犬にとって、都会の散歩環境は必ずしも良好とは言い難い。アスファルトは火傷しそうに熱いし、歩道を疾走する自転車に気を配らねばならない。飼い主にとっても気苦労が多いとも聞く。そのためか、公園や目的地まで自転車に乗って移動する犬もいるようだ。
港区内に勤務する女性(40代)は近年、そんな前かご犬を目撃する機会が増えたそうだ。
「多くは小型犬で、前かごに座布団のような敷物を敷いてもらったり、布のカゴのようなものに入れられたりして、お利口そうに乗っています。信号待ちなどで、ふと横を見ると目があって『こんにちは』と挨拶された気がすることもありますね」
飼い主の買い物に同行したり、散歩場所までの移動区間を自転車で移動したりしている様子だという。
犬は特等席で飼い主の存在も感じられるし、飼い主にとっても様子を見ることができるので、一安心だろう。ただ本来は荷物を載せるだけのスペースに犬を乗せて自転車を走行することに問題はないのだろうか。鈴木智洋弁護士に聞いた。
●「直ちに法令違反となるわけではない」
ーーなんとも可愛い光景ですが、法的には問題ないのでしょうか
動物を自転車のかごに積載して運転しただけで、直ちに法令違反となるわけではありません。
しかし、自転車は道路交通法(以下「法」といいます。)上、「軽車両」に該当します。
法70条は、車両等の運転者は、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならないと定め、これに違反した場合、3か月以下の懲役若しくは5万円以下の罰金が科せられます(法119条1項9号)。
また、法71条6号は、運転者は公安委員会が交通の安全を図るため定めた事項を遵守しなければならず、同条文を受け、各都道府県の公安委員会が規制している「安定を失う恐れのある方法」で運転をした場合、5万円以下の罰金が科せられることがあります(道交法120条1項9号)。
以上を受け、例えば、犬を何らの固定もしないで前かごに乗せたような場合、バランスを崩して転倒事故を起こす危険性が非常に高いため、上述した「他人に危害を及ぼさないような速度と方法」、「不安定な運転」にあたると判断される可能性が高いでしょう。
●犬用の自転車のキャリーバッグ活用も
ーー「不安定な運転」にあたらない方法はないのでしょうか
飼い主としては、犬用の自転車のキャリーバックに載せ犬を固定し、かつ前かごに載せて常時把握できるようにする、載せる犬も自転車のカゴの耐荷重の範囲内である、3kg~10kgの小型犬から中型犬までにしておく、等の方法が考えられます。
なお、何らの固定もせずにかごに入れて不安定な状態で、第三者との間で交通事故が発生してしまった場合、過失割合が通常より高くなることが想定されます。
近年、自転車による重大事故の発生を受け、自転車保険の加入が義務付けられている自治体が増加しています。万一の場合に、対応できるよう自転車保険には加入しておきましょう。