で急性骨髄性白血病を発症し、5年間の抗がん剤治療を経験。幸いにも再発することなく現在に至っていた。

「あの闘病生活のおかげで自分は一人で生きているんじゃない、ということを学んだんです。私への輸血のためにたくさんの人が集まってきてくれたし、高額な抗がん剤にしても身も知らぬ人たちが払っている健康保険のおかげで受けられましたしね。だから、少しでも世の中に恩返しをしたい、そう思っていたんです」(忠信さん)

岩村家で暮らす3人の里子は、育児放棄などによって、児童相談所が「里親」もしくは養護施設での養育が必要、と判断された子どもたちだった。

●里親制度には「4つのタイプ」がある

法律上の親子関係を発生させ、解消されるまでは一生家族でいられる「養子縁組」と異なり、「里親」はあくまでも限られた期間、子どもを養育する制度だ。法律上の親子関係があるわけではない。

里親制度には、「養育里親」「専門里親」「養子縁組希望里親」「親族里親」という4つのタイプがある。

「養育里親」は、事情により家庭で生活できない子どもを、家庭に戻れるまで、もしくは自立できるようになるか、18歳(場合によっては20歳)になるまで養育する里親で、前述の岩村さんの場合はこれに当たる(なお、6月8日に成立した改正児童福祉法により、年齢上限撤廃される)。

「専門里親」は、虐待を受けた経験のある子どもや、障害のある子どもを、経験と専門知識を生かして養育する。

「養子縁組希望里親」は、養子縁組を前提とした里親で、親が養育していく見込みがなく、養子縁組が望まれる子どもを自分の養子として養育することを希望する里親だ。養子縁組の成立には、家庭裁判所の審判・許可が必要となる。

「親族里親」は、子供の扶養義務者で、親が死亡や行方不明などの事情で子どもを養育できなくなった場合に、祖父祖母やおじ・おばなどの親族が認定を受けて養育する里親だ。

また、2008年の児童福祉法改正により、実施されている「小規模住居型児童養育事業(ファミリーホーム)」もある。里親が養育できる子どもは最大4人までだが、ファミリーホームでは6人まで養育が可能である。

●里親に支給される手当「毎月14万円以上」

前述したように、里親は「無償行為」ではない。

厚生労働省の「里親制度(資料集)」(2021年10月)によれば、一般生活費は、一人当たりの月額として、乳児は60110円、 乳児以外は52130円。「養育里親」や「専門里親」には、里親手当として、養育里親の場合で月額90000円、専門里親だと141000円支給される。これは一人増えるごとに加算される。

さらに、幼稚園費、教育費、入進学支度金、就職支度費、大学進学等支度費、医療費、通院費なども支給され、里親への金銭的支援としてはかなり手厚い。

里親への委託は、「子が満18歳になるまで」が原則だが、高校への通学や大学進学などの理由があれば、児童相談所の判断で22歳の年度末まで延長することができる。

前出の岩村さんは、「これだけの援助があれば、子どもたちに不自由な思いをさせることはないし、大学進学のための積み立てだってできます」という。

【筆者プロフィール】小泉 カツミ:『現代ビジネス』、『週刊FRIDAY』、『週刊女性』の「人間ドキュメント」などでノンフィクション著述の傍ら、芸能、アート、社会問題、災害、先端医療などのフィールドで取材・執筆に取り組む。芸能人・著名人のインタビューも多数。著書に『産めない母と産みの母〜代理毋出産という選択』、近著に『崑ちゃん』(文藝春秋/大村崑と共著)、『吉永小百合 私の生き方』(講談社)などがある。

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