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インターホン押したら「5万円支払え」 話題の「訪問販売撃退ステッカー」、本当に払う必要ある?
インターホンを押す営業担当者(イメージ JADE / PIXTA)

インターホン押したら「5万円支払え」 話題の「訪問販売撃退ステッカー」、本当に払う必要ある?

迷惑な訪問販売にうんざりしている人には朗報かもしれません。「画期的」な撃退ステッカーがツイッターで話題です。しかし、本当に効果はあるのでしょうか。

●玄関のピンポンを押したら5万円!?

ある投稿者が〈悪質な訪問販売も来ないやろ!〉などとして紹介したのが、インターホンの上に貼られた「玄関応対料金」と書かれたステッカーです。

「訪問セールス、宗教勧誘、アポ無し訪問、それに類する応対」(近隣住民と宅配を除く)に対して、費用を取るというもので、基本料金は5万円、1分ごとに1万円の時間料金がかかり、これは「呼び鈴を押した時点で、上記を同意したとみなします」としています。

さらに、現金が支払われない場合は「身分のわかる物を押収し警察に通報」することも記載されています。

投稿者によれば、このステッカーのアイデアはもともと、別の人によるものだそうです。

投稿には「これいいやん 寝てる時にセールスでチャイム押されたりするとマジで腹立つ」と好意的な反応がある一方、「料金が法外だから法的措置とれないかも」との疑問もありました。

このような取り組みは、法的に有効なのでしょうか。本間久雄弁護士に聞きました。

●結論は「払う必要なし」

——ステッカーを貼った玄関のインターホンを鳴らして5万円を請求された場合、支払う必要はあるのでしょうか

結論から言えば、インターホンを1回鳴らした程度では、5万円を支払う必要はないと言えます。

鳴らした場合の請求としては、不法行為に基づく請求と契約(合意)に基づく請求が考えられます。

しかし、インターホンを1〜2回鳴らした程度では、受忍限度の範囲内として違法性があるとはいえず、不法行為に基づく損害賠償請求が認められることはないでしょう。

ただ、ステッカーを貼ることで、訪問セールス等で日常生活の平穏が乱されるのを拒否する意思が明確になるため、何日にもわたって執拗に鳴らされたなどの場合には、不法行為が成立する可能性はあります。ただ、慰謝料の額としては数万円程度にとどまるのではないかと思います。

●住人もセールスも「まさか5万払う」とは本気で思っていない

続いて、インターホンを鳴らすことで「5万円を支払う」という契約の成立を検討しますが、これは当事者の「合理的意思解釈」(合理的に考えて、双方がどのような意思だったかを後で事実認定すること)によります。

ステッカー設置者の合理的意思としては「鳴らされたら5万円を取ろう」という意思まではなく、用もないのに鳴らした者に高額のお金を支払ってもらうという意思を示しておくことで訪問販売者等が鳴らしにくくするという心理的抑止効果を図り、「悪質な訪問販売等を排除したい」という意思であると思われます。

また、鳴らした者の意思としても、5万円という高額な料金を支払ってまでインターホンを押すという意思まではなく「インターホン越しに話をして、興味を持ってもらったらセールストーク等をする(拒絶されたらそのまま立ち去る)」という意思を有するに過ぎないと思われます。

当事者双方に「インターホンを押して5万円を支払うという合意」があったと解釈することはできないでしょう。

●身分証などの押収はできない

——お金が支払われないときには「身元のわかる物を押収し警察に通報」するとあります。押収・通報されても仕方ないのでしょうか

訪問販売等の目的でインターホンを鳴らすために住宅の一部に初めて立ち寄ったような場合、態様が平穏であれば、住居侵入罪が成立するのは難しいのではないかと思います。

しかし、過去には「ピンポンダッシュ」を民家に繰り返したとして迷惑防止条例違反で書類送検されたり、元都知事の石原慎太郎さんの自宅で繰り返しインターホンを鳴らしたとして、ファンを自称する男性がストーカー規制法違反で書類送検されています。場合によっては、罪に問われる可能性もあるのです。

ステッカーで拒絶の意思を明確にしているにも関わらず、インターホンを押されたら、居住者が恐怖心を感じて警察に通報するのも致し方がないと思います。

なお、押収の権限は捜査機関のみに認められていますから、居住者が身元のわかるものを押収することはできません。

●業者避けの「お守り」みたいなもの

ステッカーは法的根拠には乏しいものの、訪問販売の業者に心理的抵抗感を与え、抑止効果は十分あると思います。駐車場でよく見られる「1回停めたら●万円を支払ってもらいます」といった内容の看板に通じるものと言えるでしょう。

プロフィール

本間 久雄
本間 久雄(ほんま ひさお)弁護士 横浜関内法律事務所
平成20年弁護士登録。東京大学法学部卒業・慶應義塾大学法科大学院卒業。宗教法人及び僧侶・寺族関係者に関する事件を多数取り扱う。著書に「弁護士実務に効く 判例にみる宗教法人の法律問題」(第一法規)などがある。

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