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「もう前には戻れない」地下アイドルの葛藤、「コロナ解散」選んだ私たち
解散ライブのリバイバルアイ(提供画像)

「もう前には戻れない」地下アイドルの葛藤、「コロナ解散」選んだ私たち

4人組ライブアイドル(=地下アイドル)グループ「Revival:I(リバイバルアイ)」が1月27日のライブをもって解散し、2年の活動にピリオドを打った。

メンバーのうち2人は、「賃金未払い」「芸能活動の制限」をめぐって前所属事務所を提訴。その後、河西邦剛弁護士がプロデュースする異色の地下アイドルとして「再生」した。

この2年間と「コロナ禍の地下アイドル」を語った。

●どんな地下アイドル?

リバイバルアイ(以下、リバアイ)の言葉乃あやさん(25)、おぎなつみさん(24)は、前所属事務所で別のグループとして活動していた。しかし、やめることを申し入れた際に「契約が切れる5年間は芸能活動ができない」と言われ、活動を制限されたり、賃金も支払われなかったりした。

そこで、2017年11月、前事務所に対し、未払い賃金と契約解除を求めて提訴。のちに和解し、解決した。

2019年1月27日、リバアイとしてリスタートを切ったことで「弁護士プロデュースの地下アイドル」として注目を集めた。結成1周年の2020年1月27日にはファーストワンマン「-Revival 最高裁-」も成功させ、「さあ、これから」というときに、新型コロナウイルスが世界に広がる。

コロナの影響について、言葉乃さんと、河西弁護士に聞いた(取材はオンラインでおこなった)。

言葉乃さん(Zoom取材) 言葉乃さん(Zoom取材)

●コロナは「地下」にも容赦ない

言葉乃あやさん(以下、言葉乃): まず、昨年の緊急事態宣言の前後から、多くのライブアイドルが会場でライブできなくなりました。

結果、多くのアイドルがモチベーションを保てず、解散していくのを見ました。

演者側がライブしたいと考えても、運営側が活動を許可しないケースも多い。アイドルに会えなくなったことで、ファン離れも起きました。

私たちも、宣言中は自宅待機です。しかし、ライブができなくなっても、スタジオやライブ会場にはキャンセル料金を支払わなければいけなくて、収入は減っても、出費はありました。

そこで、オンライン特典会や、SHOWROOMでの配信、グッズの通販に力を入れました。東京から離れた場所のファンが、購入してくれたこともあって、いつもより売り上げは上がったんです。

オンライン特典会を含めて、4〜5月の売り上げはメンバー4人で80万円くらいです。いつもは50〜60万円です。

外に出られるようになってからも、会場での無観客ライブ配信が続きました。

●もう「コロナ前」に戻れない

河西弁護士: コロナ禍においては、お金の問題で解散したグループもありましたが、それ以上に、会場の観客の前でライブができなくなり、モチベーションを保てなくなったことが、多くのグループの解散原因でした。

画面越しで見る配信ライブよりも、やはり、会場でライブするからこそ良かったんです。

コロナ禍の前の、満員の会場で盛り上がる最高の楽しさを知っていると、演者も、ファンも、配信では満足できない。

しかも、これから先、前と同じような形でライブができる見込みすら立っていない。現実的に、アイドルには活動の年齢制限もある。5年後、コロナが収束したとして、アイドルとしてステージに立てる保証はない。

ファンの前でステージに立てるのかわからないという状態は、とても残酷なんです。前と違う形で再開できたからといって、手放しで喜べるわけではありません。

リバアイは、昨年の宣言後については、制限があるものの、なるべくステージに立てる工夫をしてきました。

言葉乃 : お客さんを入れてライブをするにあたり、ガイドラインを作りました。まだ何がOKで何がNGか境界線もなかった。感染対策が大変です。

他のグループとの合同ライブをするにしても、リバアイは参加頻度を減らし、楽屋を別にしたり、入り時間をギリギリにしました。会場が声出しをOKにしていたとしても、リバアイの出演のときだけ声出しNGをアナウンスしてもらっていました。

声出しOKライブ、コールOKの現場には、「前の時代の楽しさ」があるので、動員が増えます。アイドルや会場によって、対策は一律ではありませんでした。

1年前の1月27日にワンマンライブを成功させて、さあこれから売れていくためのプロモーションを考えていこう。そんなときに、感染対策に追われ、プロモーションできなかった。コロナに邪魔されました。

解散ライブの様子(提供画像) 解散ライブの様子(提供画像)

●流されてコンカフェ嬢 コロナに怯えて消える青春

コロナで活動がなくなると、考える時間がいつもの倍以上あって、ネガティブなことが頭に浮かびます。

ツイッターやSNSに投稿しても、ファンから反応がないと、私ってアイドルとして存在している意味あるのかなって。

「コロナで大変だけど、会いにいきて」と発信しても、「コロナだから行けないよ」と返されてしまう。前は、叩いてくるアンチがいても、励ましてくれる信者もいた。コロナのあとは、励まして肯定してくれる人さえいなくなってしまった。

宣言中でも、多くのコンカフェ(コンセプトカフェ)やメイドカフェは営業していたので、メンタル面や経済的な問題でコンカフェ嬢になる子が多かった。

「夜のお仕事」を始めた子もいました。リークされて事務所にバレて、クビにされることもありました。

ーー自分たちも感染するという恐怖や不安はありませんでしたか?

