ゴルゴ松本、少年院で「命の授業」10周年 「チャンスはくる、だから自分を追い込むな」
「命」を決めるゴルゴ松本さん

ゴルゴ松本、少年院で「命の授業」10周年 「チャンスはくる、だから自分を追い込むな」

「命」「炎」などの人文字ギャグで知られるお笑いコンビ「TIM」のゴルゴ松本さん(54)は、10年前から少年院で漢字や言葉をテーマにしたボランティア講演「『命』の授業」を続けている。

「使命」「ライフワーク」とまで語る、この活動を通じて感じたこと、考えたこと。そして悩める人たちに訴えたいことをこのほど、新著『「命」の相談室』(中公新書ラクレ)にまとめた。

ゴルゴさんは「『命』のためなら迷わず逃げていい」と力説する。逃げることの重要性、そして逃げたあとの振る舞い方を聞いた。(執筆家・山田準)

●「少年院は天国だぞ」

1997年正月、実家に近い東武東上線の男衾(おぶすま)駅のホームから秩父の山並みを眺め、山頂に浮かんで見えた「命」という文字。それが、ゴルゴさんと「命」という文字を結びつける、宿命的な出会いだった。

ゴルゴさんがお笑いを始めたのは1994年。役者からの転身で当時27歳、周囲からは「その歳で?」とバカにされたという。しかし、この「命」など、人文字ギャグでブレイクし、一躍人気者になった。

下積み時代から、米沢藩主・上杉鷹山の「為せば成る、為さねばならぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」という言葉を支えに、努力を重ねてきたという。

そんなゴルゴさんが、運命に導かれるように、少年院でボランティア講演をおこなうようになったのは2011年11月から。少年たちの就労支援をしていた元編集者・北村啓一さん(故人)の強い誘いがきっかけだったという。

最初は東京都の多摩少年院。以来、北は北海道から南は福岡県まで、全国48カ所ある少年院のうち、29カ所を訪問。講演回数は約40回にも及ぶ。コロナ禍で一時休止していたものの、昨年10月、赤城少年院(群馬県)で再開した。

「少年院にいる子たちも、目つきや表情は普通の子と変わりません。少年院の中では三食食べることができて、布団で寝ることができて…。(少年院の)外では布団で寝たことがなく、まともに食べさせてもらえない子もいますから。だから、少年院の中で守られている間は、みな同じ目と顔なんです。

でも、外に出て違う環境に流されると、また道を踏み外す予備軍になってしまう。だから『少年院に来たことは不運ではない。ここは天国だぞ。天国へ来たと思って生まれ変われ』って言います。

あと、『ありがとう』は基本。『いただきます』は『命をいただきます』という意味。『ご馳走さま』の『馳走(ちそう)』とは、おもてなしのこと。忙しい中、作って下さった行為に対して、『ご』と『さま』をつけて『ご馳走様』。これらは感謝の言葉。これが言えなかったら人間として駄目だぞ。親や周りの大人が教えてくれなかったことを、僕はただ伝えているだけ」

家庭環境に問題がある子どももいるためか、少年院には身体の小さい子どもが少なくないという。

●「命」の授業が「使命」に

そもそもゴルゴさんには、少年院にいる子どもだから、という意識はない。教育不足や愛情不足などで、たまたま道を踏み外した子どもたちに、一人の責任ある大人として手を差し伸べ続けていきたい――。それしか頭にないという。

「環境は違っても子どもたちはみんな一緒。自分にとっては年下の人間です。壁は作らず、先に生まれた大人としてできることを伝えているだけ。道を踏み外した少年院の子もそうだけど、とにかく何かが起きたあとが大事。どう生きていくか。そのヒントを伝えられれば。全員を変えるのは無理でも、一人でも笑顔で生きていける子どもが増えてくれればいい」

ゴルゴさんは、言葉は「言霊(ことだま)」だという。魂が宿っている。正しい方向へと導く力にもなるが、使い方を誤れば凶器にだってなる。

「僕は言葉の力を信じています。だからこそ、良き言葉を子どもたちに届けたい。悪い言葉は絶対に目に入れない、耳に入れないこと。もし目や耳に入ってしまったら、良い言霊、良い音できれいに清めてほしい。ひどいことを言われても、同じやり方で返したらダメ。否定や悪意に満ちたものは、言った人に戻ってきますから」

