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2021年05月05日 09時42分

『イチケイのカラス』モデルの元裁判官が語る"絶望の司法"「弁護士出身判事、現実でも増員を」

 『イチケイのカラス』モデルの元裁判官が語る"絶望の司法"「弁護士出身判事、現実でも増員を」
木谷明弁護士

4月にスタートしたフジテレビ系月9ドラマ『イチケイのカラス』。「モーニング」誌の人気連載が原作で、民放ドラマで初という刑事裁判官を主人公とした硬派な内容ながら、初回の世帯視聴率13.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を皮切りに、2桁台の高視聴率を維持している。

自由奔放な弁護士出身の裁判官・入間みちお(竹野内豊)と、将来を嘱望されるエリート裁判官・坂間千鶴(黒木華)という2人の若手の成長を見守りつつ、ひそかに刑事裁判の改革を目指すベテラン裁判官の駒沢義男部長(小日向文世)の3人がストーリーの中心だ。

原作者の浅見理都さんが「駒沢部長のモデルの1人」というのが、元東京高裁部総括判事の木谷明弁護士(83歳)。裁判官時代は多くの無罪判決を出しながら、一度も覆されたことがないという逸話を持つ。

弁護士に転じた現在は、冤罪を訴え、裁判のやり直しを求める人たちの弁護活動に力を注いでいる。木谷弁護士に、「99.9%」が有罪になる刑事裁判の現状やそのあるべき姿などについて聞いてみた。(ライター・山口栄二)

●裁判所「有罪になったら諦めろ」と言わんばかり

――「恵庭女性殺人事件」(※)の第2次再審請求審でも弁護人をされましたが、最近最高裁への特別抗告が退けられました。木谷さんが弁護人を務めた再審請求の結果を勝ち負けでいうと何勝何敗ですか。

「一応2勝10敗ですが、その2勝は、私が今は実質的な戦力になっていない大崎事件の第3次再審請求でのもので、しかも最高裁で取り消されてしまいました。実質的には全敗です。恵庭事件や大崎事件は、どう考えても、有罪になる事件ではないのですから、この現状は異常です」

【※】北海道恵庭市で2000年、女性会社員を殺害し、燃やしたとして元同僚が殺人と死体遺棄の罪で服役した事件

――刑事裁判の現状をどう見ていますか。

「絶望的ですね」

――具体的にどんな部分が絶望的ですか。

「先ほども少し述べましたが、最高裁は、私が関係している大崎事件で1・2審の再審開始決定を取り消して、こともあろうに再審請求自体を棄却してしまいました。理由の説得力は全くありません。

また恵庭事件では、2年半も握った末、実質的に何の理由も説明しない『三行半決定』で特別抗告を棄却しました。

さらにその後、飯塚事件という死刑再審事件で、最大の証拠であるDNA鑑定が崩れたのに実質的な総合評価をしないまま、他の状況証拠で有罪が認定できるという驚くべき理由で、特別抗告を棄却しました。

一連の決定は、最高裁が『裁判で有罪とされた以上、裁判が誤っていたとしても諦めろ』と突き放したに等しく、司法の役割を放棄しています」

PicStyle / PIXTA

●「弁護人の主張に対し本気で考えることをしない」

――下級審の方はどうですか。

「こういう最高裁の動きを見ているためでしょうか、弁護人の主張にまともに耳を貸そうとしない裁判官が多くなりました。

例えば、私が弁護人をしているクレプトマニア(窃盗症)の歯科医は、窃盗罪で公判中に万引きをして後日逮捕され、その際に携帯電話を押収されました。

私たちは、本人は犯行当日に取調べを受けており争っていないので携帯電話を押収する必要性はない、として押収処分の取消を求める準抗告をしたのですが、その直前に検察は携帯電話を還付してきました。最高裁の先例によると、こういう場合、準抗告は目的を達成して利益を失うとされているのです(=準抗告が退けられる)。

しかし、私たちは『携帯電話は普通のモノとは違う。携帯が還付されても、その中にあった情報は捜査側が抜き取って利用することができるので、押収処分そのものを取り消す必要がある』と力説したのです。

ところが、裁判所は実質的な理由を何も説明しないまま、『弁護人の主張を踏まえても、抗告の利益は失われている』として、平然と私たちの主張を切り捨てました。

特別抗告もしましたが、例によって三行半決定です。要するに、地裁も最高裁も、弁護人の主張に対し本気で考えることをしないのです。これでは思考停止というか思考放棄していると言われても弁解できないではないですか」

xiangtao / PIXTA

●「裁判官が官僚的になった」

――「絶望的」といえば、刑事法学の泰斗、故平野龍一・元東大総長が1985年に「わが国の刑事裁判はかなり絶望的である」と述べた論文が有名ですが。

「当時は、なぜそんなことを言われるのか不思議でした。私は、自分なりに精一杯努力して無罪判決を出していたし、そのやり方が裁判所の中でもある程度受け入れられていると思っていましたから。

しかし、今では、本当に平野先生がおっしゃった通りになってしまっていることがよく分かります」

――その当時と今ではどう変わったのでしょうか。

「裁判官が官僚的になりましたね。いい例が、裁判官や最高裁調査官が弁護人の面談申し出に応じなくなったことです。私が裁判官や調査官だった当時、弁護人が会いたいと言えば、当たり前のように会っていました。

ところが、最近は、裁判官に面談を求めても、たいてい、『言いたいことがあれば書面で出せ』と言われて面談を断られます。調査官は今では弁護人に絶対に会いません。口頭で説明されないとわからないことがたくさんあるのにねえ」

小日向文世が演じる駒沢部長(ドラマ「イチケイのカラス」 = 毎週月曜よる9時よりフジテレビ系にて放送中=より) ©️フジテレビ

木谷明弁護士。どことなく駒沢部長(小日向文世)に似ている?