ありました。実際に、同じライブに出演したアイドルがコロナに感染して、私たちが濃厚接触者になったこともありました。PCR検査を受けて、みんな陰性と判定されました。

こんなときに、ライブなんてするなよという声もけっこうあります。その意見は理解できます。でも、アイドルをやるという夢もある。その夢は20代までに叶えたい。事務所によっては年齢に制限を設けて、25歳までとしているところもあります。

いつ終わるのかわからないコロナにおびえていたら、私たちの青春や、若い時代が吸い取られていきます。

やれることは今した方がいい。今動かずして、いつ動くのか。ライブアイドルも、多くある仕事のひとつとして、暖かい目で見て欲しいんです。

リバアイは結局は解散という道を選びました。私のなかでは演者として、やりきったという思いがあります。メンバーとも話し合い、解散することにしました。

●ファン無言の解散ライブ

解散ライブの会場は、キャパ600人でしたが、コロナで200人制限があり、満員ではないけど、175人が来てくださいました。前売りは完売して、今までで一番入った公演です。

感染対策として、問診票を用意し、検温と消毒を実施。お客さん同士の距離を保つため、足マークを床に配置しました。ステージと客席にも1メートルの間隔をあけて、前2列は椅子席です。

お客さんにはフェイスシールドとマスクをつけてもらいました。歌うのも、発声も禁止です。コールや、ミックス、サークル(会場を走り回る行為)、モッシュ、リフトなどの接触する行動もやめてもらいました。

無言のまま手拍子でコールしたり、拍手だけでアンコールしたりしてくれました。

最後に、新しく「RERAISE(リレイズ)」というグループでスタートすることをサプライズで発表しました。フェイスシールドしていても、泣いてくれるのはわかりました。

私は河西さんと一緒にプロデューサーとして運営に回ります。

●地下アイドルのトラブルなおも

ーー地下アイドルをめぐるトラブルはいまでもありますか

河西弁護士 : ライブアイドルから相談を受けることがあります。トラブルにおいて、圧倒的に多いのが、「やめられない」ことです。

やめると言えば、事務所から違約金や損害賠償を請求されたり、芸能活動を何年間も制限される。

あやさん、なつさんらが訴訟提起したのもそれが原因でした。事務所が作成する契約書は対等なものではなく、タレントを縛る手段になっている。

契約書に違約金の条項があっても、事務所からの請求はほとんど認められることはありません。契約の解除通知を送ると、その段階でほとんどの問題が解決します。

ほとんどのライブアイドルは個人事業主として活動していても、運営側からの指示のもとで活動し、労働者性が認められます。

裁判を積み重ね、リバアイが活動をするなかで、一石を投じられたのではないかと思います。

アイドルらの低い給料も問題ではあります。ERA(日本エンターテイナーライツ協会)のアンケート調査では、全体の4分の1が「月々の報酬はない」と回答。全体の4分の3が「5万円未満」でした。ただ、給料が安いからなんとかしてくれという相談はありません。

言葉乃 : 0.1%バックのアイドルもいます。チェキ1枚の撮影が2000円で、アイドルに入るのは20円だとしても、それでもやめている子が少ない。お金はバイトで稼げる。好きでステージをやっている子が多い。

河西弁護士 : 「安いからやめたい。でもやめられない」というのが問題ですね。

●アイドルが裁判を起こすと、芸能活動に支障はあるのか

ーー和解したあとでも、裁判を起こしたことで芸能活動に不都合はありましたか?

言葉乃 : イベントの運営や、ライブ会場のなかには、前事務所と関わりがあるということで、所属アイドルとの共演を許してもらえないことがありました。

一方で、だんだんと、出演の出番を離すことで対応してくれるところもありました。

河西弁護士 河西弁護士

河西弁護士 : 前事務所から圧力があったのか、イベンター側が忖度したのかはわかりません。

この2年間、裁判を乗り越えて、ステージを再開できたことで、リバアイの価値を示せたと思います。

芸能トラブルの特徴としては、裁判が終わったあとにも、業界のルールや圧力によって、活動を再開できないという問題があります。

お金や時間がない方に限って、相談する余裕もない。法律事務所がプロデュースして、メンバーが元裁判経験者。同じステージに立っている人になら相談しやすい。

新たに生まれる「リレイズ」というグループにも、裁判を経験したアイドルをプロデューサーとして残し続ける。また、前の事務所との契約トラブルがあったメンバーもいる。

リバアイのメンバーもそうでしたが、契約書があるから従わないといけないと思ってしまう。契約書があっても、弁護士に相談して、お金を払わずにやめることができます。弁護士事務所の敷居が高いなら、あやさんやメンバーに相談してほしいです。

言葉乃 : 活動中、ライブアイドルから「河西さんを紹介して」と頼まれて、つないだことが何度かあります。

今回、演者からプロデューサーになり、河西さんとクリーンな環境を作っていきたい。リバアイは4月以降、出たいライブがすべてなくなり、実質、コロナでつぶれたようなものです。

リレイズのコンセプトは「人はまた立ち上がれる」です。リバアイで実現できなかったことを引き継いでいきます。

リバアイは武道館ライブを目標にしていましたが、リレイズでは、お台場「ZEPP」でのライブを目標にします。

プロフィール

河西 邦剛
河西 邦剛(かさい くにたか)弁護士 レイ法律事務所
「レイ法律事務所」、芸能・エンターテイメント分野の統括パートナー。多数の芸能トラブル案件を扱うとともに著作権、商標権等の知的財産分野に詳しい。日本エンターテイナーライツ協会(ERA)共同代表理事。「清く楽しく美しい推し活〜推しから愛される術(東京法令出版)」著者。

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