両親が「自称・霊能者」に心酔してしまった人から、この霊能者を罪に問えないかという質問が寄せられました。
相談者の親は身内の不幸で精神的に参ってしまっていました。そこに霊能者が現れ「霊が見える」「先祖の霊が怒っている」といい、なんどもお祓いを勧められているようです。ところがこの霊能者、宗教法人に所属しているわけでもなく、宗派も何もない「霊の見える単なる一般人」なのだそうです。
相談者は親にお祓いをやめてほしいそうですが、結果として月数万を払い続けてしまっているようです。この無資格な霊能者は何かの罪に問うことはできるのでしょうか? 池田誠弁護士に聞きました。
●無資格での霊視「法律に抵触するものではない」が・・・
ーーこの霊能者をなんらかの罪に問うことはできるのでしょうか。
まず、いわゆる霊能者と名乗るのに特定の資格等が必要になるわけではありません。したがって、「無資格」で“霊視”することが何らかの法律に抵触するものではありません。
ーー霊能者が「先祖の霊が怒っている」などと言ってお祓いを勧めることはどうでしょうか。
その点については恐喝罪や詐欺罪にあたる可能性があります。
恐喝罪は、相手を「恐喝」して畏怖させ、財物を交付させて利益を得る犯罪です。「恐喝」とは、財物を交付させる目的のために行われる「害悪の告知」を意味します。
ご相談の例では、「先祖の霊が怒っている」として、このままにしておけば霊視の対象者やその家族の命や健康や財産に不利益が起こることを明示または黙示に告げるなどして、その不利益を免れるために有料のお祓いを受けたほうがよいという趣旨の言動をとることが恐喝行為にあたる可能性があります。
ーー詐欺罪はどうでしょうか
詐欺罪は、相手を騙し、相手の錯誤を利用して財物を交付させて利益を得る犯罪です。
昭和31年11月20日の最高裁判所判決では、当該判決で言うところの「祈祷師」が自身の行う祈祷に治癒効果等がないことを信じているのに、いかにもその効果があるように言って騙して祈祷の依頼を受け、祈祷料等の名目で支払を受けた事件につき、詐欺罪にあたると判断しています。
もっとも、霊能者と名乗る者が、自身の霊能力を否定することは通常考えられません。
この点、過去の多くの裁判例では、(1)その霊能者が、勧誘時の話法に関するマニュアルや研修に従って被害者に霊視やお祓いを勧めており、(2)そのマニュアルや研修が、不安を煽ったり、有料のお祓い等に誘導しやすくしたりするための話法を中心に解説している事実等をとらえ、真実の霊能力に依拠した霊視やお祓いではないことを霊能者自身が認識していた、と判断しています。
私たちは、通常、そのマニュアルや研修資料を入手することができませんが、たとえば霊能者を名乗る者が、組織的に活動している背景があり、その組織の霊視やお祓いに関し、同様のうたい文句で祈祷料等を支払わされたと訴える被害者が複数現れてくる場合、詐欺にあたる可能性を疑ってよいと思います。
ーーこの他、相談者が検討すべきことがあれば教えてください
民事的には、相手を怖がらせたり、騙したりして金銭を交付させているのであれば、その契約を取消したり、不法行為に基づく損害賠償請求を行うことができます。
また、令和元年6月15日から施行されている改正消費者契約法第4条第3項第6号は、霊感などの合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として、このままでは消費者に重大な不利益を与える事態が生じると不安をあおり、その消費者が合理的な判断ができない状況下で契約を締結した場合には、その契約を取消すことができると定めています。
したがって、明確に恐喝や詐欺にあたるような重大な違法性がある契約でなくても、本改正法を利用することで、それ以前よりは容易に契約を取消し、支払ったお金を取り返せることになりました。
ただ、いずれの方法をとるにしても、法律の要件を充たすか特に判断が難しい問題ですから、疑わしい勧誘や支払事実が確認されたら、できるだけ速やかに警察や弁護士に相談することをお勧めします。