少年院を出た少年から手紙が届いたこともあったという。母への感謝と将来の目標がつづられていたそうだ。

「命の授業」は、子どもたちと魂で向き合う充実した時間。もはや、自身の「使命」になっているとゴルゴさんは語る。

「漢字はとても視覚的な『芸術作品』。少年院を出て、また道を踏み外しそうになっても、講演で話した漢字を目にしたとき、『少年院で見た字だ』と、一瞬とどまるかもしれない。そのあとは自分との戦いですが。でも、立ち直るきっかけだけは残してやりたい。足腰が立って、言葉をしゃべれる限り続けたい」

●「環境がダメなら逃げて良い」

ゴルゴさん自身もまた、「命の授業」から多くのことを感じ、学び、そして考えてきたという。中でも強調するのが、「命や人生を守るためには逃げても良い」ということだ。少年たちに限らず、広く悩みを抱えている人たちに伝えたいという。

「自分の命が危なくなったら逃げる。それは負けではない。逃げるが勝ち。たとえば、いじめるようなヤツがいる学校なら、行かなきゃいいんですよ。津波が来たらみな逃げるでしょ。それと一緒。危ないと思ったら、絶対逃げて下さい。これが第一。

逃げるとは、良くない兆しから走って逃げる、回避するという意味。とにかく、命より大切なものなんてない。きつければ逃げる。でも10年後はわからないぞ、と。まずは逃げる。そして目線を変えて、いつか勝つ」

歴史好きのゴルゴさん。「『韓信の股くぐり』じゃないけど、今は土下座しても、逆転は必ずある」と力説する。

つらいことから目を背け続けて良いということではない。大事なのは問題が自分の側にあるのか、環境の側にあるのかだという。

「自分がやろうとしていることで障害があるのなら、逃げるのではなくて、乗り越えなくてはならない。でも、いじめとか、心が追い込まれていって死のうとか思う状況は、その環境自体がダメ。だから、逃げて違う空気を吸うこと、環境、目線を変えることが大事。

みなさん、下を向いていませんか、携帯を見ていませんか。空を、星を、花を見て下さいね、ということ。森の中で空気を吸って下さい。酸素は命のもと。体に酸素を入れて下さい」

●「道なんかいくらでもある」

悩んでいるときは「心の視界」が狭くなり、自分を客観的に見られなくなる。だから一度逃げて、目線を変える。そして逆転のための力をたくわえる。環境に恵まれず、逃げられなかった子どもたちにとっては、少年院こそがそういう場なのかもしれない。

「頑張って生きていけば、10年後、20年後、逆転は必ずあるから。負けて終わりじゃない。逆転勝ちはスポーツだけじゃないからね。長い人生、焦るな、慌てるな、あきらめずに行けよ。そして、逆転するぞ! という思いを持ち続けてもらいたい」

「辛い」に棒を一本加えれば「幸せ」になる。一本道に見えても逃げて環境を変えれば、別の道が視界に入ってくる。それは遠回りに見えるかもしれないが、信じて一歩を踏み出せば、いつか景色は開ける。

「道なんかいくらでもある。命にかかわる危険なら、逃げる、逃れる、回避する。だって命より大切なものなんてないんですから。『急がば回れ』ですよ。

昔も今も、危機、危険からの逃げ方、回避術って、本当に重要ですよね。『「命」の相談室』の次は、『逃げ方』っていう(タイトルの)本を書こうかな。うん、逃げ方はありかもしれない(笑い)」

よく本を読むというゴルゴさん。「『木』に横棒(一)が加わった『本』には『根っこ』という意味がある。人生の土台です」

(プロフィール)
【ゴルゴ松本(まつもと)】
1967年4月17日、埼玉県深谷市(旧・花園町)生まれ。熊谷商野球部で1985年春の選抜(甲子園)に出場。1994年に2歳上のレッド吉田とお笑いコンビ「TIM」を結成。コントと「命」「炎」などの人文字を使った一発ギャグでブレーク。2011年から全国の少年院でボランティア講演を実施。著書に『ゴルゴ松本 あっ「命」の漢字ドリル』(プレジデント社・2022/2/4 発売)、『あっ! 命の授業』(廣済堂出版)、『ゴル語録』(文藝春秋)がある。

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