●「弁護次第で無罪になったのでは」裁判官時代の経験

――ご高齢にもかかわらず、苦労の多い刑事弁護、とりわけ冤罪事件の弁護を多く引き受けられているのは?

「法政大(法科大学院教授)の定年の前年、足利事件の再審無罪判決を勝ち取ったことで有名な佐藤博史弁護士が訪ねてきて『定年後、うちの事務所に来ませんか』と誘われました。その時の『冤罪の駆け込み寺をつくりたい』という言葉に心を動かされてしまったのです」

――その言葉に共鳴したのは、なぜですか。

「裁判官時代に、もっとしっかりとした弁護活動をしていれば無罪になったかもしれないのに、十分な弁護を受けられずに有罪になってしまった被告人をたくさん見てきました。そういう人たちのために少しでも役に立てればという気持ちが以前からあったので」

――「イチケイのカラス」では、駒沢部長が、入間みちお裁判官と師弟関係のような感じで影響を与えているように見えます。木谷さんにも「お弟子さん」的な裁判官はいらっしゃいますか。

「定年退官した人が多くなったので、今も現役で残っているのは、4~5人でしょうか。無罪判決や再審開始決定などいい判断をしてくれていますよ。中には、人事がちらついたのか変な判決をする人もいますが」

Graphs / PIXTA

●「無罪」出すと人事に響く?

――駒沢部長は30件以上の無罪判決をした人物と描かれていますが、木谷さんは、実際に30件以上の無罪判決をされています。裁判所の内外から圧力を受けたことはないですか。

「それはありません。ただ、無罪判決を多く出すと人事で不利益に扱われる例はあったようです。私はうかつにもそういう事情を知らなかったのです」

――ご自身で、人事的に不利な扱いを受けたと感じたことはありますか。

「私は、実力以上に任地に恵まれたと基本的には感謝しています。ただ、最高裁調査官の後、通常は東京の地裁か高裁に行くことが当然とされていたのに、大阪高裁の陪席判事に異動になった時は、学齢期の子どもがいたので4年間単身赴任で苦労しました。

また、大阪高裁から戻る時も、4年も単身赴任したのですから当然自宅から通勤が容易な東京に戻してもらえると思っていたのに、遠い浦和地裁に行けと言われ、自宅から1時間40分もかけて通勤することになりました。

この2つの人事の時は、薄々ながら『意地悪されたのかな』と感じました。ただ、次々に地方回りさせられて苦労した方に比べれば、ぜいたくな悩みでしたけど」

●現実でも求められる「入間みちお」的なキャリア

――「絶望的」な状況を変えるには、何が必要ですか。

「裁判官が刑事弁護を経験することですね。本来なら、一定の弁護士経験のある人の中から裁判官を任命する『法曹一元』制度が理想ですが、その実現が難しいなら、現行の弁護士任官制度をもっと拡充して、今よりもっと多くの弁護士が裁判官に任官できるようにすることです。

それと、現在も少ないながらも行われている、裁判官に一定期間弁護士を経験させる制度を、裁判官全員に広げて、任官して3年か5年たったら、必ず弁護士を経験しなければならないといった制度は、十分考えられると思います」

――刑事弁護をするとなぜいい裁判官になれるのでしょうか。

「弁護人は被告人や周囲の人たちから詳しい事情を聴く中で真実に迫ろうとします。被疑者・被告人との距離がごく近い。それに比べて裁判官は、法廷で被告人から聞くだけで距離も遠く、本当の気持ちを理解することは容易でありません。

そして、裁判官にとって被告人は、舞台の左から出てきて右に消えて行く一過性の人物です。しかし、弁護士にとっての依頼者(被疑者・被告人)は、裁判が終わっても目の前から消えません。もし裁判がえん罪であればそれが晴れるまで一生でも付き合うことになるのです。話の聞き方も自然に熱が入ります。被告人の言い分を真剣に聴いた経験は、裁判官になっても役立つはずです。

また、刑事弁護をしていると、警察や検察がいかにひどいことをしているかがよくわかります。それを知らないと、どうしても検察寄りの判断をしがちになるのです。

『イチケイのカラス』の入間裁判官のような人をもっとたくさん作るべきなのです。そうすれば裁判官の官僚化も防げるでしょう」

取材協力弁護士

木谷 明(きたに・あきら)弁護士
1963年判事補任官。最高裁調査官、水戸地裁所長、東京高裁部総括判事などを経て退官後、法政大法科大学院教授に就任。2012年弁護士登録。著書に「刑事裁判の心」、「『無罪』を見抜く」など。

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