おじいちゃん、おばあちゃんが親代わりになって、孫を育てる——。何らかの事情で祖父母が孫の世話(監護)をする家庭は決して珍しくはない。しかし最高裁がこの度、示した初判断は「祖父母は監護権の申し立てができない」という厳しいものだった。
孫を育ててきた祖父母などが、父母の代わりに未成年の子どもを育てる「監護者」になるための申し立てができるかどうかが争われた家事審判で、最高裁判所第1小法廷(池上政幸裁判長)は、「父母以外は申し立てできない」との初判断を示した。決定は3月29日付。
未成年の孫を主に世話していた祖母が、孫の母親が再婚したあと、孫と新しい父親との関係が悪いなどとして、自身を監護者に指定するよう求めていた。
一審・大阪家裁は申し立てを認め、二審・大阪高裁も「事実上の監護者である祖父母等も申し立てができる。孫も祖母と生活することを望んでいる」などとして、祖母を監護者とする決定をしていた。
一方、最高裁は、「子どもの利益は最も優先して考慮しなければならないが、父母以外の第三者が監護者の申し立てができる法令上の根拠はなく、申し立てはできない」と判断。家裁と高裁の決定を取り消し、祖母の申し立てを退けた。
また、同日付の別の審判で、最高裁は、祖父母が孫との面会交流を求めたケースについても、「第三者が面会交流を求める申し立てができるという規定はなく、第三者を父母と同一視することもできない」ことから、「父母以外は申し立てができない」との初判断を示し、高裁決定を取り消し、祖父母の申し立てを退けた。
最高裁は、父母以外の第三者による申し立てを認めない理由として「法令上の根拠がない」ことをあげているが、これまでは類似のケースでどのように判断されていたのだろうか。また、今回の決定は今後どのような影響があるのか。監護権や面会交流に詳しい森元みのり弁護士に聞いた。
●判例で「現行法の例外」認めるのは難しかったか
——父母以外の第三者による監護権・面会交流の審判申し立てについて、実務ではどのように扱われているのでしょうか。
原則として、「第三者には監護権・面会交流の申立権はない」というのが民法を素直に読んだ結論ですから、申し立て自体が少なかったと思います。
父母が子を虐待している場合は親権喪失または親権停止の制度が用意されていますので、深刻なケースではそれらの申し立てを検討していました。
ただ、まさに今回の最高裁決定の対象となった事案のように、親権喪失または親権停止が認められるほど明確な虐待等はないものの、祖父母が未成年者の監護に継続的にかかわってきて、未成年者も親より祖父母になついているといった場合、祖父母からの子の監護に関する処分の申し立てを認めた下級審裁判例が近年出ていることは知っていました。
——今回の最高裁決定について、どのように評価されていますか。
対象となった事案と同じような状況で、悩んでご相談に来られる祖父母やご親族等が多くいらっしゃいます。
たとえば、「離婚した母が子を連れて実家に帰ってきたが、そのうち母に交際相手ができて子を放置している」、「父の実家で一家で暮らしていたところ、母が不貞をして出て行った矢先に父が亡くなってしまった」、「子が母の再婚相手をひどく嫌がっているのに強引に連れて行って祖父母に会わせてくれなくなった」、「子本人が親元から逃げてきて第三者宅にいる」等々のケースです。
ですので、祖父母からの監護権・面会交流の申し立てを認めた下級審裁判例を知ったときには、子の福祉の観点から、必要性が高い場合に限って要件を整理して申し立てを認めることには実益があり、最近の潮流にも沿うものと受け止めていました。
——祖父母からの申し立てを認めることに違和感はなかったのですね。
そのため、今回の最高裁決定に少し驚いたのは事実です。とはいえ、とりわけ法的安定性が重視される家族法の分野において、父母に関する規定を第三者に(類推)適用するわけにいかないという最高裁の指摘も理解できます。
第三者からの申し立てを例外的に認める場合の申立権者の範囲その他の要件を整理することも現時点では難しく、申し立て自体を認めるなら家庭裁判所の負担が過剰となってしまうことも懸念されたのかもしれません。
また、今回の最高裁決定のうち、監護者指定に関する事件の第一審審判を見ると、母から祖母に対する人身保護請求(親権者でない者が子を監護している場合に親権者から子の引渡しを求めるために利用される手続)は棄却され確定していました。祖母が未成年者の監護を事実上継続することは容認する形で、子の実生活面の利益とのバランスを取ろうとしているように思います。
●「子どものためにできることを諦めずに模索」は変わらない
——今回の最高裁決定が今後の実務に与える影響はいかがでしょうか。
父母以外の第三者からの監護者指定や面会交流の申し立てが現行法では認められないことがはっきりしましたので、我々弁護士は、法整備がなされるまでの間、その他の方法で紛争の解決促進を図るほかないかと思われます。
ご相談に来られた祖父母等の中には、その後、粘り強く交渉を続け、自身の子また孫との円満な関係を取り戻した方や、孫等の事実上の監護を続けている方もいます。
子どものためにできることを諦めずに模索しつつ、もつれた感情を可能な限り解きほぐす努力が求められてきそうです。